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22.③
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四人でホットプレートとガスコンロを囲み、片方で鍋、もう片方では餃子を焼いて乾杯する。
「なにに乾杯する?」
「回り回って知り合いだったこと?」
「ま、とりあえず乾杯」
「乾杯!」
四人でグラスを合わせると、キンキンに冷えたビールを飲んで、焼きたての餃子を頬張る。
「美味っ」
「それ将生の手作りだぞ」
「マジですか」
「手作りなんて大袈裟な。包んだだけだよ」
「将生さん、料理は好きって言ってましたもんね」
方々で喋り始めると、誰がなんの話をしているのか、急に騒がしくなってくる。
「改めて自己紹介した方が良い?」
将生さんは俺の顔を見て、聞きたいことはないかと首を傾げている。
「じゃあ、えっと……兄ちゃんとはどこで知り合ったんですか」
「諒太と? 高校の同級生だよ」
「そんな前から⁉︎」
驚いて兄を見ると、複雑そうなバツの悪い顔をしている。
「そう。でもその頃から付き合ってた訳じゃなくて、こっちで偶然再会してからだから……それでも十年以上にはなるのかな」
「こら将生。ペラペラ話し過ぎ」
「だって本当のことだろ」
兄のこんな姿を見るのは初めてで、なんとなくどこかくすぐったいような気持ちにはなったけど、嫌悪するような気持ちは微塵も浮かばなかった。
それが貴臣のおかげなのか、元々の俺の感性なのかは分からないけど、兄が好きな人と幸せに暮らしているのが純粋に喜ばしいと思える。
「それで? 貴臣くんの好きな人ってのが、まさかの諒太の弟くんだった訳だ」
「そうなんだよ。まさか実家で貴臣くんに会うとは思ってなかったから、かなりびっくりした」
「俺もびっくりしました」
貴臣が笑うと、兄も同じような顔で笑う。
「あのさ、兄ちゃん」
「ん? どした」
「えっと……これ偏見とかじゃなくて、その、俺だけ場違いなのが気になるというか」
「ああ、俺と将生はゲイなのかってこと?」
「……うん」
「女の子を好きになったことはないよ。俺も将生もね」
「そっか」
兄にもっと早く打ち明けて欲しかったとか、この中で俺だけが異質な存在なんだとか、言葉にしたい思いは沢山あるのに声がそれ以上は出てこなかった。
「圭吾くんはさ、物珍しくて貴臣くんを選んだ訳じゃないんでしょ」
不意に将生さんに声を掛けられて顔を上げる。
「ちゃんと好きなら難しく考えなくて良くないかな。ゲイかそうじゃないかって、そんなに大事?」
「俺は貴臣のこと、ちゃんと好きです。だけど、俺は今まで女の子としか付き合ってこなかったし、自分の中ではそれが当たり前だったので」
「じゃあ、キミの当たり前が変わったってだけのことじゃないかな」
「変わった?」
「確かに例外的なことかも知れないけど、圭吾くんが貴臣くんに惹かれたのは事実なんだし、そんなに難しく捉えなくて良いと思うよ」
将生さんはよく焼けた餃子を、俺や貴臣の取り皿に取り分け、沢山食べなよと優しく笑う。
「机上の空論って言うでしょ。頭の中で理屈をこねくり回したところで、現実に当てはめられるとは限らない。感情の問題だからね。それにさ、事実は小説よりも奇なりって言うじゃない?」
ゲイだからとかそうじゃないとか、そんなことに拘って屁理屈を捏ねてる間に幸せを取り逃すぞって意味なんだろうか。
するとそれまで貴臣となにかを話してた兄が、呆れた顔で将生さんを見た。
「将生、お前は楽観的すぎるよ」
「えー。でも圭吾くんが気にしてるのはそういうことだろ」
兄と将生さんが目の前で少し言い合うので、焦った俺は分かりますと答える。
「無駄に考えて駄目にするな、今の気持ちを大事にしろ。ってことですよね」
「そうそう。俺はそれが言いたかったんだよ」
「本当かよ」
揉めながらもどこか楽しそうな二人を見つつ、隣で困ったような顔をする貴臣の手をさりげなく握ると、貴臣は小さく頷いて食べようと呟く。
「それにしても、兄ちゃんたちはその……結婚じゃなくて、なんだっけ。パートナーシップ? みたいなのは考えないの」
「なんだよお前、グイグイくるな」
「なにに乾杯する?」
「回り回って知り合いだったこと?」
「ま、とりあえず乾杯」
「乾杯!」
四人でグラスを合わせると、キンキンに冷えたビールを飲んで、焼きたての餃子を頬張る。
「美味っ」
「それ将生の手作りだぞ」
「マジですか」
「手作りなんて大袈裟な。包んだだけだよ」
「将生さん、料理は好きって言ってましたもんね」
方々で喋り始めると、誰がなんの話をしているのか、急に騒がしくなってくる。
「改めて自己紹介した方が良い?」
将生さんは俺の顔を見て、聞きたいことはないかと首を傾げている。
「じゃあ、えっと……兄ちゃんとはどこで知り合ったんですか」
「諒太と? 高校の同級生だよ」
「そんな前から⁉︎」
驚いて兄を見ると、複雑そうなバツの悪い顔をしている。
「そう。でもその頃から付き合ってた訳じゃなくて、こっちで偶然再会してからだから……それでも十年以上にはなるのかな」
「こら将生。ペラペラ話し過ぎ」
「だって本当のことだろ」
兄のこんな姿を見るのは初めてで、なんとなくどこかくすぐったいような気持ちにはなったけど、嫌悪するような気持ちは微塵も浮かばなかった。
それが貴臣のおかげなのか、元々の俺の感性なのかは分からないけど、兄が好きな人と幸せに暮らしているのが純粋に喜ばしいと思える。
「それで? 貴臣くんの好きな人ってのが、まさかの諒太の弟くんだった訳だ」
「そうなんだよ。まさか実家で貴臣くんに会うとは思ってなかったから、かなりびっくりした」
「俺もびっくりしました」
貴臣が笑うと、兄も同じような顔で笑う。
「あのさ、兄ちゃん」
「ん? どした」
「えっと……これ偏見とかじゃなくて、その、俺だけ場違いなのが気になるというか」
「ああ、俺と将生はゲイなのかってこと?」
「……うん」
「女の子を好きになったことはないよ。俺も将生もね」
「そっか」
兄にもっと早く打ち明けて欲しかったとか、この中で俺だけが異質な存在なんだとか、言葉にしたい思いは沢山あるのに声がそれ以上は出てこなかった。
「圭吾くんはさ、物珍しくて貴臣くんを選んだ訳じゃないんでしょ」
不意に将生さんに声を掛けられて顔を上げる。
「ちゃんと好きなら難しく考えなくて良くないかな。ゲイかそうじゃないかって、そんなに大事?」
「俺は貴臣のこと、ちゃんと好きです。だけど、俺は今まで女の子としか付き合ってこなかったし、自分の中ではそれが当たり前だったので」
「じゃあ、キミの当たり前が変わったってだけのことじゃないかな」
「変わった?」
「確かに例外的なことかも知れないけど、圭吾くんが貴臣くんに惹かれたのは事実なんだし、そんなに難しく捉えなくて良いと思うよ」
将生さんはよく焼けた餃子を、俺や貴臣の取り皿に取り分け、沢山食べなよと優しく笑う。
「机上の空論って言うでしょ。頭の中で理屈をこねくり回したところで、現実に当てはめられるとは限らない。感情の問題だからね。それにさ、事実は小説よりも奇なりって言うじゃない?」
ゲイだからとかそうじゃないとか、そんなことに拘って屁理屈を捏ねてる間に幸せを取り逃すぞって意味なんだろうか。
するとそれまで貴臣となにかを話してた兄が、呆れた顔で将生さんを見た。
「将生、お前は楽観的すぎるよ」
「えー。でも圭吾くんが気にしてるのはそういうことだろ」
兄と将生さんが目の前で少し言い合うので、焦った俺は分かりますと答える。
「無駄に考えて駄目にするな、今の気持ちを大事にしろ。ってことですよね」
「そうそう。俺はそれが言いたかったんだよ」
「本当かよ」
揉めながらもどこか楽しそうな二人を見つつ、隣で困ったような顔をする貴臣の手をさりげなく握ると、貴臣は小さく頷いて食べようと呟く。
「それにしても、兄ちゃんたちはその……結婚じゃなくて、なんだっけ。パートナーシップ? みたいなのは考えないの」
「なんだよお前、グイグイくるな」
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