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1.①
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秋雨で天候が崩れやすく、肌寒い日が続くようになった十月初頭。
都内の1LDKのマンションは、通勤以外でも繁華街へのアクセスがよく、置かれた家具はアイアンウッドで統一されたシンプルなデザインで、雑に置いただけの観葉植物でさえ絵になる。
最上階の六階にあるこの部屋は、特注だという洒落たウッドブラインドが取り付けられた大きな窓から、その先に広がるバルコニーが見え、景色が最高に良い。
結局、来年の夏もこの部屋のベランダで、花火大会の煌めく光をぼんやり眺めるんだろうか。
「ねえ」
ソファーに座ってゲームのコントローラーを握り、画面の中で次々とターゲットを仕留めながら、この部屋の家主である東条貴臣が、目の前で座り込む俺に呼びかける。
「なんだよ、今いいとこなんだよ。マンガ読みたいんだったらもう少し待て」
呼ばれた俺、本多圭吾は床に敷かれたラグに直接座り、貴臣が座るソファーにもたれながらマンガを読み、顔を上げることもなく声だけで適当に返事した。
今週末もいつも通り、仕事終わりになだれ込むように貴臣の家でゲームやマンガを読んで過ごしている。
いつからだったか覚えてないが、俺が彼女にフラれてフリーになる度に週末はいつもこのパターンだ。
「いやマンガはいいよ。そんなことより俺好きな子いるんだけど、そろそろその子に告ろうと思う」
貴臣の唐突な発言に、飲みかけのビールを噴き出しそうになって、慌てて押さえた口元を手の甲で拭う。
そしてようやく読んでたマンガ雑誌を放り投げると、ソファーに座る貴臣に視線を向けた。
「は? ちょっとなに。告白って、突然どうした」
同期入社で同じ二十八歳。貴臣は結構なイケメンで一八三センチと背も高く、有名大卒の有望株なのもあって社内でもモテる割に、今までそんな話を一切したことがない。
「いや、なんかふと可愛いなあと思って」
「それは背後からターゲットに忍び寄って、首を掻っ切りながら思うことなのか」
「知らないけど、今そう思ったんだよ」
貴臣は視線も動かさずに、長い指でコントローラーをカチャカチャと動かし、無表情で敵を仕留めている。
「そんな時にふと思い立つなよ。情緒どこに置いてきたんだよお前。まあいいや、つかお前彼女いなかったの」
放り投げたマンガ雑誌を回収すると、そちらに視線を戻してパラパラとページをめくっていく。
「ずっと居ない。あれはチヤホヤしてくる鬱陶しい感じの子を断る建て前」
「マジか。まあ俺とこんな連んでるからそんな気はしてたけどな。で? そのお前が好きな子って、俺の知ってる子?」
「ん。知ってる子」
「なんだよ、社内の子かよ」
お前はモテるからなと揶揄い半分、恨めしそうに呟いてマンガ雑誌のページをめくる。
「その他大勢にモテても意味ないだろ。んな事よりお前の方がモテるだろ。今日の帰りもなんか貰ってたじゃないか」
「遠野ちゃんね。おっぱいデカいし可愛いよな。でも辞めるらしいわ。取引先から貰ったお菓子あげただけなのに、わざわざお礼くれたんだよ。気の利く子は嫁に行くのも早いな」
「……お前ホント、おっぱい好きな」
貴臣は呆れを通り越して感心するようにコントローラーを置くと、ソファーから降りて俺の隣に座り、少しぬるくなって表面に水滴が浮いた缶ビールのプルトップを開ける。
「なに言ってんだ、おっぱいだけじゃねえよ、足も尻も大好物だよ。女の子の体って独特の丸みが厭らしくて堪んないよな。それよりお前の好きな子って誰よ。おっぱいデカい?」
「……おっぱいなあ、慎ましいんじゃないかな」
「え、なに。妖精さんとかなの」
「なんで乳が慎ましいと妖精なんだよ。全女性に殴り飛ばされるぞお前」
都内の1LDKのマンションは、通勤以外でも繁華街へのアクセスがよく、置かれた家具はアイアンウッドで統一されたシンプルなデザインで、雑に置いただけの観葉植物でさえ絵になる。
最上階の六階にあるこの部屋は、特注だという洒落たウッドブラインドが取り付けられた大きな窓から、その先に広がるバルコニーが見え、景色が最高に良い。
結局、来年の夏もこの部屋のベランダで、花火大会の煌めく光をぼんやり眺めるんだろうか。
「ねえ」
ソファーに座ってゲームのコントローラーを握り、画面の中で次々とターゲットを仕留めながら、この部屋の家主である東条貴臣が、目の前で座り込む俺に呼びかける。
「なんだよ、今いいとこなんだよ。マンガ読みたいんだったらもう少し待て」
呼ばれた俺、本多圭吾は床に敷かれたラグに直接座り、貴臣が座るソファーにもたれながらマンガを読み、顔を上げることもなく声だけで適当に返事した。
今週末もいつも通り、仕事終わりになだれ込むように貴臣の家でゲームやマンガを読んで過ごしている。
いつからだったか覚えてないが、俺が彼女にフラれてフリーになる度に週末はいつもこのパターンだ。
「いやマンガはいいよ。そんなことより俺好きな子いるんだけど、そろそろその子に告ろうと思う」
貴臣の唐突な発言に、飲みかけのビールを噴き出しそうになって、慌てて押さえた口元を手の甲で拭う。
そしてようやく読んでたマンガ雑誌を放り投げると、ソファーに座る貴臣に視線を向けた。
「は? ちょっとなに。告白って、突然どうした」
同期入社で同じ二十八歳。貴臣は結構なイケメンで一八三センチと背も高く、有名大卒の有望株なのもあって社内でもモテる割に、今までそんな話を一切したことがない。
「いや、なんかふと可愛いなあと思って」
「それは背後からターゲットに忍び寄って、首を掻っ切りながら思うことなのか」
「知らないけど、今そう思ったんだよ」
貴臣は視線も動かさずに、長い指でコントローラーをカチャカチャと動かし、無表情で敵を仕留めている。
「そんな時にふと思い立つなよ。情緒どこに置いてきたんだよお前。まあいいや、つかお前彼女いなかったの」
放り投げたマンガ雑誌を回収すると、そちらに視線を戻してパラパラとページをめくっていく。
「ずっと居ない。あれはチヤホヤしてくる鬱陶しい感じの子を断る建て前」
「マジか。まあ俺とこんな連んでるからそんな気はしてたけどな。で? そのお前が好きな子って、俺の知ってる子?」
「ん。知ってる子」
「なんだよ、社内の子かよ」
お前はモテるからなと揶揄い半分、恨めしそうに呟いてマンガ雑誌のページをめくる。
「その他大勢にモテても意味ないだろ。んな事よりお前の方がモテるだろ。今日の帰りもなんか貰ってたじゃないか」
「遠野ちゃんね。おっぱいデカいし可愛いよな。でも辞めるらしいわ。取引先から貰ったお菓子あげただけなのに、わざわざお礼くれたんだよ。気の利く子は嫁に行くのも早いな」
「……お前ホント、おっぱい好きな」
貴臣は呆れを通り越して感心するようにコントローラーを置くと、ソファーから降りて俺の隣に座り、少しぬるくなって表面に水滴が浮いた缶ビールのプルトップを開ける。
「なに言ってんだ、おっぱいだけじゃねえよ、足も尻も大好物だよ。女の子の体って独特の丸みが厭らしくて堪んないよな。それよりお前の好きな子って誰よ。おっぱいデカい?」
「……おっぱいなあ、慎ましいんじゃないかな」
「え、なに。妖精さんとかなの」
「なんで乳が慎ましいと妖精なんだよ。全女性に殴り飛ばされるぞお前」
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