上 下
7 / 15

2.②

しおりを挟む
「分かってるよ」
 領収書をまとめてあったファイルを取り出し、フォーマットにデータを打ち込んでから、プリントアウトしたそれに請求書を貼り付けていく。
「俺ちょっと経理に書類出してくるわ」
「おう」
 貴臣に見送られて経理部に向かうと、案の定良い顔はされなかったが、提出書類に不備がなかったのでその場で引き取ってもらうことが出来た。
 厳し目のお小言を喰らって少し凹みながらデスクに戻ると、珍しく貴臣がデザイン部の丸山まるやまさんと会話を弾ませていた。
「そんなに気になるならお店教えるよ」
「東条さん。そこは一緒に行きませんかって、誘ってくださいよ」
「ああ、無理。俺の恋人ヤキモチ焼きなんで」
「もー。彼女さん愛され過ぎ」
 盛り上がってるその状況を見ているだけだと、やっぱり貴臣には彼女が居るんじゃないかと疑ってしまうほど、切り返しが冷静で淡々としている。
(こいつ、やっぱり酔っておかしくなっただけじゃないかな)
 そもそもこんなイケメンが男を好きってことにも納得いかないし、しかも俺に欲情するなんてありえない。
 そもそも俺だって、可愛い女の子が好きだし、なによりおっぱいが大好きだ。
 雰囲気に流されて厭らしいことをしてしまったのは事実だが、貴臣を見てると何が現実なのか分からなくなる。
「じゃあ本多さんに連れて行ってもらおうかな」
「ん? いま俺呼ばれた?」
「東条さんが美味しいイタリアン教えてくれたんですよ」
「へえ、じゃあ今日行く?」
「良いんですか」
 パッと色めき立つ丸山さんの態度が可愛くてキュンとしていると、横から貴臣がやめとけよと口を開く。
「良いのか? 圭吾。そんなことしたら、お前の恋人がキレるぞ」
「やっぱり本多さんも、ちゃんと本命が居ますよね」
「いや、俺は……」
 水を差された丸山さんが残念そうな顔をする。
(俺の恋人ってなんの話だよ)
 そう思って貴臣を睨むと、しれっとした顔をして知らんぷりを決め込み、丸山さんと適当に会話を切り上げている。
「おい貴臣」
「なに?」
「なに、じゃないだろ」
「なに怒ってんだよ。それより俺腹減った。飯食いに行こうぜ」
「あのなあ……」
 軽く眩暈がして頭を抱えると、先に帰る支度を済ませた貴臣が早くしろと俺を急かす。
「早く行こうぜ」
「もー。お前なんなんだよ」
 文句を言いつつ帰り支度を整えると、周りに挨拶を済ませてフロアを出る。
 エレベーターを待ちながら、隣で何食わぬ顔をしている貴臣を睨むと、どういうつもりなのかと声を掛ける。
「お前、さっきのアレなに」
「なにってなにが」
「お前ねえ。せっかく丸山さんとご飯行けるチャンスだったのに」
「ああ、そんなことか」
「そんなことってね、お前」
「良いじゃん。俺が一緒なんだから」
「良いワケあるか。むさ苦しい」
 咄嗟に絡めるように掴まれた腕を振り払うと、エレベーターに乗り込んで会社を出る。
 貴臣はもしかして本気で俺のことが好きで、丸山さんに対してガチで嫉妬したんだろうか。そう思ってチラッと顔を盗み見るけど、やっぱり何食わぬ顔をしている。
(やっぱり、俺のこと揶揄って面白がってるだけだろ)
 果たして揶揄うためだけに俺のチンコをしゃぶったり、男相手に勃起するかは知らないが、こんなイケメンが俺を好きだなんてありえない。
「そんな見つめんなよ。勃つだろ」
「は、お前バカなの。こんな場所でなに言ってんの」
 会社を出て駅に向かうまでの道のりで、人通りもそれなりにある。それなのにところ構わず、とんでもないことを言ってしまえる神経が分からない。
「場所がダメなのか」
「はあ?」
「なら移動しよう」
「あ……ちょっ、おい」
 貴臣に腕を掴まれたかと思うと、あっという間にタクシーに乗せられてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

身体検査が恥ずかしすぎる

Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。 しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。 ※注意:エロです

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

俺と父さんの話

五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」   父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。 「はあっ……はー……は……」  手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。 ■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。 ■2022.04.16 全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。 攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。 Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。 購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

処理中です...