彼女に浮気された俺がミステリアスな美貌の同期と××したら溺愛沼から逃げられなくなりました

26.②

　今度は電話がかかってきて、いよいよ貴臣の家族との対面に嫌でも緊張感が募る。
「もしもし？」
『ごめんね、急な話で』
「一緒に来た時点で、想定はしてたから安心しろ」
『ありがとう。今どこに居るのかな。まだネカフェ？』
「いや、南口の方にあるカフェに居るよ」
『そうなんだ？』
「俺がそっち行くよ。どこに行けば良い？」
『じゃあ北口の交番に来てもらって良いかな』
「交番な。分かった、じゃあ後でな」
　電話を切ってからカフェを出て駅に引き返し、週末で混雑する駅を歩き回ってなんとか北口に出ると、ロータリーのある広場に出て指定された交番に向かう。
「圭吾！」
「おう」
　大きく手を振る貴臣の隣には、貴臣と顔立ちがよく似た女性が立っていて、その隣には爽やかな感じの若い男性も立っている。　
「初めまして。貴臣さんには日頃からお世話になっております。同僚の本多圭吾と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。貴臣の母です」
「初めまして。弟の伸彦のぶひこです」
「ごめんね圭吾。ノブまでついてきちゃって」
「いや、構わないよ。でも立ち話もなんだし、どこかに移動しますか」
「そうだよね。話がしやすい個室の店とかないかな」
「この辺で？　俺の知ってる店で良ければ、ランチもやってるよ」
　伸彦くんは俺に嫌悪感を抱く様子もなく、笑顔を浮かべて確認してみると言って、どこかに電話をかけ始めた。
　一方で貴臣のお母さんは動揺が隠せない様子で、俺と目が合うと気まずそうに苦笑して、すぐに目線を外してしまう。
　これが当たり前の反応だろう。気にしても仕方がない。
「個室大丈夫だって。すぐそこだから行こうか」
「なんでノブがそんな張り切ってるんだよ」
「母さんだけだと会話にならないからだろ。兄貴は頑固だし、聞く耳持たないし」
　兄弟がわちゃわちゃやり取りするのを眺めていると、貴臣のお母さんが不意に俺に話し掛ける。
「今日は貴臣を連れてきてくださって、本当にありがとうございます」
「いえ」
「あの子から聞きました。その……うちの込み入った事情もご存知だって」
「貴臣さんが勘当された話ですか」
「ええ、お恥ずかしい限りです」
「家族だからこそ、行き違いがあることもあると思います。とりあえず、お店に行ってからお話ししましょう」
　前方で振り返って俺たちを呼ぶ貴臣に手を挙げて反応すると、そこから五分も歩かずに、伸彦くんの案内でお洒落なレストランに到着した。
「普段はダイニングバーなんだけど、土日はランチもやってて、結構美味しいんだよ」
　陽気な様子の伸彦くんがそのまま店員に声を掛け、個室へと案内される。
　凝った造りの店内を進み、アンティークソファーが四脚置かれた丸テーブルの個室に案内されると、しばらくしておしぼりとメニューを持った店員がやってきた。
「パスタは手打ちの生麺なんだよ」
「ノブ、お前テンションどうしたんだよ」
「え？　いや、なんか緊張してきちゃって」
「なんでお前が緊張するんだよ」
　また兄弟が楽しげに騒いでる様子を見て、俺はなんとなく安心する。
　お祖母ばあさんが激怒して親父さんには勘当されたなんて言ってたけど、聞いていた通り、少なくとも母親と弟には拒絶されてなくて仲も良いみたいだ。
　メニューを見て注文を決めると、食事が運ばれてくるまで雑談で場を濁しつつ、俺たちはようやく昼食を取ることになった。