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16.①
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東京駅から新幹線に乗り込むと、道中の景色を眺めながら駅弁を頬張る。
「ヤバい。牡蠣がぷりぷりしてる」
「それ美味そうだよな」
「圭吾の焼肉弁当も凄い良い匂いしてるけど」
「美味いよ。一口食ってみる?」
二人で弁当を交換して味の感想を言い合うと、お茶を飲んでさっぱりした口にまた弁当を口に放り込む。
実家に帰るのは一年ぶりで、一人だったら今回の帰省も億劫だったかも知れない。
「連れて来といてなんだけど俺の実家、本当に引くほどなんにもないよ」
「長野なんて初めて行くし、俺は結構楽しみだよ」
「貴臣は静岡だよな」
「うん。多分もう帰ることはないと思うけどね」
「そっか」
貴臣は自分がゲイだからという理由で、それを隠すしかなかった過去や実家から、ようやく解放されたような感覚を持っていることは本人から聞いたので知っている。
だけど家族なのに分かり合えないのは、なんだかとても寂しいことな気がして、俺の方が苦しい気持ちになってしまう。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。電話でたまには連絡取ってるから」
「ああ、悪い」
「謝んないでよ」
苦笑する貴臣は、本当にきっと墓場まで自分の秘密を持っていくつもりなんだろう。
じゃあ俺はなんなんだろう。貴臣にとって、俺って存在は過ぎゆく窓の外の景色と同じようなものなんだろうか。
そう思うと少しイラッとした。
だけど骨になるまで看取ってやるなんて、軽率に約束は出来ない。だからこそイライラが募る。
「お兄さんが駅まで迎えに来てくれるんだっけ」
「え? ああ。着く時間は連絡してあるけど、もっかい連絡入れとくわ」
「圭吾は末っ子なんだっけ」
「うん。上の兄ちゃんとは十違う。四十前なのに結婚しないでフラフラしてる自由人。あの人も東京に住んでるけど、まあ会うことないね」
「そんなものなの」
「貴臣だって、兄弟だからって頻繁に会わないだろ」
「うん。でも俺の場合は……」
貴臣が表情を曇らせるのでさりげなく手を握ると、少し驚いて電車の中だよと振り払われてしまった。
「まあな。でもそういうのなくても十個も違うからさ、向こうが連絡してこない限り飲み行ったりとかしないわ」
「そうなんだね。他の兄弟は?」
「下の兄ちゃんと姉ちゃんとこには子供がいる」
「その子どもちゃんたちが遊びに来てるんだよね」
「そう。めちゃくちゃ元気。姉ちゃんが早く結婚したから、一番上の甥っ子なんてもう中学生だよ」
「そんなにおっきいんだ⁉︎」
「そうなんだよ。あとは小学生と保育園児がわちゃわちゃしてる」
「わちゃわちゃって」
可笑しそうに笑う貴臣に一言断って、駅まで迎えに来てくれる兄にメッセージを入れる。
すぐに既読がついて、昨日まで降っていたらしい雪景色の写真が添付されて来た。
「雪積もってるってさ」
「うわ、本当だ!」
「そんなテンション上がる?」
「上がるよ」
ワクワクした様子の貴臣が可愛くて無言で頭をワシワシ撫でると、突然どうしたのかと貴臣がきょとんとした顔をするので、いよいよ俺は苦笑した。
そうして新幹線でおよそ一時間半。
上田駅で電車から降りて兄の迎えを待っていると、駅前に積もった雪を見て貴臣がはしゃぐ。
「あ、来たっぽい」
赤みの強いオレンジ色のSUVがロータリーに入ってくると、俺は片手をあげてその車に駆け寄る。
そして車の中で手を振る兄に手を振り返すと、すぐ後ろに居る貴臣を呼び付けて後部座席に乗り込んだ。
「ありがとう、諒太にい」
「これくらい別に良いよ。友だちも長旅お疲れ様」
車に乗り込んだ貴臣を見て、兄は少し驚いた顔をする。
貴臣がイケメンだから驚いたのかと思ったが、ふと貴臣を見ると、貴臣の方も僅かに動揺しているのは気のせいだろうか。
「固まってないでシートベルト締めろよ」
「ああ、うん」
「兄ちゃん、もう出して大丈夫だよ」
「オッケー。あ、貴臣くん。俺はこいつの兄で諒太です。家族が集まっててうるさいだろうけど、ゆっくりしてってね」
「ヤバい。牡蠣がぷりぷりしてる」
「それ美味そうだよな」
「圭吾の焼肉弁当も凄い良い匂いしてるけど」
「美味いよ。一口食ってみる?」
二人で弁当を交換して味の感想を言い合うと、お茶を飲んでさっぱりした口にまた弁当を口に放り込む。
実家に帰るのは一年ぶりで、一人だったら今回の帰省も億劫だったかも知れない。
「連れて来といてなんだけど俺の実家、本当に引くほどなんにもないよ」
「長野なんて初めて行くし、俺は結構楽しみだよ」
「貴臣は静岡だよな」
「うん。多分もう帰ることはないと思うけどね」
「そっか」
貴臣は自分がゲイだからという理由で、それを隠すしかなかった過去や実家から、ようやく解放されたような感覚を持っていることは本人から聞いたので知っている。
だけど家族なのに分かり合えないのは、なんだかとても寂しいことな気がして、俺の方が苦しい気持ちになってしまう。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。電話でたまには連絡取ってるから」
「ああ、悪い」
「謝んないでよ」
苦笑する貴臣は、本当にきっと墓場まで自分の秘密を持っていくつもりなんだろう。
じゃあ俺はなんなんだろう。貴臣にとって、俺って存在は過ぎゆく窓の外の景色と同じようなものなんだろうか。
そう思うと少しイラッとした。
だけど骨になるまで看取ってやるなんて、軽率に約束は出来ない。だからこそイライラが募る。
「お兄さんが駅まで迎えに来てくれるんだっけ」
「え? ああ。着く時間は連絡してあるけど、もっかい連絡入れとくわ」
「圭吾は末っ子なんだっけ」
「うん。上の兄ちゃんとは十違う。四十前なのに結婚しないでフラフラしてる自由人。あの人も東京に住んでるけど、まあ会うことないね」
「そんなものなの」
「貴臣だって、兄弟だからって頻繁に会わないだろ」
「うん。でも俺の場合は……」
貴臣が表情を曇らせるのでさりげなく手を握ると、少し驚いて電車の中だよと振り払われてしまった。
「まあな。でもそういうのなくても十個も違うからさ、向こうが連絡してこない限り飲み行ったりとかしないわ」
「そうなんだね。他の兄弟は?」
「下の兄ちゃんと姉ちゃんとこには子供がいる」
「その子どもちゃんたちが遊びに来てるんだよね」
「そう。めちゃくちゃ元気。姉ちゃんが早く結婚したから、一番上の甥っ子なんてもう中学生だよ」
「そんなにおっきいんだ⁉︎」
「そうなんだよ。あとは小学生と保育園児がわちゃわちゃしてる」
「わちゃわちゃって」
可笑しそうに笑う貴臣に一言断って、駅まで迎えに来てくれる兄にメッセージを入れる。
すぐに既読がついて、昨日まで降っていたらしい雪景色の写真が添付されて来た。
「雪積もってるってさ」
「うわ、本当だ!」
「そんなテンション上がる?」
「上がるよ」
ワクワクした様子の貴臣が可愛くて無言で頭をワシワシ撫でると、突然どうしたのかと貴臣がきょとんとした顔をするので、いよいよ俺は苦笑した。
そうして新幹線でおよそ一時間半。
上田駅で電車から降りて兄の迎えを待っていると、駅前に積もった雪を見て貴臣がはしゃぐ。
「あ、来たっぽい」
赤みの強いオレンジ色のSUVがロータリーに入ってくると、俺は片手をあげてその車に駆け寄る。
そして車の中で手を振る兄に手を振り返すと、すぐ後ろに居る貴臣を呼び付けて後部座席に乗り込んだ。
「ありがとう、諒太にい」
「これくらい別に良いよ。友だちも長旅お疲れ様」
車に乗り込んだ貴臣を見て、兄は少し驚いた顔をする。
貴臣がイケメンだから驚いたのかと思ったが、ふと貴臣を見ると、貴臣の方も僅かに動揺しているのは気のせいだろうか。
「固まってないでシートベルト締めろよ」
「ああ、うん」
「兄ちゃん、もう出して大丈夫だよ」
「オッケー。あ、貴臣くん。俺はこいつの兄で諒太です。家族が集まっててうるさいだろうけど、ゆっくりしてってね」
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