15 / 66
6.②
しおりを挟む
運良く席は空いていてテーブル席に腰を下ろすと、野島さんオススメの春巻きをまず頼むとして、他にも餃子や青菜の炒め物をとりあえず頼んでビールで乾杯する。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
仕事の話を中心に世間話をしつつ腹を満たすと、さっきまでの胃痛が少しだけ和らぐ気がした。
そして満腹になるまで料理を楽しむと、野島さんの奢りで会計を済ませて店を出た。
「お前、細いのにめちゃくちゃ食うよな」
「さーせん」
「悪びれてない謝り方すんなよ」
野島さんが可笑しそうに肩を揺らす。
「本当に、今日はごちそうさまでした。ありがとうございます」
「別に良いよ。でも聞いてたより元気そうで安心した」
「ん? 安心ってなんですか」
「昨日、高宮たちと飲んだんだろ。なんか本多が元気なかったって聞いたんだよ」
「マジですか。そんなことないんですけどね」
「だな。まあ、なにかあればいつでも相談に乗るから、あんまり色々と溜め込むなよ」
「あざす」
雑談しながら駅までの道を引き返すと、途中で野島さんに電話がかかってきて、慌てた様子でタクシーを拾うと、野島さんは俺に謝りつつそのまま先に帰ってしまった。
駅まではあと少し。
だけどなんか電車に乗る気になれなくて、俺もタクシーを拾うと自宅の最寄駅を伝えて後部座席で項垂れる。
他人に心配されるほど、調子を崩してる気はないのに、高宮と言い、野島さんと言い、俺を心配してくれるのが申し訳なくなる。
(ただの恋煩いだとか言えない……)
今まで色んな女の子と付き合ってきたけど、こんな風にモヤモヤしたり、苦しくなるような気持ちになったことがない。
相手が貴臣だからなのかは分からないが、アイツの気持ちは変わってしまってるかも知れないのに、俺の方はどんどん好きになってしまってる気がして情けなくなる。
なにが一番情けないって、貴臣に他の男の気配を感じてから動揺してるのがめちゃくちゃカッコ悪い。
タクシーの窓ガラスに頭を預けて溜め息を吐くと、今日も誰かと会っていて、この週末も誰かと会う予定のある貴臣に対してモヤモヤした気持ちが育っていく。
俺のことを好きだとか言ったくせに、もう他所に気持ちが向いたのかと思うと、そう仕向けたのが自分なのを忘れて怒りが込み上げる。
でも一番腹が立つのは、こんな女々しい自分自身に対してだ。
自宅の最寄駅から道を伝えてマンションに向かってもらうと、裏手でタクシーを降りてエントランスを抜け、郵便物を回収する。
エレベーターで五階に上がり、自宅玄関の鍵を開けると、暗い部屋の電気をつけて鍵を閉める。
「あぁ、疲れた」
靴を脱いで部屋に上がると、そのまま寝室に向かってベッドに倒れ込みたいのを我慢して、スーツを脱ぎ、クローゼットから着替えを取り出して風呂に入る。
本当は湯船に浸かればしっかりと疲れが取れるんだろうけど、お湯を貯める時間すら惜しくて、熱いシャワーで風呂を済ませた。
濡れ髪も乾かさずに寝室に向かうと、ビジネスバッグからスマホを取り出して、枕元の充電ケーブルに繋ぐ。
そして何気なく画面を見ると、メッセージアプリの通知が何件か溜まっていた。
「これ返信したらもう寝よ」
一つは同窓会の時に作られたグループメッセージで、特にこれといって返信する必要もないだろう。
もう一つは珍しく母親からで、年末年始は実家に顔を出すのかというものだった。これも今すぐには返信出来ない内容なので、休みの日程が決まってないとだけ返す。
「はあ……本当ヤバい。俺、メンタルこんなに弱かったっけ」
情けない言葉を呟いて、そのままベッドに身を沈めた。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
仕事の話を中心に世間話をしつつ腹を満たすと、さっきまでの胃痛が少しだけ和らぐ気がした。
そして満腹になるまで料理を楽しむと、野島さんの奢りで会計を済ませて店を出た。
「お前、細いのにめちゃくちゃ食うよな」
「さーせん」
「悪びれてない謝り方すんなよ」
野島さんが可笑しそうに肩を揺らす。
「本当に、今日はごちそうさまでした。ありがとうございます」
「別に良いよ。でも聞いてたより元気そうで安心した」
「ん? 安心ってなんですか」
「昨日、高宮たちと飲んだんだろ。なんか本多が元気なかったって聞いたんだよ」
「マジですか。そんなことないんですけどね」
「だな。まあ、なにかあればいつでも相談に乗るから、あんまり色々と溜め込むなよ」
「あざす」
雑談しながら駅までの道を引き返すと、途中で野島さんに電話がかかってきて、慌てた様子でタクシーを拾うと、野島さんは俺に謝りつつそのまま先に帰ってしまった。
駅まではあと少し。
だけどなんか電車に乗る気になれなくて、俺もタクシーを拾うと自宅の最寄駅を伝えて後部座席で項垂れる。
他人に心配されるほど、調子を崩してる気はないのに、高宮と言い、野島さんと言い、俺を心配してくれるのが申し訳なくなる。
(ただの恋煩いだとか言えない……)
今まで色んな女の子と付き合ってきたけど、こんな風にモヤモヤしたり、苦しくなるような気持ちになったことがない。
相手が貴臣だからなのかは分からないが、アイツの気持ちは変わってしまってるかも知れないのに、俺の方はどんどん好きになってしまってる気がして情けなくなる。
なにが一番情けないって、貴臣に他の男の気配を感じてから動揺してるのがめちゃくちゃカッコ悪い。
タクシーの窓ガラスに頭を預けて溜め息を吐くと、今日も誰かと会っていて、この週末も誰かと会う予定のある貴臣に対してモヤモヤした気持ちが育っていく。
俺のことを好きだとか言ったくせに、もう他所に気持ちが向いたのかと思うと、そう仕向けたのが自分なのを忘れて怒りが込み上げる。
でも一番腹が立つのは、こんな女々しい自分自身に対してだ。
自宅の最寄駅から道を伝えてマンションに向かってもらうと、裏手でタクシーを降りてエントランスを抜け、郵便物を回収する。
エレベーターで五階に上がり、自宅玄関の鍵を開けると、暗い部屋の電気をつけて鍵を閉める。
「あぁ、疲れた」
靴を脱いで部屋に上がると、そのまま寝室に向かってベッドに倒れ込みたいのを我慢して、スーツを脱ぎ、クローゼットから着替えを取り出して風呂に入る。
本当は湯船に浸かればしっかりと疲れが取れるんだろうけど、お湯を貯める時間すら惜しくて、熱いシャワーで風呂を済ませた。
濡れ髪も乾かさずに寝室に向かうと、ビジネスバッグからスマホを取り出して、枕元の充電ケーブルに繋ぐ。
そして何気なく画面を見ると、メッセージアプリの通知が何件か溜まっていた。
「これ返信したらもう寝よ」
一つは同窓会の時に作られたグループメッセージで、特にこれといって返信する必要もないだろう。
もう一つは珍しく母親からで、年末年始は実家に顔を出すのかというものだった。これも今すぐには返信出来ない内容なので、休みの日程が決まってないとだけ返す。
「はあ……本当ヤバい。俺、メンタルこんなに弱かったっけ」
情けない言葉を呟いて、そのままベッドに身を沈めた。
12
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる