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21.①
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翌日になって、忘れていたお年玉をチビたちに渡すように母に頼むと、兄が運転する車で東京に帰ることになった。
「貴臣くん、またいつでも遊びに来てね」
「はい。ぜひまたお邪魔します」
「圭吾も、たまには正月以外にも顔出しなさい」
「……分かってるって」
怠さで覇気のない声になってしまったが、早く元気になりなさいと肩を叩かれてなんとか笑顔を作る。
「じゃあ帰るわ」
兄はそう答えると車を玄関の脇につけ、俺と貴臣は挨拶を済ませて車に乗り込んだ。
俺のせいで中からの見送りになったチビたちが、縁側の窓越しに手を振っている。今回はろくに相手してやれなかったけど、また次の機会に遊んでやりたい。
「よし、じゃあ出すぞ」
シートベルト絞めろよと言いながら兄がハンドルを切り、実家の前の道に車が出て行く。
「圭吾、気持ち悪くなったらすぐ言えよ」
「多分大丈夫」
「諒太さん。俺やっぱり、圭吾と一緒に後ろに乗ってた方が良いですかね」
「大丈夫だと思うよ」
前方で二人がやり取りするのをぼんやり眺め、ひんやりした窓ガラスに頭を預けて小さく息を吐く。
するといつの間にか眠ってしまったのか、次に目が覚めた時は、どこかのサービスエリアに車が停まっていた。
「あ、起きた?」
「貴臣……」
「諒太さん電話のついでにコーヒー買ってくるって、今降りてった」
「そうなんだ。お前は行かなくて良かったの」
「うん。そうだ、圭吾喉渇いてない?」
「そうだな、ちょっと乾燥したかも」
スポーツドリンクを受け取って喉を潤すと、甲斐甲斐しく世話を焼く貴臣に苦笑しながらペットボトルを渡す。
「座りながら寝るのが疲れるなら、シート倒すから」
「それくらい自分でするよ」
「諒太さんが、フルフラットに出来るって言ってたし、後ろに毛布積んであるらしいよ」
「そっか。なら兄ちゃん戻ったら頼むわ」
貴臣に断りを入れて車を降りると、ドアにもたれかかって外のひんやりした空気で火照った体を冷やす。
「なんだ、圭吾。立ってて平気か」
「兄ちゃん」
「シート、寝れるように倒すか」
「そうだね。横になれたら楽かも」
ドアの脇に移動して、シートを倒して寝れるように支度してくれるのを見守りながら、車を降りてそれを手伝い始めた貴臣と兄の会話を何気なく聞いていた。
どうやら兄は、俺を家に連れ帰って世話をするつもりらしい。
二人の会話にマサキという名前が何度も出てくるのは、貴臣が自分が面倒を見るからと言っているからだろう。
「用意出来たぞ。圭吾、中で寝てろ」
「ん……」
「貴臣くん、冷却シート変えてやってくれないか」
「分かりました」
シートに上がって寝そべると、確かに座ってもたれているよりはだいぶ楽だ。
貴臣は俺に毛布をかけて、額の冷却シートを取り替えると、そのまま後ろに乗ってた方が良いんじゃないかと兄と相談してる。
だけど俺はまた熱が上がってきたのか、寒気でガタガタ体が震え、毛布を必死に掴んで包まると、結局後ろに乗ることにしたらしい貴臣の手が俺の背中を優しくさすった。
それから家に帰るまで、一度も目覚めることなく眠って過ごした俺は、一通り看病用の道具が揃ってるという理由で兄の家に連れてこられた。
「圭吾、布団敷くからちょっと待ってろ」
「ん……」
リビングのソファーに腰を下ろすと、寒気でガタガタ体が震える。
「貴臣くん、悪いんだけど氷枕が冷凍庫に入ってる。タオルは洗面所にあるから適当に用意してもらって良いかな」
「はい」
二人がバタバタしてるのをぼんやりと眺めて、もしかして兄の恋人はここに住んでいるんだろうかとか、どうでも良いことが気になった。
「圭吾、客間に布団敷いたから行くぞ。立てるか」
「うん」
兄に担がれてソファーから立ち上がると、玄関脇の部屋に入ってダウンジャケットを脱がされ、着替えもせずに布団に潜り込む。
「とりあえず寝てろ。飯作ったら起こすから」
「ありがとう」
「貴臣くん、またいつでも遊びに来てね」
「はい。ぜひまたお邪魔します」
「圭吾も、たまには正月以外にも顔出しなさい」
「……分かってるって」
怠さで覇気のない声になってしまったが、早く元気になりなさいと肩を叩かれてなんとか笑顔を作る。
「じゃあ帰るわ」
兄はそう答えると車を玄関の脇につけ、俺と貴臣は挨拶を済ませて車に乗り込んだ。
俺のせいで中からの見送りになったチビたちが、縁側の窓越しに手を振っている。今回はろくに相手してやれなかったけど、また次の機会に遊んでやりたい。
「よし、じゃあ出すぞ」
シートベルト絞めろよと言いながら兄がハンドルを切り、実家の前の道に車が出て行く。
「圭吾、気持ち悪くなったらすぐ言えよ」
「多分大丈夫」
「諒太さん。俺やっぱり、圭吾と一緒に後ろに乗ってた方が良いですかね」
「大丈夫だと思うよ」
前方で二人がやり取りするのをぼんやり眺め、ひんやりした窓ガラスに頭を預けて小さく息を吐く。
するといつの間にか眠ってしまったのか、次に目が覚めた時は、どこかのサービスエリアに車が停まっていた。
「あ、起きた?」
「貴臣……」
「諒太さん電話のついでにコーヒー買ってくるって、今降りてった」
「そうなんだ。お前は行かなくて良かったの」
「うん。そうだ、圭吾喉渇いてない?」
「そうだな、ちょっと乾燥したかも」
スポーツドリンクを受け取って喉を潤すと、甲斐甲斐しく世話を焼く貴臣に苦笑しながらペットボトルを渡す。
「座りながら寝るのが疲れるなら、シート倒すから」
「それくらい自分でするよ」
「諒太さんが、フルフラットに出来るって言ってたし、後ろに毛布積んであるらしいよ」
「そっか。なら兄ちゃん戻ったら頼むわ」
貴臣に断りを入れて車を降りると、ドアにもたれかかって外のひんやりした空気で火照った体を冷やす。
「なんだ、圭吾。立ってて平気か」
「兄ちゃん」
「シート、寝れるように倒すか」
「そうだね。横になれたら楽かも」
ドアの脇に移動して、シートを倒して寝れるように支度してくれるのを見守りながら、車を降りてそれを手伝い始めた貴臣と兄の会話を何気なく聞いていた。
どうやら兄は、俺を家に連れ帰って世話をするつもりらしい。
二人の会話にマサキという名前が何度も出てくるのは、貴臣が自分が面倒を見るからと言っているからだろう。
「用意出来たぞ。圭吾、中で寝てろ」
「ん……」
「貴臣くん、冷却シート変えてやってくれないか」
「分かりました」
シートに上がって寝そべると、確かに座ってもたれているよりはだいぶ楽だ。
貴臣は俺に毛布をかけて、額の冷却シートを取り替えると、そのまま後ろに乗ってた方が良いんじゃないかと兄と相談してる。
だけど俺はまた熱が上がってきたのか、寒気でガタガタ体が震え、毛布を必死に掴んで包まると、結局後ろに乗ることにしたらしい貴臣の手が俺の背中を優しくさすった。
それから家に帰るまで、一度も目覚めることなく眠って過ごした俺は、一通り看病用の道具が揃ってるという理由で兄の家に連れてこられた。
「圭吾、布団敷くからちょっと待ってろ」
「ん……」
リビングのソファーに腰を下ろすと、寒気でガタガタ体が震える。
「貴臣くん、悪いんだけど氷枕が冷凍庫に入ってる。タオルは洗面所にあるから適当に用意してもらって良いかな」
「はい」
二人がバタバタしてるのをぼんやりと眺めて、もしかして兄の恋人はここに住んでいるんだろうかとか、どうでも良いことが気になった。
「圭吾、客間に布団敷いたから行くぞ。立てるか」
「うん」
兄に担がれてソファーから立ち上がると、玄関脇の部屋に入ってダウンジャケットを脱がされ、着替えもせずに布団に潜り込む。
「とりあえず寝てろ。飯作ったら起こすから」
「ありがとう」
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