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21.②
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部屋の戸が閉まり二人の気配がなくなると、これでも気を遣っていたのか、妙な緊張がほぐれてまた糸が切れたように寝入ってしまった。
次に目を覚ますと窓の外はすっかり暗くなっていて、何時だか分からないが、だいぶ体が楽になっていた。
ゆっくりと体を起こして深く深呼吸すると、咳が出て頭がガンガンする。
部屋を出て用を足し、洗面所で手を洗ってからリビングに向かうと、兄がソファーに寝転んでテレビを見ていた。
「兄ちゃん、いま何時」
「おう圭吾、起きて平気か」
「うん。薬飲まないと」
「そうだな。とりあえずここに座れ。熱測るぞ」
兄と入れ違いにソファーに腰を下ろすと、洗濯したらしい洋服がベランダに干されて風に揺れている。
「しっかり挟めよ。お粥なら食えるか? うどんもあるけど」
「じゃあうどんが良い」
「ん。待ってろ」
いつの間にか貴臣を送ったのか、部屋にはもう貴臣の姿がなかった。
「兄ちゃん、貴臣帰ったの?」
「家まで送ったから安心しろ」
「そっか、ありがとう」
ピピッという電子音を確認して体温計を取り出すと、三十八度八分とまだ熱は高い。
「まだ熱あるわ」
「だろうな。今日は風呂はやめとけよ」
「ん。分かった」
インフルエンザがこんなにキツいとは思わなかった。
しかもよりによって、毎年きちんと受けている予防接種をサボった時に罹るだなんて。
「圭吾、うどん出来たぞ」
「ありがとう」
「大根おろしたっぷり入れてあるから、それもしっかり食え」
「分かった」
目の前に置かれたうどんを早速食べ始めると、乾燥した喉に湯気が当たって咳き込み、咳が頭に響いてガンガンする。
「お前、仕事は週明けからだったよな」
「うん」
「俺もしばらく休みだから、治るまで泊まっていけ」
「悪いよ」
「無理して帰って、貴臣くんに迷惑掛けても悪いだろ」
「ああ確かに。でも兄ちゃん彼氏は? 一緒に住んでないの」
「その辺は大丈夫だから気にするな」
「ごめんね」
「だから気にすんなって」
乱暴に頭を撫でると、腹減ったなと呟いて兄は再びキッチンに戻った。
その後少し熱が下がって楽になった俺は、貴臣のことをなんとなく兄に相談した。
別にアドバイスや明確な答えが欲しかった訳じゃないけど、家族に打ち明けられない秘密を抱えた兄には、貴臣の苦悩が理解できるような気がしたからだ。
先のことなんて誰にも分からないから、そんなに悩みすぎるなと兄は苦笑して、二人のことなんだから二人で考えて決めれば良いと諭された。
それは至極当たり前のことだけど、やっぱり俺だけがどこか違う場所に立っている気がして、仲間外れのような寂しさを同時に感じる。
俺なんかがそばに居て、貴臣に幸せを与えることが出来るんだろうか。
好きって感情だけではどうにも出来ないことが、そのうち立ちはだかることがあるかも知れない。
兄にもっと踏み込んだ質問や相談をしたいけど、兄からすれば話す予定のなかった俺が知ってしまったことも、また苦悩の引き金になってしまうのではと思うと多くは聞けなかった。
「薬飲んだよな。ならもう今日は寝てろ」
「うん」
「部屋にスポーツドリンク置いてあるから、水分はちゃんと取れよ」
「分かった。うどんありがとう」
「別に良いよ。気にすんなって」
食べた後片付けをしながら、シッシと追い払うように手を振る兄に苦笑すると、客間に向かって敷かれた布団に潜り込んだ。
次に目を覚ますと窓の外はすっかり暗くなっていて、何時だか分からないが、だいぶ体が楽になっていた。
ゆっくりと体を起こして深く深呼吸すると、咳が出て頭がガンガンする。
部屋を出て用を足し、洗面所で手を洗ってからリビングに向かうと、兄がソファーに寝転んでテレビを見ていた。
「兄ちゃん、いま何時」
「おう圭吾、起きて平気か」
「うん。薬飲まないと」
「そうだな。とりあえずここに座れ。熱測るぞ」
兄と入れ違いにソファーに腰を下ろすと、洗濯したらしい洋服がベランダに干されて風に揺れている。
「しっかり挟めよ。お粥なら食えるか? うどんもあるけど」
「じゃあうどんが良い」
「ん。待ってろ」
いつの間にか貴臣を送ったのか、部屋にはもう貴臣の姿がなかった。
「兄ちゃん、貴臣帰ったの?」
「家まで送ったから安心しろ」
「そっか、ありがとう」
ピピッという電子音を確認して体温計を取り出すと、三十八度八分とまだ熱は高い。
「まだ熱あるわ」
「だろうな。今日は風呂はやめとけよ」
「ん。分かった」
インフルエンザがこんなにキツいとは思わなかった。
しかもよりによって、毎年きちんと受けている予防接種をサボった時に罹るだなんて。
「圭吾、うどん出来たぞ」
「ありがとう」
「大根おろしたっぷり入れてあるから、それもしっかり食え」
「分かった」
目の前に置かれたうどんを早速食べ始めると、乾燥した喉に湯気が当たって咳き込み、咳が頭に響いてガンガンする。
「お前、仕事は週明けからだったよな」
「うん」
「俺もしばらく休みだから、治るまで泊まっていけ」
「悪いよ」
「無理して帰って、貴臣くんに迷惑掛けても悪いだろ」
「ああ確かに。でも兄ちゃん彼氏は? 一緒に住んでないの」
「その辺は大丈夫だから気にするな」
「ごめんね」
「だから気にすんなって」
乱暴に頭を撫でると、腹減ったなと呟いて兄は再びキッチンに戻った。
その後少し熱が下がって楽になった俺は、貴臣のことをなんとなく兄に相談した。
別にアドバイスや明確な答えが欲しかった訳じゃないけど、家族に打ち明けられない秘密を抱えた兄には、貴臣の苦悩が理解できるような気がしたからだ。
先のことなんて誰にも分からないから、そんなに悩みすぎるなと兄は苦笑して、二人のことなんだから二人で考えて決めれば良いと諭された。
それは至極当たり前のことだけど、やっぱり俺だけがどこか違う場所に立っている気がして、仲間外れのような寂しさを同時に感じる。
俺なんかがそばに居て、貴臣に幸せを与えることが出来るんだろうか。
好きって感情だけではどうにも出来ないことが、そのうち立ちはだかることがあるかも知れない。
兄にもっと踏み込んだ質問や相談をしたいけど、兄からすれば話す予定のなかった俺が知ってしまったことも、また苦悩の引き金になってしまうのではと思うと多くは聞けなかった。
「薬飲んだよな。ならもう今日は寝てろ」
「うん」
「部屋にスポーツドリンク置いてあるから、水分はちゃんと取れよ」
「分かった。うどんありがとう」
「別に良いよ。気にすんなって」
食べた後片付けをしながら、シッシと追い払うように手を振る兄に苦笑すると、客間に向かって敷かれた布団に潜り込んだ。
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