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踊り子さんはフラグを叩き折る②
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「大丈夫ですか。もしかして具合悪いんじゃないですか。ちゃんと睡眠取りました?」
「うん。まあ、ちゃんと話すから聞いてくれるかな」
「それはもちろん構いませんけど」
グラスとマグカップを両手に、キッチンからリビングに向かって来る亮司さんから、冷えたお茶の入ったグラスを受け取ると、横並びにソファーに座る彼の顔を見た。
うっすらと無精髭が伸び、目の下には隈も出来てるし、かなり疲労が溜まってる様子に愕然とする。
「なにがあったんですか」
「うちの会社で横領が発覚してね。俺に疑いが掛かるように仕向けられていたから、親会社が介入してバタバタしたんだ。無関係だという証拠が見つかるまで、二日ほど身柄を拘束されてた」
「じゃあ、嫌疑は晴れたってことですよね」
「うん。それで今度は犯人探しをすることになって、事実確認を進めるうちに、横領犯を特定して、その女性社員に外部から指示を出してた犯人を突き止めることが出来たよ」
「……もしかして、それ登野坂さんじゃないですか」
嫌な予感がして、何気なくその名前を口に出した。
「どうして」
亮司さんは驚いた表情で俺を見つめて、なにがあったのかと体ごとこちらを向くと、まさかあの店もかと眉を顰める。
俺が店で聞いた噂話を亮司さんに話して聞かせると、亮司さんは顔色を変えて立ち上がり、すぐに店に行こうと俺の手を取った。
「どこまで話が進んでるか分からないが、売却の話が本当に出てるとしたら、早く対処しないとマズいことになる」
舞花から店を引き継ぐ際、世話になった銀行の担当から登野坂を紹介されたらしく、コンサルとしては名が知られている企業に籍を置いているので安心し切ってたらしい。
だけど今回のことが発覚して、登野坂について詳しく調べると、叩けば埃が出てくる人物だった訳だ。
亮司さんによれば、幼い頃に親の会社が倒産したのを逆恨みして今回の事件を企てたという話だが、倒産の原因は別にあって亮司サイドに落ち度はないという。
「うちの親会社と取り引きがあったのは確かだけど、羽振りの良い時の生き方を変えられなかったみたいで、経営が破綻してる中で投資に失敗して自滅したようだね」
「そんなくだらない理由で。仕返しのつもりだったんでしょうか」
「分からない。当事者だった登野坂の両親は無理心中したらしくて、本人はその生き残りだそうだよ」
施設で育ち、中学生の時に養父母である登野坂家に引き取られて今の地位を築いたらしいが、元より親の復讐の機会を窺っていた節はあるようだ。
「バカだよな。気忙しくしてたからって、店の管理を任せきりにしてしまうなんて」
「でもそれは」
「いいや。あの店の価値は充分に分かってたのに。舞花やキミたちが守ってきた城を、簡単に人の手に委ねた俺の判断ミスだ」
亮司さんはひどく落ち込んだ様子で、ハンドルを握る手に力を込めた。
俺には経営のことなんて一切分からないし、亮司さんの立場で〈バイオレットフラクション〉を守るのが、どれだけ大変なことなのか想像も付かない。
小さな規模の店とはいえ、勝手の違うあの店の経営を引き継ぐことになって、かなり多忙な生活を送っていることを、一番近くで見て知っていたはずなのに、なんの力にも慣れていない自分の不甲斐なさが歯がゆい。
俺はただ、そこの商品として踊ることしか出来ないんだから。
(もっと、この人の力になりたい)
二度とこんなことが起きないように、俺に出来ることがなんなのか、一度きちんと調べてみようと俺は膝の上に握った拳に力を込めた。
店に着くとセッティが話していた客が事務所に居座って、取り引きを持ち掛けてきた登野坂と連絡がつかないと騒ぎを起こしていて、亮司さんはすぐに対応にあたることになった。
そして後日、亮司さんサイドが刑事告訴に踏み切ったことで、今回の首謀者である登野坂は逮捕されるに至った。
「うん。まあ、ちゃんと話すから聞いてくれるかな」
「それはもちろん構いませんけど」
グラスとマグカップを両手に、キッチンからリビングに向かって来る亮司さんから、冷えたお茶の入ったグラスを受け取ると、横並びにソファーに座る彼の顔を見た。
うっすらと無精髭が伸び、目の下には隈も出来てるし、かなり疲労が溜まってる様子に愕然とする。
「なにがあったんですか」
「うちの会社で横領が発覚してね。俺に疑いが掛かるように仕向けられていたから、親会社が介入してバタバタしたんだ。無関係だという証拠が見つかるまで、二日ほど身柄を拘束されてた」
「じゃあ、嫌疑は晴れたってことですよね」
「うん。それで今度は犯人探しをすることになって、事実確認を進めるうちに、横領犯を特定して、その女性社員に外部から指示を出してた犯人を突き止めることが出来たよ」
「……もしかして、それ登野坂さんじゃないですか」
嫌な予感がして、何気なくその名前を口に出した。
「どうして」
亮司さんは驚いた表情で俺を見つめて、なにがあったのかと体ごとこちらを向くと、まさかあの店もかと眉を顰める。
俺が店で聞いた噂話を亮司さんに話して聞かせると、亮司さんは顔色を変えて立ち上がり、すぐに店に行こうと俺の手を取った。
「どこまで話が進んでるか分からないが、売却の話が本当に出てるとしたら、早く対処しないとマズいことになる」
舞花から店を引き継ぐ際、世話になった銀行の担当から登野坂を紹介されたらしく、コンサルとしては名が知られている企業に籍を置いているので安心し切ってたらしい。
だけど今回のことが発覚して、登野坂について詳しく調べると、叩けば埃が出てくる人物だった訳だ。
亮司さんによれば、幼い頃に親の会社が倒産したのを逆恨みして今回の事件を企てたという話だが、倒産の原因は別にあって亮司サイドに落ち度はないという。
「うちの親会社と取り引きがあったのは確かだけど、羽振りの良い時の生き方を変えられなかったみたいで、経営が破綻してる中で投資に失敗して自滅したようだね」
「そんなくだらない理由で。仕返しのつもりだったんでしょうか」
「分からない。当事者だった登野坂の両親は無理心中したらしくて、本人はその生き残りだそうだよ」
施設で育ち、中学生の時に養父母である登野坂家に引き取られて今の地位を築いたらしいが、元より親の復讐の機会を窺っていた節はあるようだ。
「バカだよな。気忙しくしてたからって、店の管理を任せきりにしてしまうなんて」
「でもそれは」
「いいや。あの店の価値は充分に分かってたのに。舞花やキミたちが守ってきた城を、簡単に人の手に委ねた俺の判断ミスだ」
亮司さんはひどく落ち込んだ様子で、ハンドルを握る手に力を込めた。
俺には経営のことなんて一切分からないし、亮司さんの立場で〈バイオレットフラクション〉を守るのが、どれだけ大変なことなのか想像も付かない。
小さな規模の店とはいえ、勝手の違うあの店の経営を引き継ぐことになって、かなり多忙な生活を送っていることを、一番近くで見て知っていたはずなのに、なんの力にも慣れていない自分の不甲斐なさが歯がゆい。
俺はただ、そこの商品として踊ることしか出来ないんだから。
(もっと、この人の力になりたい)
二度とこんなことが起きないように、俺に出来ることがなんなのか、一度きちんと調べてみようと俺は膝の上に握った拳に力を込めた。
店に着くとセッティが話していた客が事務所に居座って、取り引きを持ち掛けてきた登野坂と連絡がつかないと騒ぎを起こしていて、亮司さんはすぐに対応にあたることになった。
そして後日、亮司さんサイドが刑事告訴に踏み切ったことで、今回の首謀者である登野坂は逮捕されるに至った。
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