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踊り子さんとド派手な魔法使い②
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「さあ坊や。これは舞花とアタシからの餞別よ。とはいえアナタはトップダンサーだから店は辞めないでね」
美鶴さんはクスッと笑ってチャーミングな笑顔を見せると、だけど逞しく力強い手で俺の腕を掴み、車から引き摺り下ろしてそのまま店の中に連れ込まれた。
「お待ちしておりました。 鳥越様」
店員の中でも一番偉そうな人が出迎えると、美鶴さんと俺に恭しく頭を下げる。
それにしても、美鶴さんは赤澤さんという名前だった気がするけど、俺の記憶違いだろうか。
ついキョロキョロしてしまう落ち着かない俺の背中をバシッと叩くと、美鶴さんはシャキッとしてなさいと口角を上げた。
「見てごらんなさい、これが亮司が居る世界よ。坊やがこれから立たなきゃいけない場所なの」
美鶴さんの声に、俺の心は奮い立った。
そして店員さんと美鶴さんに、まるで着せ替え人形のように次から次へと服やアクセサリーといった小物まで、何通りも試着させられる。
「髪型が安っぽいのよね。まあ良いわ。あとでサロンに連れて行くから」
「お足元はいかが致しましょう」
「そうね、突貫工事に見えないように、靴は無難なデザインにしましょう。あとはこの色とあっちのスーツ、シャツはやっぱりこの二つね。指輪を際立たせたいから腕時計だけお願い」
「承知致しました」
「え、美鶴さん?」
「だから言ったでしょ、餞別よ。いや違うわね。ご祝儀かしら」
店員さんに渡されたスーツ一式に着替え直すと、シンプルだけど色味が珍しいウイングチップと、洗練されたデザインの腕時計にシルバーのカフスを着けさせられる。
「まあタッパがあって顔も良いから取り繕った感じにはならないわね。さ、すぐにヘアサロンに移動するわよ」
「ちょ、待ってください美鶴さん」
「そのだらしない感じ、整えるわよ」
そしてまた俺は美鶴さんの力強い手で腕を掴まれて、訳が分からないまま車の後部座席に乗り込んだ。
「今日のアナタはシンデレラなのよ、ジル。そしてアタシは金に物を言わせる魔法使い。さっさと王子様のところに行かなくちゃね」
美鶴さんは俺の髪をいじりながら、野暮ったいだとかチャラいと酷評するのに、その表情はいつになく上機嫌だ。
そして五分と経たずに移動した先のヘアサロンで、サッパリした少しワイルドなツーブロックにカットしてもらい、前髪を上げて横に流してオシャレにセットしてもらう。
その上ご丁寧に、ネイルケアまでしてもらって、指の先までピカピカだ。
「やっぱり磨けば光る子ね。これからも頼むわよ」
「あは、頑張ります」
店でもっと稼げという意味なのだろうが、本当にノルマを課されそうで胃がキリキリしてきた。
「さあ、時間がないからさっさと車に乗って」
「はい!」
そしていよいよ、今夜のパーティ会場に到着すると、先に車を降りた美鶴さんに、しばらくここで待っていろと後部座席に置き去りにされてしまった。
ここに来て一気に心拍数が跳ね上がり、俺は本当にどうして良いか分からなくて、左手の薬指で光るリングを握り締めるように指を絡めて手を握った。
「勇樹!」
そこに突然凛とした声が響いて、亮司さんが車のドアを開けて俺をエスコートしてくれる。
「なにがあった。見違えたな」
「なにもないでしょ。この坊やにも現実を見てもらわないとね」
俺が答えるよりも先に、美鶴さんは勝ち誇ったような声を出す。
美鶴さんがアメリカから亮司さんの元にやって来て、いつかなにかが起こる気はしていたけれど、あまりにも苛烈なやり方に俺は言葉が出てこない。
「大丈夫か、勇樹」
「すみません、亮司さん。俺、来て良かったんでしょうか」
「ちょっと亮司! エスコートの相手を不安にさせるなんて最低よ」
美鶴さんは可笑しそうに笑って、頑張りなさいねと俺の肩を叩くと、先に会場の方に入って行く。
「ごめんね、勇樹。キミにも関係のあることなのに、俺は一人でなんとかしようとしてたんだ。もし良かったらそばに居て力をくれないか」
「俺で力になれるなら喜んで」
「そうか。心強いよ」
美鶴さんはクスッと笑ってチャーミングな笑顔を見せると、だけど逞しく力強い手で俺の腕を掴み、車から引き摺り下ろしてそのまま店の中に連れ込まれた。
「お待ちしておりました。 鳥越様」
店員の中でも一番偉そうな人が出迎えると、美鶴さんと俺に恭しく頭を下げる。
それにしても、美鶴さんは赤澤さんという名前だった気がするけど、俺の記憶違いだろうか。
ついキョロキョロしてしまう落ち着かない俺の背中をバシッと叩くと、美鶴さんはシャキッとしてなさいと口角を上げた。
「見てごらんなさい、これが亮司が居る世界よ。坊やがこれから立たなきゃいけない場所なの」
美鶴さんの声に、俺の心は奮い立った。
そして店員さんと美鶴さんに、まるで着せ替え人形のように次から次へと服やアクセサリーといった小物まで、何通りも試着させられる。
「髪型が安っぽいのよね。まあ良いわ。あとでサロンに連れて行くから」
「お足元はいかが致しましょう」
「そうね、突貫工事に見えないように、靴は無難なデザインにしましょう。あとはこの色とあっちのスーツ、シャツはやっぱりこの二つね。指輪を際立たせたいから腕時計だけお願い」
「承知致しました」
「え、美鶴さん?」
「だから言ったでしょ、餞別よ。いや違うわね。ご祝儀かしら」
店員さんに渡されたスーツ一式に着替え直すと、シンプルだけど色味が珍しいウイングチップと、洗練されたデザインの腕時計にシルバーのカフスを着けさせられる。
「まあタッパがあって顔も良いから取り繕った感じにはならないわね。さ、すぐにヘアサロンに移動するわよ」
「ちょ、待ってください美鶴さん」
「そのだらしない感じ、整えるわよ」
そしてまた俺は美鶴さんの力強い手で腕を掴まれて、訳が分からないまま車の後部座席に乗り込んだ。
「今日のアナタはシンデレラなのよ、ジル。そしてアタシは金に物を言わせる魔法使い。さっさと王子様のところに行かなくちゃね」
美鶴さんは俺の髪をいじりながら、野暮ったいだとかチャラいと酷評するのに、その表情はいつになく上機嫌だ。
そして五分と経たずに移動した先のヘアサロンで、サッパリした少しワイルドなツーブロックにカットしてもらい、前髪を上げて横に流してオシャレにセットしてもらう。
その上ご丁寧に、ネイルケアまでしてもらって、指の先までピカピカだ。
「やっぱり磨けば光る子ね。これからも頼むわよ」
「あは、頑張ります」
店でもっと稼げという意味なのだろうが、本当にノルマを課されそうで胃がキリキリしてきた。
「さあ、時間がないからさっさと車に乗って」
「はい!」
そしていよいよ、今夜のパーティ会場に到着すると、先に車を降りた美鶴さんに、しばらくここで待っていろと後部座席に置き去りにされてしまった。
ここに来て一気に心拍数が跳ね上がり、俺は本当にどうして良いか分からなくて、左手の薬指で光るリングを握り締めるように指を絡めて手を握った。
「勇樹!」
そこに突然凛とした声が響いて、亮司さんが車のドアを開けて俺をエスコートしてくれる。
「なにがあった。見違えたな」
「なにもないでしょ。この坊やにも現実を見てもらわないとね」
俺が答えるよりも先に、美鶴さんは勝ち誇ったような声を出す。
美鶴さんがアメリカから亮司さんの元にやって来て、いつかなにかが起こる気はしていたけれど、あまりにも苛烈なやり方に俺は言葉が出てこない。
「大丈夫か、勇樹」
「すみません、亮司さん。俺、来て良かったんでしょうか」
「ちょっと亮司! エスコートの相手を不安にさせるなんて最低よ」
美鶴さんは可笑しそうに笑って、頑張りなさいねと俺の肩を叩くと、先に会場の方に入って行く。
「ごめんね、勇樹。キミにも関係のあることなのに、俺は一人でなんとかしようとしてたんだ。もし良かったらそばに居て力をくれないか」
「俺で力になれるなら喜んで」
「そうか。心強いよ」
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