彼女に浮気された俺がミステリアスな美貌の同期と××したら溺愛沼から逃げられなくなりました

17.② 貴臣視点

「それがまさか圭吾だったとはね」
「えっと……」
「別に隠さなくて良いよ。俺は反対なんてしないし、圭吾の性格なら遊びってことじゃないだろうしね」
　諒太さんはおめでとうと呟いて俺の頭を撫でる。
「貴臣くんも、ご家族には伝えてないんだったよね」
「……はい」
「実家に帰るのは気が重い？」
「そう……ですね。打ち明けられるような家族じゃないですし、息が詰まるというか」
「圭吾とのことは、どうするの」
「まだ分かりません。圭吾は普通の結婚も出来るでしょうし、俺がそれを邪魔する訳にはいかないと思ってます」
　圭吾の実家に来るまでは、そんなに現実的に考えてなかった。
　だけど家族に囲まれて、甥っ子や姪っ子たちと楽しそうにやり取りする姿を見ていると、圭吾には奥さんと子どもを授かる未来だって手に入れられることを見せつけられた気がした。
「君が幸せにしてやれば良いじゃない」
「俺がですか？」
「そう。貴臣くんが」
　そう答えて新しいタバコに火をつけると、諒太さんは少し厳しい顔をして口を開く。
「君を含めた俺たちみたいなのがさ、不幸って言い方はしないで欲しいから」
「すみません。そんなつもりじゃ……」
「俺もさ、この歳になってもまだ家族に打ち明けられてないから、偉そうなことを言えた立場じゃないんだけどね」
「諒太さん」
「そりゃね、弟は可愛いし幸せになって欲しい。でも幸せの形なんて人それぞれだし、形骸化された環境が必ずしも幸せとは限らないだろ」
「そうですけど」
「もっと強欲になれば良いのに」
「そんなに求めて良いんでしょうか」
「良いんじゃないの？　圭吾だって子どもじゃないし、全くなにも考えてない訳じゃないと思うよ？　今回貴臣くんをここまで連れて来たのもね」
　諒太さんは振り返り、お酒を飲んハメを外す圭吾を笑いながら、やっぱりあんまり考えてないかもと苦笑する。
「期待してしまって良いんでしょうか」
「別に良いんじゃない？　男女の恋愛でも、付き合うことイコール結婚って人も居るんだし」
　諒太さんは俺に二本目のタバコを勧めると、対等なんだからさと視線を移す。
「二人で決めることだけど、貴臣くんが遠慮したり引いたりすることじゃないと思う。圭吾はまあ、あんなだから不安にさせるかも知れないけど、あれはあれでちゃんとしてる奴なんだよ」
　あのアホ面じゃ頼りないよなと諒太さんが笑う。
　悪口を言われていることに気付いたのか、圭吾は席を立ってタバコを吸いに来ると、顔を顰めて俺の顔を覗き込む。
「兄ちゃんに変なこと吹き込まれてないだろうな」
「そんなことないよ」
「なんだ？　小三までおねしょしてた話か」
「おい！　兄ちゃん」
　諒太さんを叩いているのを見ると、どうやら本当のことらしい。
　俺も別に兄弟と仲が悪い訳じゃないけど、諒太さんのように家族と上手く関わることは出来そうにない。
「諒太さん……圭吾に話しても構いませんか」
「ん？　俺は別に構わないよ」
　諒太さんは怒った様子もなく、弟である圭吾を信頼してるのか、ゆっくりとタバコをふかして空を見上げている。
「なんだよ。二人で目配せなんかして」
「あのね、圭吾」
「ん？」
「俺、諒太さんに会うの初めてじゃないんだ」
「え？　兄ちゃんと知り合いだったの」
「うん。だけど諒太さんのプライバシーに関わるから、離れに行って二人で話したい」
「俺は良いけど、兄ちゃんは良いのかよ」
「お前になら良いよ。さ、俺はもう少し飲んでくるかな」
　諒太さんは圭吾の頭をクシャクシャッと撫でると、自分が着ていた半纏を圭吾に着せて部屋の中に戻っていった。