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17.① 貴臣視点
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夕飯が始まる頃には、圭吾の下のお兄さん家族や、お姉さんの家族が外出から戻り、あちこちで笑い声が上がる大宴会になった。
夕飯を食べ終わって騒ぎ始めた子どもたちは、最初は俺に緊張していた様子だったけど、ゲームしているうちにいつの間にか打ち解けたらしく、膝の上の取り合いになってて面白い。
「もっとゆっくり飲んでて良いのに」
不意に隣に座った圭吾が、子どもの相手は疲れるだろうと困った顔をする。
「遊ぼうって誘われちゃったからね」
「お前も人が良いねえ」
可愛らしいキャラクターを戦わせる人気の格闘ゲームで、小一時間子どもたちの相手をして、大人気なく連勝し続けてしまった。
悔しそうにする子どもたちを順番で風呂に行かせる間、それまでゲームをしていた部屋に、圭吾を手伝って雑魚寝用の布団を敷く。
「凄いね。修学旅行みたいだ」
「だよな。まあチビのうちはこういうのも楽しいからな」
シーツや枕カバーをつけると、寝床を整えて部屋を出る。
「どうする? 父ちゃんたちまだ飲んでるし、飲みに戻るか」
「圭吾がまだ飲みたいんだろ」
「そうとも言う」
「やっぱり」
雑談しながら居間の戸を開けると、既にかなり出来上がってる圭吾の家族の目が一気に俺たちに向けられる。
「おお! 貴臣くん。さあおいで。飲もう飲もう」
「いや俺は無視かよ」
圭吾の家族らしい親しみやすい感じに思わず笑ってしまうと、早速腕を掴まれて酒盛りに参加し、テーブルを囲んで談笑が始まる。
「圭吾のヤツ、ちゃんと仕事してる?」
「そうですね。凄く働きやすい仲間ですよ」
「おい、そういう話を貴臣に振るなよ」
「あんたが滅多に帰ってこないからでしょ」
方々から矢継ぎ早に言葉が向けられ、それが圭吾が末っ子で可愛がられている証拠だと思うと、つい可笑しくて笑ってしまう。
圭吾の幼馴染みが結婚したとか、同級生に子どもが生まれたなんてローカルな話題が出る中、実家に帰らなくて良かったのかと不意に質問される。
「……はい」
「この前帰ったばっからしい。だからこの時期は帰らなくても良いんだってさ。さすがにそうじゃなきゃ俺だって無理に連れて来ねえよ」
咄嗟に気を利かせて圭吾が代わりに答えてくれる。だから俺は曖昧に笑って頷いた。
それからたわいない話をしながらお酒が進み、口寂しくなってぼんやりと外を眺めていると、圭吾の一番上のお兄さんの諒太さんが俺に声を掛けてきた。
「貴臣くん、タバコ吸う?」
「はい」
「じゃあ、こっちで吸おっか」
手招きされて縁側に移動すると、脇に積んであった荷物をゴソゴソ漁って、諒太さんは半纏を俺に手渡した。
「寒いから羽織っときな」
「ありがとうございます」
「こっちに来るのは初めて?」
「はい」
「そっか。積もる時はもっと凄いよ」
外の雪を眺めながら、諒太さんはタバコに火をつけ、ライターを俺の前で振る。
「持って来てる?」
「あ……」
「俺ので良ければどうぞ」
そう言ってタバコの箱を差し出され、一本抜き取ってライターを借りる。
「なんか、すみません」
「別に良いよ」
俺たちがタバコを吸う後ろでは、圭吾が兄姉にもみくちゃにされながら、楽しそうにお酒を飲んでいて相変わらず賑やかだ。
「それにしても、まさかこんな偶然があるとはね」
諒太さんは苦笑しながらタバコの煙を吐き出す。
彼が偶然というのは、俺たちに面識があるからだ。
「圭吾は知ってるの?」
諒太さんの問い掛けに、俺は小さく首を振る。
「いえ」
「そっか」
「諒太さんは、ご家族に?」
「言ってない」
「そうですか」
隣でタバコを吸う姿は、やはりどことなく圭吾に似ている。どうして初めて会った時、気が付かなかったんだろう。
俺に初めて出来たゲイ友の将生さんが、恋人だと言って連れて来たのが諒太さんだった。
つまり、俺はそうとは知らずに、圭吾のお兄さんに恋の相談に乗ってもらっていたことになる。
「そういえば、将生から聞いたよ。ちゃんと付き合えたんだね」
「はい」
夕飯を食べ終わって騒ぎ始めた子どもたちは、最初は俺に緊張していた様子だったけど、ゲームしているうちにいつの間にか打ち解けたらしく、膝の上の取り合いになってて面白い。
「もっとゆっくり飲んでて良いのに」
不意に隣に座った圭吾が、子どもの相手は疲れるだろうと困った顔をする。
「遊ぼうって誘われちゃったからね」
「お前も人が良いねえ」
可愛らしいキャラクターを戦わせる人気の格闘ゲームで、小一時間子どもたちの相手をして、大人気なく連勝し続けてしまった。
悔しそうにする子どもたちを順番で風呂に行かせる間、それまでゲームをしていた部屋に、圭吾を手伝って雑魚寝用の布団を敷く。
「凄いね。修学旅行みたいだ」
「だよな。まあチビのうちはこういうのも楽しいからな」
シーツや枕カバーをつけると、寝床を整えて部屋を出る。
「どうする? 父ちゃんたちまだ飲んでるし、飲みに戻るか」
「圭吾がまだ飲みたいんだろ」
「そうとも言う」
「やっぱり」
雑談しながら居間の戸を開けると、既にかなり出来上がってる圭吾の家族の目が一気に俺たちに向けられる。
「おお! 貴臣くん。さあおいで。飲もう飲もう」
「いや俺は無視かよ」
圭吾の家族らしい親しみやすい感じに思わず笑ってしまうと、早速腕を掴まれて酒盛りに参加し、テーブルを囲んで談笑が始まる。
「圭吾のヤツ、ちゃんと仕事してる?」
「そうですね。凄く働きやすい仲間ですよ」
「おい、そういう話を貴臣に振るなよ」
「あんたが滅多に帰ってこないからでしょ」
方々から矢継ぎ早に言葉が向けられ、それが圭吾が末っ子で可愛がられている証拠だと思うと、つい可笑しくて笑ってしまう。
圭吾の幼馴染みが結婚したとか、同級生に子どもが生まれたなんてローカルな話題が出る中、実家に帰らなくて良かったのかと不意に質問される。
「……はい」
「この前帰ったばっからしい。だからこの時期は帰らなくても良いんだってさ。さすがにそうじゃなきゃ俺だって無理に連れて来ねえよ」
咄嗟に気を利かせて圭吾が代わりに答えてくれる。だから俺は曖昧に笑って頷いた。
それからたわいない話をしながらお酒が進み、口寂しくなってぼんやりと外を眺めていると、圭吾の一番上のお兄さんの諒太さんが俺に声を掛けてきた。
「貴臣くん、タバコ吸う?」
「はい」
「じゃあ、こっちで吸おっか」
手招きされて縁側に移動すると、脇に積んであった荷物をゴソゴソ漁って、諒太さんは半纏を俺に手渡した。
「寒いから羽織っときな」
「ありがとうございます」
「こっちに来るのは初めて?」
「はい」
「そっか。積もる時はもっと凄いよ」
外の雪を眺めながら、諒太さんはタバコに火をつけ、ライターを俺の前で振る。
「持って来てる?」
「あ……」
「俺ので良ければどうぞ」
そう言ってタバコの箱を差し出され、一本抜き取ってライターを借りる。
「なんか、すみません」
「別に良いよ」
俺たちがタバコを吸う後ろでは、圭吾が兄姉にもみくちゃにされながら、楽しそうにお酒を飲んでいて相変わらず賑やかだ。
「それにしても、まさかこんな偶然があるとはね」
諒太さんは苦笑しながらタバコの煙を吐き出す。
彼が偶然というのは、俺たちに面識があるからだ。
「圭吾は知ってるの?」
諒太さんの問い掛けに、俺は小さく首を振る。
「いえ」
「そっか」
「諒太さんは、ご家族に?」
「言ってない」
「そうですか」
隣でタバコを吸う姿は、やはりどことなく圭吾に似ている。どうして初めて会った時、気が付かなかったんだろう。
俺に初めて出来たゲイ友の将生さんが、恋人だと言って連れて来たのが諒太さんだった。
つまり、俺はそうとは知らずに、圭吾のお兄さんに恋の相談に乗ってもらっていたことになる。
「そういえば、将生から聞いたよ。ちゃんと付き合えたんだね」
「はい」
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