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13.①
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週が明けた火曜、クリスマスイブ当日。
仕事は通常運転だが、この時期は忘年会の誘いもあって仕事の後の方が圧倒的にバタバタする。
今年は二十七日が仕事納めなので、今週末だと思うといよいよ身も引き締まる。
「本多さん、いま大丈夫ですか」
「良いよ」
開発企画部の唯一の女性社員である四元さんが、珍しく俺に声を掛けてきた。
「山口さんから引き継いだデータ、ようやく分散してた分を取りまとめたんですけど、所々数字が違うっぽくて合計が合いません」
「マジか。手が空いてるなら、店舗の売上報告から元データ拾って照会と反映頼めるかな。ファイルはあのキャビネットに入ってるから、そっちも対応お願い出来る?」
「分かりました」
「あ、元の業務に支障が出るなら遠慮なく言ってね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
意外と数字を扱うことが多いので、日頃からマメにチェックしていたはずなのに、山口の失態と言うよりも俺の落ち度かも知れない。
四元さんには忘年会の時にでも、お菓子かなにかをそっと渡しておこう。
すぐに頭を切り替えると自分の業務に取り掛かり、事業企画部から回ってきてた資料に目を通す。
結局のところ中部地方への出店は見送りになり、新規オープンは赤坂のビブリオバーのみ。その代わり、山梨の本店がリニューアル予定となっているので、来年はさらにバタバタしそうだ。
市場調査のデータと既存店の売上分析で、数字と睨めっこしていると、いつの間にかあっという間に時間が過ぎて定時になってしまった。
「本多、今日うちの忘年会来ないか」
目頭を揉んでマッサージしていると、不意に背後から声を掛けられて顔を上げると野島さんが立っていた。
「営業の忘年会ですか」
「おう。賑やかな方が良いから、東条も一緒にどうだ」
「ん? 俺ですか」
「そうだよ東条。たまには顔出せよ」
野島さんは悪びれた様子もなく、俺と貴臣を交互に見る。
「すみません、野島さん。俺も貴臣も今日は無理です」
「なんだよ。お前らも恋人優先かよ」
野島さんは今日がクリスマスイブなのを分かっていたらしく、営業でも顔を出さない奴は居るんだと苦笑する。
「本当すみません」
「良いよ良いよ。気にするな」
野島さんはバシッと俺の肩を叩くと、なら新年会だなと懲りた様子もなく笑顔を浮かべ、他の部署の人間に声を掛けつつ営業部の方に戻っていった。
とはいえ別に、今日は貴臣と約束はしていない。
咄嗟に野島さんに無理と答えたが、楽しくみんなで飲み会でも良かった気がしなくもない。
チラッと貴臣を見るとすぐに目が合って、ニッコリ笑いながら断ってくれて助かったとお礼を言われた。
「あんまり断ると心証悪いからさ」
「大丈夫だろ。野島さんだし」
「いや、俺いつも断ってるからね?」
「自覚あるなら参加しろよ」
「善処します」
アホなやり取りをしつつ、ポケットで震えたスマホを取り出すと、山口から明日は出勤しますとメッセージが届いた。
「塚本部長、山口から連絡来てますか」
「山口から? いや、なにも来てないけど」
「じゃあすぐに連絡あると思うんですが、明日から出勤してくるそうです」
「了解、確認しとく」
「お願いします」
デスクから立ち上がりもせずに声を掛けてしまったが、帰りの時間が近付いたバタバタする時なので許されるだろう。
そのまま山口にメッセージを打ち、部長にも連絡するよう念を押すと、ついでに目の前に座ってる貴臣にもメッセージを送る。
今夜はゆっくり過ごしたいから家に泊めてくれと、なんの捻りもない文面だけど、これだけ言えば伝わるだろう。
パソコンの電源を落としてデスク周りを片付け、帰り支度をし始めると、メッセージに気付いたらしい貴臣は、嬉しそうな顔をして帰り支度を始めた。
「貴臣もう上がりか? 一緒に出ようぜ」
「良いよ」
周りに挨拶を済ませて会社を出ると、店の予約はさすがに取れなかったことを謝る。
「豪華なディナーは来年以降に期待して。その代わりチキンとケーキは予約したから、受け取って帰ろうぜ」
仕事は通常運転だが、この時期は忘年会の誘いもあって仕事の後の方が圧倒的にバタバタする。
今年は二十七日が仕事納めなので、今週末だと思うといよいよ身も引き締まる。
「本多さん、いま大丈夫ですか」
「良いよ」
開発企画部の唯一の女性社員である四元さんが、珍しく俺に声を掛けてきた。
「山口さんから引き継いだデータ、ようやく分散してた分を取りまとめたんですけど、所々数字が違うっぽくて合計が合いません」
「マジか。手が空いてるなら、店舗の売上報告から元データ拾って照会と反映頼めるかな。ファイルはあのキャビネットに入ってるから、そっちも対応お願い出来る?」
「分かりました」
「あ、元の業務に支障が出るなら遠慮なく言ってね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
意外と数字を扱うことが多いので、日頃からマメにチェックしていたはずなのに、山口の失態と言うよりも俺の落ち度かも知れない。
四元さんには忘年会の時にでも、お菓子かなにかをそっと渡しておこう。
すぐに頭を切り替えると自分の業務に取り掛かり、事業企画部から回ってきてた資料に目を通す。
結局のところ中部地方への出店は見送りになり、新規オープンは赤坂のビブリオバーのみ。その代わり、山梨の本店がリニューアル予定となっているので、来年はさらにバタバタしそうだ。
市場調査のデータと既存店の売上分析で、数字と睨めっこしていると、いつの間にかあっという間に時間が過ぎて定時になってしまった。
「本多、今日うちの忘年会来ないか」
目頭を揉んでマッサージしていると、不意に背後から声を掛けられて顔を上げると野島さんが立っていた。
「営業の忘年会ですか」
「おう。賑やかな方が良いから、東条も一緒にどうだ」
「ん? 俺ですか」
「そうだよ東条。たまには顔出せよ」
野島さんは悪びれた様子もなく、俺と貴臣を交互に見る。
「すみません、野島さん。俺も貴臣も今日は無理です」
「なんだよ。お前らも恋人優先かよ」
野島さんは今日がクリスマスイブなのを分かっていたらしく、営業でも顔を出さない奴は居るんだと苦笑する。
「本当すみません」
「良いよ良いよ。気にするな」
野島さんはバシッと俺の肩を叩くと、なら新年会だなと懲りた様子もなく笑顔を浮かべ、他の部署の人間に声を掛けつつ営業部の方に戻っていった。
とはいえ別に、今日は貴臣と約束はしていない。
咄嗟に野島さんに無理と答えたが、楽しくみんなで飲み会でも良かった気がしなくもない。
チラッと貴臣を見るとすぐに目が合って、ニッコリ笑いながら断ってくれて助かったとお礼を言われた。
「あんまり断ると心証悪いからさ」
「大丈夫だろ。野島さんだし」
「いや、俺いつも断ってるからね?」
「自覚あるなら参加しろよ」
「善処します」
アホなやり取りをしつつ、ポケットで震えたスマホを取り出すと、山口から明日は出勤しますとメッセージが届いた。
「塚本部長、山口から連絡来てますか」
「山口から? いや、なにも来てないけど」
「じゃあすぐに連絡あると思うんですが、明日から出勤してくるそうです」
「了解、確認しとく」
「お願いします」
デスクから立ち上がりもせずに声を掛けてしまったが、帰りの時間が近付いたバタバタする時なので許されるだろう。
そのまま山口にメッセージを打ち、部長にも連絡するよう念を押すと、ついでに目の前に座ってる貴臣にもメッセージを送る。
今夜はゆっくり過ごしたいから家に泊めてくれと、なんの捻りもない文面だけど、これだけ言えば伝わるだろう。
パソコンの電源を落としてデスク周りを片付け、帰り支度をし始めると、メッセージに気付いたらしい貴臣は、嬉しそうな顔をして帰り支度を始めた。
「貴臣もう上がりか? 一緒に出ようぜ」
「良いよ」
周りに挨拶を済ませて会社を出ると、店の予約はさすがに取れなかったことを謝る。
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