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踊り子さんは自信がない①
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また夢を見た。
今度は過保護なくらい亮司さんに構われる夢だ。
俺がネックレスをしてないことを怒ってるのか、一応客商売だし店では着けてないと答えると、見せつけて悔しがらせたら良いと口を尖らせる姿が、普段と違って可愛かった。
そして俺の指にリングをはめると、安心したように微笑んで、ネックレスなんて用意するんじゃなかったと、揃いのリングをはめた手で指を絡めてしっかりと俺の手を握る。
「りょ……じ、さん」
鼻も詰まってるし、夢だって分かってるのに、彼が普段つけてる香水の匂いがした気がして、切なくなって彼の名前を呼ぶ。
そして夢だから都合よく、今はゆっくり寝ていろと優しい手が頭を撫でてくれて、その心地良さに俺は意識を手放した。
それからどれくらい眠ってたんだろう。
目が覚めると、当たり前だけど部屋が暗くて、だけど明らかに見慣れた天井じゃないことに驚く。
「えっ⁉︎ ……うっ、ゴホッゴホッ」
慌てて起き上がったからか、咽せて咳き込むと、そこに居るはずがない人影が立ち上がって大丈夫かと背中をさすってくれる。
「亮司、さん?」
「驚かせたかな」
「え、なんで? ここ、亮司さんちですよね」
「とりあえず横になった方が良い。今飲み物持ってきてあげるから。ね?」
訳が分からないまま亮司さんに寝かしつけられると、首元にひんやりとした心地いい物が当たる。氷枕だ。
それにおでこも、冷却シートが貼られてることに気が付いて、亮司さんが全てやってくれたのかと申し訳ない気持ちになる。
「寝たままで飲めるように、ストローのキャップに取り替えてあるから」
ベッドルームに戻ってきた亮司さんは、ペットボトルの蓋にストローが付いた、変わった飲み口を取り付けたスポーツドリンクを俺の目の前に差し出した。
「いただきます」
布団の中から手を出してペットボトルを握ると、危なっかしいなと亮司さんが苦笑して飲むのを手伝ってくれる。
「もう良いのか」
「はい。それより俺、どうしてここに」
「心配で家に行ったら、看病しようにも足りない物が多過ぎてね。勇樹には移動で負担を掛けたけど、うちに運んで来たんだよ」
「そんなわざわざ」
「買い揃えても良かったんだけど、うちに連れてきた方が早いと思って。それに勇樹の家より、うちに居てくれた方が俺も看病しやすいから」
そう言って心配したよと俺の髪を優しく撫でる亮司さんに、つい嬉しくて目頭が熱くなるけど、肝心なことを思い出して俺は慌ててその手を掴む。
「いや、でも俺インフルエンザなんで。ダメですよ」
「それは聞いてる。俺はワクチン打ってるから大丈夫だよ」
「でもうつる時はうつります。亮司さん、ただでさえ忙しいのに」
「恋人の心配くらいさせてくれ。俺がしたいからやってることなんだよ、勇樹」
「だけど」
「大丈夫、俺の心配は良いから。それよりちょっと熱を測ろうか。うちに連れてきた時は四十度超えてたから、ちょっと心配だったけど」
どうりで記憶が全くないワケだ。
俺が熱を測ってる間に、亮司さんはキッチンに移動して薬を飲むために何か食べた方が良いからと、お粥を作ってくれるらしい。
「大丈夫です。三十八度五分でした」
「いや、それ大丈夫じゃないから」
そう言って少しパリパリになった冷却シートを貼り替えると、薬は家から持ってきたよと、亮司さんがサイドテーブルに処方薬を置いてくれたので安心する。
寝てるだけで治るかもしれないけど、薬を飲めばそれだけ早く楽になる。
「さて。食欲はないかもしれないけど、お粥に梅干しを落としたから、塩分と水分をしっかり摂ろうね」
「本当、すみません」
「良いよ。逆なら放っておかないだろ? だから気にしないで」
亮司さんは俺が起き上がるのを手伝うと、食べさせようかとレンゲで掬ったお粥を冷まし始める。
今度は過保護なくらい亮司さんに構われる夢だ。
俺がネックレスをしてないことを怒ってるのか、一応客商売だし店では着けてないと答えると、見せつけて悔しがらせたら良いと口を尖らせる姿が、普段と違って可愛かった。
そして俺の指にリングをはめると、安心したように微笑んで、ネックレスなんて用意するんじゃなかったと、揃いのリングをはめた手で指を絡めてしっかりと俺の手を握る。
「りょ……じ、さん」
鼻も詰まってるし、夢だって分かってるのに、彼が普段つけてる香水の匂いがした気がして、切なくなって彼の名前を呼ぶ。
そして夢だから都合よく、今はゆっくり寝ていろと優しい手が頭を撫でてくれて、その心地良さに俺は意識を手放した。
それからどれくらい眠ってたんだろう。
目が覚めると、当たり前だけど部屋が暗くて、だけど明らかに見慣れた天井じゃないことに驚く。
「えっ⁉︎ ……うっ、ゴホッゴホッ」
慌てて起き上がったからか、咽せて咳き込むと、そこに居るはずがない人影が立ち上がって大丈夫かと背中をさすってくれる。
「亮司、さん?」
「驚かせたかな」
「え、なんで? ここ、亮司さんちですよね」
「とりあえず横になった方が良い。今飲み物持ってきてあげるから。ね?」
訳が分からないまま亮司さんに寝かしつけられると、首元にひんやりとした心地いい物が当たる。氷枕だ。
それにおでこも、冷却シートが貼られてることに気が付いて、亮司さんが全てやってくれたのかと申し訳ない気持ちになる。
「寝たままで飲めるように、ストローのキャップに取り替えてあるから」
ベッドルームに戻ってきた亮司さんは、ペットボトルの蓋にストローが付いた、変わった飲み口を取り付けたスポーツドリンクを俺の目の前に差し出した。
「いただきます」
布団の中から手を出してペットボトルを握ると、危なっかしいなと亮司さんが苦笑して飲むのを手伝ってくれる。
「もう良いのか」
「はい。それより俺、どうしてここに」
「心配で家に行ったら、看病しようにも足りない物が多過ぎてね。勇樹には移動で負担を掛けたけど、うちに運んで来たんだよ」
「そんなわざわざ」
「買い揃えても良かったんだけど、うちに連れてきた方が早いと思って。それに勇樹の家より、うちに居てくれた方が俺も看病しやすいから」
そう言って心配したよと俺の髪を優しく撫でる亮司さんに、つい嬉しくて目頭が熱くなるけど、肝心なことを思い出して俺は慌ててその手を掴む。
「いや、でも俺インフルエンザなんで。ダメですよ」
「それは聞いてる。俺はワクチン打ってるから大丈夫だよ」
「でもうつる時はうつります。亮司さん、ただでさえ忙しいのに」
「恋人の心配くらいさせてくれ。俺がしたいからやってることなんだよ、勇樹」
「だけど」
「大丈夫、俺の心配は良いから。それよりちょっと熱を測ろうか。うちに連れてきた時は四十度超えてたから、ちょっと心配だったけど」
どうりで記憶が全くないワケだ。
俺が熱を測ってる間に、亮司さんはキッチンに移動して薬を飲むために何か食べた方が良いからと、お粥を作ってくれるらしい。
「大丈夫です。三十八度五分でした」
「いや、それ大丈夫じゃないから」
そう言って少しパリパリになった冷却シートを貼り替えると、薬は家から持ってきたよと、亮司さんがサイドテーブルに処方薬を置いてくれたので安心する。
寝てるだけで治るかもしれないけど、薬を飲めばそれだけ早く楽になる。
「さて。食欲はないかもしれないけど、お粥に梅干しを落としたから、塩分と水分をしっかり摂ろうね」
「本当、すみません」
「良いよ。逆なら放っておかないだろ? だから気にしないで」
亮司さんは俺が起き上がるのを手伝うと、食べさせようかとレンゲで掬ったお粥を冷まし始める。
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