彼女に浮気された俺がミステリアスな美貌の同期と××したら溺愛沼から逃げられなくなりました

23.②

　缶ビールを合わせて乾杯すると、聞いて良いのか分からないが、貴臣の様子が心配で結局質問してしまう。
「で？　なんでそんなことになったんだ」
「うちのじいちゃんさ、派手な遊び人で、親父がガキの頃に女作って出て行ったらしいんだわ」
「なんだよ。いきなり話ぶっ飛んだな」
「突然なんの話だよと思うよな、ごめん」
「おう。いまいち話が繋がらなくて混乱してる」
「でも繋がってるんだよ。じいちゃん、どうやら本当は男と逃げたらしい」
「マジか！」
　缶ビールをテーブルに叩きつける勢いで置くと、びっくりするだろと貴臣が苦笑する。
「親父もその話はトラウマみたいでさ。だけど、ばあちゃんがしつこく言うらしいんだよ。貴臣はあの人と同じだって。男色の目をしてるって」
「女の勘ってやつか」
「実家にも寄り付かないし、本当のところはどうなんだって話になって」
「話したのか？」
「うん。ばあちゃんは激怒するし、止めに入った親父も微妙な反応で、もうぐちゃぐちゃ」
　貴臣は缶ビールを飲み干すと、空き缶をテーブルに置いてソファーにもたれ、頭を抱えて可笑しそうに笑う。
「他の家族は？」
「意外だったけど母さんは気付いてたっぽい。兄貴や弟や妹は驚いてたけど、それもアリなんじゃない？　みたいなフワッとした反応だったよ」
「だったらなんで縁を切ってきたんだよ」
「色々話し合って、親父がそれでも受け入れることが出来ないって答えたからかな」
「そんな……」
「ばあちゃんが母一人で苦労したのを見てるし、親父からしたら、そりゃ受け入れ難いでしょ。嫌悪の対象なんだもん」
「だからってお前、絶縁する必要はないだろ」
「かも知れないけど、居ないものと思ってくださいって言ってきちゃったよ」
「貴臣……」
　困ったように眉を下げ、寂しげに笑う貴臣を見ていると、俺の方が悲しくなって咄嗟に抱き締める。
「なんでお前がそんな苦しそうなんだよ」
「だってお前、母ちゃんとか兄ちゃんたちは、これからだって上手くやっていける相手じゃないか」
「そうかも知れないね」
「全部諦める必要なんかないじゃん。なんで手放してきてんだよ」
「ごめん」
「謝んなよ……」
「ごめんって」
　貴臣は体を離すと、俺の顔を覗き込んでからありがとうって呟いて笑う。
「俺、寂しくてひとりぼっちだからさ、そばに居てくれよな」
「卑怯な言い方するんじゃねえよ」
「うん。じゃあ好きだからキスして」
「なんだそれ」
　ごつんと額を合わせて軽く睨むと、ようやく貴臣がいつものような笑顔を見せ、噴き出すように笑ったので、俺も可笑しくなって笑い声をあげる。
「お前はひとりぼっちじゃない。今は無理でも、家族だって支えてくれる日が来る」
「そうかな」
「親父さんは、引くに引けないだけだと思う。お前のことを受け入れられないんじゃない。じいさんのトラウマから抜け出せないだけだよ」
「母さんもそんなこと言ってたな……」
「だろ？　だから大丈夫。お前はちゃんと俺以外にも愛されてるよ」
「そうなのかな」
「そうでなかったとしても、俺はお前のこと、ちゃんと愛してるから」
「……うん」
　ぽんぽんと頭を撫でて落ち着かせてやると、貴臣は少し落ち着いたのか、今度は劣情を孕んだ視線を向けてくる。
「で？　キスはしないの」
「お前ってやつは、マジで」
　俺はそう答えながらも、降参したように貴臣の唇をキスで塞ぐ。
　くちゅんと音を立てて舌を絡めると、ほろ苦いビールの味が口の中に広がって、なんだか初めてキスをした日のことを思い出す。