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6.②
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運良く席は空いていてテーブル席に腰を下ろすと、野島さんオススメの春巻きをまず頼むとして、他にも餃子や青菜の炒め物をとりあえず頼んでビールで乾杯する。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
仕事の話を中心に世間話をしつつ腹を満たすと、さっきまでの胃痛が少しだけ和らぐ気がした。
そして満腹になるまで料理を楽しむと、野島さんの奢りで会計を済ませて店を出た。
「お前、細いのにめちゃくちゃ食うよな」
「さーせん」
「悪びれてない謝り方すんなよ」
野島さんが可笑しそうに肩を揺らす。
「本当に、今日はごちそうさまでした。ありがとうございます」
「別に良いよ。でも聞いてたより元気そうで安心した」
「ん? 安心ってなんですか」
「昨日、高宮たちと飲んだんだろ。なんか本多が元気なかったって聞いたんだよ」
「マジですか。そんなことないんですけどね」
「だな。まあ、なにかあればいつでも相談に乗るから、あんまり色々と溜め込むなよ」
「あざす」
雑談しながら駅までの道を引き返すと、途中で野島さんに電話がかかってきて、慌てた様子でタクシーを拾うと、野島さんは俺に謝りつつそのまま先に帰ってしまった。
駅まではあと少し。
だけどなんか電車に乗る気になれなくて、俺もタクシーを拾うと自宅の最寄駅を伝えて後部座席で項垂れる。
他人に心配されるほど、調子を崩してる気はないのに、高宮と言い、野島さんと言い、俺を心配してくれるのが申し訳なくなる。
(ただの恋煩いだとか言えない……)
今まで色んな女の子と付き合ってきたけど、こんな風にモヤモヤしたり、苦しくなるような気持ちになったことがない。
相手が貴臣だからなのかは分からないが、アイツの気持ちは変わってしまってるかも知れないのに、俺の方はどんどん好きになってしまってる気がして情けなくなる。
なにが一番情けないって、貴臣に他の男の気配を感じてから動揺してるのがめちゃくちゃカッコ悪い。
タクシーの窓ガラスに頭を預けて溜め息を吐くと、今日も誰かと会っていて、この週末も誰かと会う予定のある貴臣に対してモヤモヤした気持ちが育っていく。
俺のことを好きだとか言ったくせに、もう他所に気持ちが向いたのかと思うと、そう仕向けたのが自分なのを忘れて怒りが込み上げる。
でも一番腹が立つのは、こんな女々しい自分自身に対してだ。
自宅の最寄駅から道を伝えてマンションに向かってもらうと、裏手でタクシーを降りてエントランスを抜け、郵便物を回収する。
エレベーターで五階に上がり、自宅玄関の鍵を開けると、暗い部屋の電気をつけて鍵を閉める。
「あぁ、疲れた」
靴を脱いで部屋に上がると、そのまま寝室に向かってベッドに倒れ込みたいのを我慢して、スーツを脱ぎ、クローゼットから着替えを取り出して風呂に入る。
本当は湯船に浸かればしっかりと疲れが取れるんだろうけど、お湯を貯める時間すら惜しくて、熱いシャワーで風呂を済ませた。
濡れ髪も乾かさずに寝室に向かうと、ビジネスバッグからスマホを取り出して、枕元の充電ケーブルに繋ぐ。
そして何気なく画面を見ると、メッセージアプリの通知が何件か溜まっていた。
「これ返信したらもう寝よ」
一つは同窓会の時に作られたグループメッセージで、特にこれといって返信する必要もないだろう。
もう一つは珍しく母親からで、年末年始は実家に顔を出すのかというものだった。これも今すぐには返信出来ない内容なので、休みの日程が決まってないとだけ返す。
「はあ……本当ヤバい。俺、メンタルこんなに弱かったっけ」
情けない言葉を呟いて、そのままベッドに身を沈めた。
「お疲れさん」
「お疲れ様です」
仕事の話を中心に世間話をしつつ腹を満たすと、さっきまでの胃痛が少しだけ和らぐ気がした。
そして満腹になるまで料理を楽しむと、野島さんの奢りで会計を済ませて店を出た。
「お前、細いのにめちゃくちゃ食うよな」
「さーせん」
「悪びれてない謝り方すんなよ」
野島さんが可笑しそうに肩を揺らす。
「本当に、今日はごちそうさまでした。ありがとうございます」
「別に良いよ。でも聞いてたより元気そうで安心した」
「ん? 安心ってなんですか」
「昨日、高宮たちと飲んだんだろ。なんか本多が元気なかったって聞いたんだよ」
「マジですか。そんなことないんですけどね」
「だな。まあ、なにかあればいつでも相談に乗るから、あんまり色々と溜め込むなよ」
「あざす」
雑談しながら駅までの道を引き返すと、途中で野島さんに電話がかかってきて、慌てた様子でタクシーを拾うと、野島さんは俺に謝りつつそのまま先に帰ってしまった。
駅まではあと少し。
だけどなんか電車に乗る気になれなくて、俺もタクシーを拾うと自宅の最寄駅を伝えて後部座席で項垂れる。
他人に心配されるほど、調子を崩してる気はないのに、高宮と言い、野島さんと言い、俺を心配してくれるのが申し訳なくなる。
(ただの恋煩いだとか言えない……)
今まで色んな女の子と付き合ってきたけど、こんな風にモヤモヤしたり、苦しくなるような気持ちになったことがない。
相手が貴臣だからなのかは分からないが、アイツの気持ちは変わってしまってるかも知れないのに、俺の方はどんどん好きになってしまってる気がして情けなくなる。
なにが一番情けないって、貴臣に他の男の気配を感じてから動揺してるのがめちゃくちゃカッコ悪い。
タクシーの窓ガラスに頭を預けて溜め息を吐くと、今日も誰かと会っていて、この週末も誰かと会う予定のある貴臣に対してモヤモヤした気持ちが育っていく。
俺のことを好きだとか言ったくせに、もう他所に気持ちが向いたのかと思うと、そう仕向けたのが自分なのを忘れて怒りが込み上げる。
でも一番腹が立つのは、こんな女々しい自分自身に対してだ。
自宅の最寄駅から道を伝えてマンションに向かってもらうと、裏手でタクシーを降りてエントランスを抜け、郵便物を回収する。
エレベーターで五階に上がり、自宅玄関の鍵を開けると、暗い部屋の電気をつけて鍵を閉める。
「あぁ、疲れた」
靴を脱いで部屋に上がると、そのまま寝室に向かってベッドに倒れ込みたいのを我慢して、スーツを脱ぎ、クローゼットから着替えを取り出して風呂に入る。
本当は湯船に浸かればしっかりと疲れが取れるんだろうけど、お湯を貯める時間すら惜しくて、熱いシャワーで風呂を済ませた。
濡れ髪も乾かさずに寝室に向かうと、ビジネスバッグからスマホを取り出して、枕元の充電ケーブルに繋ぐ。
そして何気なく画面を見ると、メッセージアプリの通知が何件か溜まっていた。
「これ返信したらもう寝よ」
一つは同窓会の時に作られたグループメッセージで、特にこれといって返信する必要もないだろう。
もう一つは珍しく母親からで、年末年始は実家に顔を出すのかというものだった。これも今すぐには返信出来ない内容なので、休みの日程が決まってないとだけ返す。
「はあ……本当ヤバい。俺、メンタルこんなに弱かったっけ」
情けない言葉を呟いて、そのままベッドに身を沈めた。
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