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踊り子さんは愛されている
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亮司さんは俺の頬にキスをすると、短い髪も似合ってるねと剥き出しになった耳朶を掴んで緩やかに撫でる。
「ちょっと、亮司さん、こんなところで」
「大丈夫。キミは俺のパートナーだからね」
天然タラシな亮司さんの色気に、俺はどう答えて良いか分からなくて無言のまま俯くと、得意のステージだと思えばいいと亮司さんが言った。
「さあ。晴れ舞台だよ」
「亮司さん、俺……」
「大丈夫だよ。なにも心配しなくて良い」
亮司さんは俺を抱き寄せたまま、先んじて会場入りした美鶴さんが周りに俺たちのエピソードを聞かせて回っているのを苦笑しながら見つめて、会場の奥に控えた人集りに俺を連れていく。
明らかに場違いな俺を、色んな人の好奇の視線が痛いほど刺すけれど、亮司さんの温かい手が大丈夫だと言ってくれるように優しく俺の手を握ってる。
そしてある人物の目の前に立つと、亮司さんは遅くなりましたと、入り口で盛り上がる美鶴さん振り返った。
「紹介したい人に同行してもらいました。高城勇樹さんです」
「そうか。初めてお目に掛かります」
「初めまして」
「日を改めるはずが、今夜は美鶴が手を回してくれたみたいです」
「まったく、あのお嬢さんは」
「本当に。でも舞花も同じことをしたと思うんです」
「そうか」
そうして亮司さんが紹介してくれたのは、亮司さんと舞花の父親で、食品加工企業大手〈オムレット〉の会長である北村幸二さん、そしてその妻の雅代さんだった。
親御さんに紹介されて、まだまだ若干の気不味さがある中、亮司さんはスピーチのためにその場を離れて、俺は彼のご両親と一緒に沈黙の中に居る。
そんな重たい空気を真っ先に破ったのは、亮司さんのお母さんだった。
「貴方が勇樹くんね? 舞花のお墓にずっとお花を供えてくれていたの、貴方なんでしょう?」
それまで黙っていたお母さんが、とても優しい笑顔で俺の手を取る。
「そんなにうちの子たちを大事に思ってくれてありがとう」
「いえ、でも、俺は」
社会的立場がある亮司さんを、世間の冷遇に晒す種になってしまう。
「ねえあなた。亮司はここまでよく頑張って来たじゃないですか。舞花みたいに二度と手が届かなくなってしまうより、亮司が幸せなら、とても素敵なことじゃないですか」
お母さんはスピーチをする亮司さんと、すぐ隣のお父さんを交互に見て、まだ新しく後悔を生むつもりですかとお父さんを優しく諭している。
「高城さんと言ったね。きみは舞花への恩義から、亮司に応えようとしてるだけじゃないんだね?」
「誓ってそのようなことではありません」
「先々、面白がって嫌な目に晒されることも多いと思うが、それでも息子と添い遂げたい。そういうことなのかな」
「俺は救われたんです。舞花さんが俺にダンスを与えてくれたから。そして亮司さんがその意思を受け継いで店を続けてくれたから。だから俺にとって二人は命の恩人なんです」
「恩を返すためにそばに居るというのかい」
「いえ、憚らず申し上げるなら、亮司さんを愛しています。……すみません」
舞花を亡くした上に、亮司さんが男の俺をパートナーにするなんて、親御さんからしたら喜ばしくない話でしかないだろう。
そう思うと許しを乞うように、すみませんという言葉が口から出てしまった。
「すみません。か。それは、だけど譲れない。そういう意味なんだね」
「……はい」
「亮司のこと、頼んだよ」
「ありがとうございます!」
ご両親との距離を少しだけ縮められたと思った時、会場がどよめいた。亮司さんがカミングアウトしたからだ。
「対外的なリスクヘッジは対策済みですし、私の両親も彼をパートナーにすることを承知してくれました。皆様方におかれましては……」
亮司さんが毅然とした態度でスピーチを続けるのを、俺は一言一句聞き漏らすまいとして耳を、意識を傾けた。
「ちょっと、亮司さん、こんなところで」
「大丈夫。キミは俺のパートナーだからね」
天然タラシな亮司さんの色気に、俺はどう答えて良いか分からなくて無言のまま俯くと、得意のステージだと思えばいいと亮司さんが言った。
「さあ。晴れ舞台だよ」
「亮司さん、俺……」
「大丈夫だよ。なにも心配しなくて良い」
亮司さんは俺を抱き寄せたまま、先んじて会場入りした美鶴さんが周りに俺たちのエピソードを聞かせて回っているのを苦笑しながら見つめて、会場の奥に控えた人集りに俺を連れていく。
明らかに場違いな俺を、色んな人の好奇の視線が痛いほど刺すけれど、亮司さんの温かい手が大丈夫だと言ってくれるように優しく俺の手を握ってる。
そしてある人物の目の前に立つと、亮司さんは遅くなりましたと、入り口で盛り上がる美鶴さん振り返った。
「紹介したい人に同行してもらいました。高城勇樹さんです」
「そうか。初めてお目に掛かります」
「初めまして」
「日を改めるはずが、今夜は美鶴が手を回してくれたみたいです」
「まったく、あのお嬢さんは」
「本当に。でも舞花も同じことをしたと思うんです」
「そうか」
そうして亮司さんが紹介してくれたのは、亮司さんと舞花の父親で、食品加工企業大手〈オムレット〉の会長である北村幸二さん、そしてその妻の雅代さんだった。
親御さんに紹介されて、まだまだ若干の気不味さがある中、亮司さんはスピーチのためにその場を離れて、俺は彼のご両親と一緒に沈黙の中に居る。
そんな重たい空気を真っ先に破ったのは、亮司さんのお母さんだった。
「貴方が勇樹くんね? 舞花のお墓にずっとお花を供えてくれていたの、貴方なんでしょう?」
それまで黙っていたお母さんが、とても優しい笑顔で俺の手を取る。
「そんなにうちの子たちを大事に思ってくれてありがとう」
「いえ、でも、俺は」
社会的立場がある亮司さんを、世間の冷遇に晒す種になってしまう。
「ねえあなた。亮司はここまでよく頑張って来たじゃないですか。舞花みたいに二度と手が届かなくなってしまうより、亮司が幸せなら、とても素敵なことじゃないですか」
お母さんはスピーチをする亮司さんと、すぐ隣のお父さんを交互に見て、まだ新しく後悔を生むつもりですかとお父さんを優しく諭している。
「高城さんと言ったね。きみは舞花への恩義から、亮司に応えようとしてるだけじゃないんだね?」
「誓ってそのようなことではありません」
「先々、面白がって嫌な目に晒されることも多いと思うが、それでも息子と添い遂げたい。そういうことなのかな」
「俺は救われたんです。舞花さんが俺にダンスを与えてくれたから。そして亮司さんがその意思を受け継いで店を続けてくれたから。だから俺にとって二人は命の恩人なんです」
「恩を返すためにそばに居るというのかい」
「いえ、憚らず申し上げるなら、亮司さんを愛しています。……すみません」
舞花を亡くした上に、亮司さんが男の俺をパートナーにするなんて、親御さんからしたら喜ばしくない話でしかないだろう。
そう思うと許しを乞うように、すみませんという言葉が口から出てしまった。
「すみません。か。それは、だけど譲れない。そういう意味なんだね」
「……はい」
「亮司のこと、頼んだよ」
「ありがとうございます!」
ご両親との距離を少しだけ縮められたと思った時、会場がどよめいた。亮司さんがカミングアウトしたからだ。
「対外的なリスクヘッジは対策済みですし、私の両親も彼をパートナーにすることを承知してくれました。皆様方におかれましては……」
亮司さんが毅然とした態度でスピーチを続けるのを、俺は一言一句聞き漏らすまいとして耳を、意識を傾けた。
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