踊り子さんはその手で乱されたい。

藜-LAI-

文字の大きさ
上 下
46 / 47

踊り子さんは愛されている

しおりを挟む
 亮司さんは俺の頬にキスをすると、短い髪も似合ってるねと剥き出しになった耳朶を掴んで緩やかに撫でる。
「ちょっと、亮司さん、こんなところで」
「大丈夫。キミは俺のパートナーだからね」
 天然タラシな亮司さんの色気に、俺はどう答えて良いか分からなくて無言のまま俯くと、得意のステージだと思えばいいと亮司さんが言った。
「さあ。晴れ舞台だよ」
「亮司さん、俺……」
「大丈夫だよ。なにも心配しなくて良い」
 亮司さんは俺を抱き寄せたまま、先んじて会場入りした美鶴さんが周りに俺たちのエピソードを聞かせて回っているのを苦笑しながら見つめて、会場の奥に控えた人集りに俺を連れていく。
 明らかに場違いな俺を、色んな人の好奇の視線が痛いほど刺すけれど、亮司さんの温かい手が大丈夫だと言ってくれるように優しく俺の手を握ってる。
 そしてある人物の目の前に立つと、亮司さんは遅くなりましたと、入り口で盛り上がる美鶴さん振り返った。
「紹介したい人に同行してもらいました。高城勇樹さんです」
「そうか。初めてお目に掛かります」
「初めまして」
「日を改めるはずが、今夜は美鶴が手を回してくれたみたいです」
「まったく、あのお嬢さんは」
「本当に。でも舞花も同じことをしたと思うんです」
「そうか」
 そうして亮司さんが紹介してくれたのは、亮司さんと舞花の父親で、食品加工企業大手〈オムレット〉の会長である北村幸二さん、そしてその妻の雅代さんだった。
 親御さんに紹介されて、まだまだ若干の気不味さがある中、亮司さんはスピーチのためにその場を離れて、俺は彼のご両親と一緒に沈黙の中に居る。
 そんな重たい空気を真っ先に破ったのは、亮司さんのお母さんだった。
「貴方が勇樹くんね? 舞花のお墓にずっとお花を供えてくれていたの、貴方なんでしょう?」
 それまで黙っていたお母さんが、とても優しい笑顔で俺の手を取る。
「そんなにうちの子たちを大事に思ってくれてありがとう」
「いえ、でも、俺は」
 社会的立場がある亮司さんを、世間の冷遇に晒す種になってしまう。
「ねえあなた。亮司はここまでよく頑張って来たじゃないですか。舞花みたいに二度と手が届かなくなってしまうより、亮司が幸せなら、とても素敵なことじゃないですか」
 お母さんはスピーチをする亮司さんと、すぐ隣のお父さんを交互に見て、まだ新しく後悔を生むつもりですかとお父さんを優しく諭している。
「高城さんと言ったね。きみは舞花への恩義から、亮司に応えようとしてるだけじゃないんだね?」
「誓ってそのようなことではありません」
「先々、面白がって嫌な目に晒されることも多いと思うが、それでも息子と添い遂げたい。そういうことなのかな」
「俺は救われたんです。舞花さんが俺にダンスを与えてくれたから。そして亮司さんがその意思を受け継いで店を続けてくれたから。だから俺にとって二人は命の恩人なんです」
「恩を返すためにそばに居るというのかい」
「いえ、憚らず申し上げるなら、亮司さんを愛しています。……すみません」
 舞花を亡くした上に、亮司さんが男の俺をパートナーにするなんて、親御さんからしたら喜ばしくない話でしかないだろう。
 そう思うと許しを乞うように、すみませんという言葉が口から出てしまった。
「すみません。か。それは、だけど譲れない。そういう意味なんだね」
「……はい」
「亮司のこと、頼んだよ」
「ありがとうございます!」
 ご両親との距離を少しだけ縮められたと思った時、会場がどよめいた。亮司さんがカミングアウトしたからだ。
「対外的なリスクヘッジは対策済みですし、私の両親も彼をパートナーにすることを承知してくれました。皆様方におかれましては……」
 亮司さんが毅然とした態度でスピーチを続けるのを、俺は一言一句聞き漏らすまいとして耳を、意識を傾けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日も、俺の彼氏がかっこいい。

春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。 そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。 しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。 あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。 どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。 間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。 2021.07.15〜2021.07.16

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

猫をかぶるにも程がある

如月自由
BL
陽キャ大学生の橘千冬には悩みがある。声フェチを拗らせすぎて、女性向けシチュエーションボイスでしか抜けなくなってしまったという悩みが。 千冬はある日、いい声を持つ陰キャ大学生・綱島一樹と知り合い、一夜の過ちをきっかけに付き合い始めることになる。自分が男を好きになれるのか。そう訝っていた千冬だったが、大好きオーラ全開の一樹にほだされ、気付かぬうちにゆっくり心惹かれていく。 しかし、弱気で優しい男に見えた一樹には、実はとんでもない二面性があって――!? ノンケの陽キャ大学生がバリタチの陰キャ大学生に美味しく頂かれて溺愛される話。または、暗い過去を持つメンヘラクズ男が圧倒的光属性の好青年に救われるまでの話。 ムーンライトノベルズでも公開しております。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...