踊り子さんはその手で乱されたい。

藜-LAI-

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踊り子さんはその手で乱されたい‼︎

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「私のパートナーは、私の妹である北村舞花が立ち上げた店のダンサーですが、また同じく、妹が立ち上げた貧困や虐待から児童を守るための財団法人の代表でもあります」
 亮司さんの言葉に、また会場が水を打ったように静かになる。
「彼はこの私、北村亮司の公私共にパートナーとなる人物です。この場にいらっしゃる方の中には、この話を残念だと受け止める方もいるかも知れません」
 そこで一旦言葉を区切ると、だけど聞き入れはしないと亮司さんは強い眼差しで会場を見渡す。
「私が生涯愛するのは、そこに居る彼だけです」
 亮司さんはそう言って、親御さんと並んで立つ俺を指してにっこりと微笑んだ。
 そんな大波乱のスピーチの結果、亮司さんは公の場でカミングアウトした形になり、そのことはネットニュースの速報でちょっとした騒ぎにもなった。
 亮司さんは親御さんに、今まではどうしても打ち明けられなかったと、自分がゲイであることを改めて伝えると、親御さんはどこか安堵したようにその言葉を受け入れた。
 俺も改めて舞花のおかげで、踏み外した人生の軌道修正が出来たことにお礼を言い、これからもあの店を守りたいことを言葉にして伝えた。
 亮司さんがカミングアウトしたことは、しばらくはネットニュースなどに取り上げられるだろうけど、会社を経営する立場とはいえ、一般人のアイデンティティに関して長く噂は続かない。
 それに舞花が立ち上げた財団法人の代表に関しても、諸々の手続きがようやく終わって、僭越ながら俺がその座を務める手筈になっているそうだ。
 そんな風に色んなことが、歯車が噛み合うように回り始め、俺たちを取り巻く環境は新しいステージに段階を進めようとしている。
 世間話を交えて、幾分話しやすい空気になると、亮司さんはようやくパーソナルな話を掘り下げて話すようになった。
 亮司さんは、俺に出会って初めて呼吸が出来るようになったのだと、長く感じていた息苦しさから解放された話をすると、血の繋がった子を残す期待にだけは応えられないと謝罪した。
「そんなことを気にしていたの? 貴方も仰ってくださいな。亮司は真面目すぎるから、こうして思い詰めてしまって」
 そんなお母さんのアシストもあって、俺は無事に亮司さんの親御さんにパートナーとして受け入れてもらうことが出来た。
「素敵なご両親ですね」
「どうかな。親父は頑固だから、まだ納得は出来てないだろうし、本質では受け入れられてないと思うけどね」
「それでも、俺のこと最後は勇樹くんって、呼んでくれました」
「まあ確かに、最大の譲歩をしてくれたのかもね」
 家までの二十分程のドライブでそんな会話を交わすと、家に帰るなりスーツ姿が唆るとか言う理由で、服を着たまま淫らな情事に耽ってしまった。
 実は俺も亮司さんのビシッと決まったスリーピースのスーツに萌えてしまっていたのは内緒だ。
 そして今現在、あまりにも節操がなさすぎると、亮司さんは俺の説教を黙って聞いている。
「見てください、あなたが力ずくでひん剥いたからボタンが弾けたこのYシャツ。それにネクタイで拘束なんかするから、ほら! 手首にこんな痣まで出来たじゃないですか」
「ごめん」
 ご祝儀の一張羅のスーツには、避妊具も着けずに行為に及んだせいで、あちこちに飛沫が飛んでクリーニングに出すのも憚られる状態だ。
「本当に悪いと思ってるんですかね、亮司さん」
「思ってるよ」
「だったら、さっきからなんでニヤニヤしてるんですか」
「いや、座ってると、シャツの下から見えるんだよね」
「……‼︎ バカですかアンタ!」
 確かに情事の後、とりあえず借りたシャツだけを着て、まあ座れと説教を始めた訳だから、当然亮司さんだって、正座して反省してる風だけどパンツしか履いてない。
 本当に、俺たちはどこまでいっても上手くいかない。
「とりあえず、お風呂入りますか」
「ん? それはお誘いかな」
「違うに決まってんでしょ!」
「知らないのか勇樹、そう言うセリフは誘い受けって言うらしいぞ」
「なんですか! そんなワケないでしょ」
 ああ言えばこう言う亮司さんと、バカみたいな会話をしながら、それでも二人の薬指にはまったリングを見つめて、これから先もこうありたいと静かに願う。
 だって 亮司さんあなたに会ったその日から、俺はずっとその手で乱して欲しくて仕方なかったから。

【完】
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