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踊り子さんとド派手な魔法使い①
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すっかり体調も回復して、体の鈍りを調整するために〈バイオレットフラクション〉には無理を言って休みを延ばしてもらい、ダンススクールで個人レッスンに打ち込んで三日目。
インフルエンザで朦朧としてた時に見た光景は夢じゃなくて、亮司さんは俺がリングを身につけていないことをひどく怒って、あれ以来ネックレスに通して肌身離さず身に着けている。
そしてそんな俺の元に、予想だにしない訪問者がやって来たのは、トレーニングを終えてダンススクールを出た時だった。
「お疲れ様、ジル」
「え?」
「こんばんは。ちょっと時間、貰えるかしら」
目の前に現れたのは、明らかにブランド物だと分かる仕立ての良いセットアップに身を包んだ美鶴さんだった。
そして彼女の声には、質問してるようで否定は受け付けないという気迫が滲んでるのは、俺にそれなりの話があってのことなんだろう。
「シャワーとか浴びてないんで、汗臭いですけど」
「大丈夫よ。とりあえず乗って」
美鶴さんはすぐ先の路地に停まった黒いセダンを指差すと、カツカツとヒールを鳴らして先にそちらへ向かってしまう。
だから慌ててその後を追うと、後部座席のドアを開けて、そのまま奥に乗り込めと指示されるまま、俺は大人しく車に乗り込んだ。
「まさか、アナタだったとはね。ジル」
「あの、話がよく分からないんですけど」
「分かるでしょ。亮司と付き合ってるんじゃないの?」
あまりにも淡々として当たり前のことのような美鶴さんの物言いに、俺は驚きで呆然とする。
「まさかとは思うけど、亮司から何も聞いてないの」
「それってどういう意味ですか」
「ヤダ。アイツなにしてんのよ、まったく」
美鶴さんは呆れたような声を出すと、左手の薬指にはまったリングを俺の前に差し出す。
「勘違いされたら嫌だから早めに言っとく。私ちゃんと旦那居るから。亮司も舞花も私にとっちゃただの 弟妹。本当にそれだけだからね」
そのリングはすごくゴージャスで、多分世間で言うところのアニバーサリーリングと結婚指輪のコンビなのだろう。とても素敵なものだと思う。
そう思った瞬間、俺の持ってるリングも愛が詰まったいわば結婚指輪で、だから煌びやかさはなくても重さは一緒だと、ネックレスに通したリングを握り締めた。
「あら? そんなところにつけてたの。まあ良いわ。アナタにはちょっと変身してもらうから、その指輪ちゃんとはめなさい」
「は?」
「まだ分からないのかしら、アナタにしか亮司の相手は務まらないって言ってるのよ坊や」
そう言った美鶴さんの手が俺の首に巻き付くように伸びて、ネックレスの留め具を外して器用にリングを抜くと、再びネックレスを留め直す。
鬼軍曹と呼ばれる彼女だけど、やはり圧倒的な美貌と、年齢不詳のダイナマイトボディから溢れ出る、女性らしい華やかな香りにはドキドキしてしまう。
「ちょっと坊や、なに惚けてるの。はいこれ、指輪は自分でつけてね、じゃないと亮司に怒られちゃうわ」
「……あの、一体どう言うことなんでしょう」
「今夜はね、亮司の親御さんが経営する〈オムレット〉主催のパーティがあってね、そこで亮司がプライベートな発表をするの」
「プライペートって」
「ここまで言っても分からないの? アナタは亮司にとってそれほど大切な存在ってことよ。だけど亮司は、矢面に立つのは自分だけで良いと考えてるの。まあ社会的な立場があるからね」
「でもそれなら尚更です。俺なんかが、そんな場所に顔を出すべきじゃないんじゃないですか」
「卑屈ねえ。そんなんじゃやっていけないわよ? アナタ舞花からなにを学んだの? 大人しく構えてればボタモチが降ってくるってあの子が教えたの? 違うでしょ」
「ボタモチって」
美鶴さんの言い様が可笑しくて噴き出すと、彼女は豪快に笑いながら、食べたきゃ届くまで手を伸ばすべきでしょと俺の肩を叩く。
そして美鶴さんと舞花の話で盛り上がっていると、車が停まり、俺でも知ってる高級ブランドの目の前に到着したようだった。
インフルエンザで朦朧としてた時に見た光景は夢じゃなくて、亮司さんは俺がリングを身につけていないことをひどく怒って、あれ以来ネックレスに通して肌身離さず身に着けている。
そしてそんな俺の元に、予想だにしない訪問者がやって来たのは、トレーニングを終えてダンススクールを出た時だった。
「お疲れ様、ジル」
「え?」
「こんばんは。ちょっと時間、貰えるかしら」
目の前に現れたのは、明らかにブランド物だと分かる仕立ての良いセットアップに身を包んだ美鶴さんだった。
そして彼女の声には、質問してるようで否定は受け付けないという気迫が滲んでるのは、俺にそれなりの話があってのことなんだろう。
「シャワーとか浴びてないんで、汗臭いですけど」
「大丈夫よ。とりあえず乗って」
美鶴さんはすぐ先の路地に停まった黒いセダンを指差すと、カツカツとヒールを鳴らして先にそちらへ向かってしまう。
だから慌ててその後を追うと、後部座席のドアを開けて、そのまま奥に乗り込めと指示されるまま、俺は大人しく車に乗り込んだ。
「まさか、アナタだったとはね。ジル」
「あの、話がよく分からないんですけど」
「分かるでしょ。亮司と付き合ってるんじゃないの?」
あまりにも淡々として当たり前のことのような美鶴さんの物言いに、俺は驚きで呆然とする。
「まさかとは思うけど、亮司から何も聞いてないの」
「それってどういう意味ですか」
「ヤダ。アイツなにしてんのよ、まったく」
美鶴さんは呆れたような声を出すと、左手の薬指にはまったリングを俺の前に差し出す。
「勘違いされたら嫌だから早めに言っとく。私ちゃんと旦那居るから。亮司も舞花も私にとっちゃただの 弟妹。本当にそれだけだからね」
そのリングはすごくゴージャスで、多分世間で言うところのアニバーサリーリングと結婚指輪のコンビなのだろう。とても素敵なものだと思う。
そう思った瞬間、俺の持ってるリングも愛が詰まったいわば結婚指輪で、だから煌びやかさはなくても重さは一緒だと、ネックレスに通したリングを握り締めた。
「あら? そんなところにつけてたの。まあ良いわ。アナタにはちょっと変身してもらうから、その指輪ちゃんとはめなさい」
「は?」
「まだ分からないのかしら、アナタにしか亮司の相手は務まらないって言ってるのよ坊や」
そう言った美鶴さんの手が俺の首に巻き付くように伸びて、ネックレスの留め具を外して器用にリングを抜くと、再びネックレスを留め直す。
鬼軍曹と呼ばれる彼女だけど、やはり圧倒的な美貌と、年齢不詳のダイナマイトボディから溢れ出る、女性らしい華やかな香りにはドキドキしてしまう。
「ちょっと坊や、なに惚けてるの。はいこれ、指輪は自分でつけてね、じゃないと亮司に怒られちゃうわ」
「……あの、一体どう言うことなんでしょう」
「今夜はね、亮司の親御さんが経営する〈オムレット〉主催のパーティがあってね、そこで亮司がプライベートな発表をするの」
「プライペートって」
「ここまで言っても分からないの? アナタは亮司にとってそれほど大切な存在ってことよ。だけど亮司は、矢面に立つのは自分だけで良いと考えてるの。まあ社会的な立場があるからね」
「でもそれなら尚更です。俺なんかが、そんな場所に顔を出すべきじゃないんじゃないですか」
「卑屈ねえ。そんなんじゃやっていけないわよ? アナタ舞花からなにを学んだの? 大人しく構えてればボタモチが降ってくるってあの子が教えたの? 違うでしょ」
「ボタモチって」
美鶴さんの言い様が可笑しくて噴き出すと、彼女は豪快に笑いながら、食べたきゃ届くまで手を伸ばすべきでしょと俺の肩を叩く。
そして美鶴さんと舞花の話で盛り上がっていると、車が停まり、俺でも知ってる高級ブランドの目の前に到着したようだった。
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