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オーナーだって愛したい②⭐︎
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「本当に、我が妹ながら……アイツには敵わないな」
この先、勇樹を手放すつもりはないけれど、明日なのか、一月先なのか、それとももっと先になるのか、どのみち現実を突き付けられる日は来るだろう。
その時も勇樹がそばにいてくれるなら、俺は間違った判断をしなくて済むかも知れない。
「ありがとうな、勇樹」
愛しい恋人を抱き締めると心に温かな安堵が広がって、きっと朝までの僅かな時間を穏やかに眠って過ごすことが出来るだろう。
いつか来る日のことはその時に考えれば良い。今この腕の中で、俺に身を委ねてくれる勇樹を大切にしたい。
そんなことをぼんやりと考えていると、うとうとして寝入ってしまったらしく、気が付くとセットしたアラームの音で目が覚める。
「ん……」
「まだ寝てて構わないよ」
勇樹にそう呟いてキスをすると、僅かに口元が笑を刻んで幼い印象の顔になる。
そんな顔を見てしまったら、腕の中に閉じ込めたままにしておきたいけど、俺はそっと腕枕を外してベッドを出た。
舞花の墓参りには、俺もしばらく行けてはいない。
そもそも俺は家族だから、こまめに法要がある間は墓に行く理由もあるし、沈黙する妹が納まった墓石を前に、正直なところ何を話せば良いのか分からない。
今どう感じているかは別として、そこまで仲の良い兄妹でもなかったし、舞花にとっては小言がうるさい鬱陶しい兄だったに違いない。
顔を洗って髭を剃り、キッチンに立って朝食の支度をしていると、Tシャツとボクサーパンツ姿の勇樹が目を擦りながら起きてきた。
「おはようございます」
「まだ寝てても良かったのに」
「いや、良い匂いで腹が鳴って」
「あはは。顔洗っておいで」
「はい」
料理といっても、俺は勇樹と付き合うまで朝食を食べる習慣がなかった。
だから今朝も取り立てて難しい手の込んだものを作っている訳じゃない。
一人の時はこれに頼り切りのカップスープの素と、スクランブルエッグとボイルしたウインナー。茹でたマカロニとツナや玉ねぎ、ブロッコリーをマヨネーズで和えた簡単なサラダ。それにトーストしたパン。
皿に適当に盛り付けてダイニングテーブルにそれを並べてると、今日も豪華ですねと勇樹が目をキラキラさせて椅子に座った。
「食べるようになると、しっかり食べないと午前中に力が出ないんだよね」
「亮司さん、本当に朝は食べませんでしたもんね」
「キミのおかげだよ、勇樹」
「いや、俺は使ってあげたりは出来ないんで」
「そんなのは、出来る方がすれば良いことだよ。さ、冷めないうちに食べようか」
「やった。いただきます!」
向かい合って食事をしながら、昨夜とは打って変わってたわいない世間話をして朝食をとる。
何気ない話でも、勇樹とそれを共有することで、日常の景色がガラリと変わったような気がするのは、決して気のせいではないと思う。
俺が、俺自身のために呼吸をしている。そんな風にようやく思えるのは、やっぱり勇樹がそばにいてくれるからだ。
「ありがとうね、勇樹」
「はい?」
「いや、なんでもない」
「なんでお礼を言ったんですか?」
「本当になんでもないんだ。俺はキミが凄く好きだって伝えたかった」
「なっ……」
「あれ、こんなことでそんなに真っ赤になるのかい」
照れて顔を覆う勇樹を揶揄うと、こんな日が続けば良いと思うし、こんな日々を守るためには、俺がどうするべきなのか、早いうちに腹を括らないといけない。
もちろん勇樹にも釘を刺されたし、全てを投げ出すようなバカはしない。
俺だって、欲しいものは力ずくでも絶対に手に入れる。
耳まだ真っ赤にしながらパンを頬張る勇樹を見つめて、俺は静かにそんなことを考えていた。
この先、勇樹を手放すつもりはないけれど、明日なのか、一月先なのか、それとももっと先になるのか、どのみち現実を突き付けられる日は来るだろう。
その時も勇樹がそばにいてくれるなら、俺は間違った判断をしなくて済むかも知れない。
「ありがとうな、勇樹」
愛しい恋人を抱き締めると心に温かな安堵が広がって、きっと朝までの僅かな時間を穏やかに眠って過ごすことが出来るだろう。
いつか来る日のことはその時に考えれば良い。今この腕の中で、俺に身を委ねてくれる勇樹を大切にしたい。
そんなことをぼんやりと考えていると、うとうとして寝入ってしまったらしく、気が付くとセットしたアラームの音で目が覚める。
「ん……」
「まだ寝てて構わないよ」
勇樹にそう呟いてキスをすると、僅かに口元が笑を刻んで幼い印象の顔になる。
そんな顔を見てしまったら、腕の中に閉じ込めたままにしておきたいけど、俺はそっと腕枕を外してベッドを出た。
舞花の墓参りには、俺もしばらく行けてはいない。
そもそも俺は家族だから、こまめに法要がある間は墓に行く理由もあるし、沈黙する妹が納まった墓石を前に、正直なところ何を話せば良いのか分からない。
今どう感じているかは別として、そこまで仲の良い兄妹でもなかったし、舞花にとっては小言がうるさい鬱陶しい兄だったに違いない。
顔を洗って髭を剃り、キッチンに立って朝食の支度をしていると、Tシャツとボクサーパンツ姿の勇樹が目を擦りながら起きてきた。
「おはようございます」
「まだ寝てても良かったのに」
「いや、良い匂いで腹が鳴って」
「あはは。顔洗っておいで」
「はい」
料理といっても、俺は勇樹と付き合うまで朝食を食べる習慣がなかった。
だから今朝も取り立てて難しい手の込んだものを作っている訳じゃない。
一人の時はこれに頼り切りのカップスープの素と、スクランブルエッグとボイルしたウインナー。茹でたマカロニとツナや玉ねぎ、ブロッコリーをマヨネーズで和えた簡単なサラダ。それにトーストしたパン。
皿に適当に盛り付けてダイニングテーブルにそれを並べてると、今日も豪華ですねと勇樹が目をキラキラさせて椅子に座った。
「食べるようになると、しっかり食べないと午前中に力が出ないんだよね」
「亮司さん、本当に朝は食べませんでしたもんね」
「キミのおかげだよ、勇樹」
「いや、俺は使ってあげたりは出来ないんで」
「そんなのは、出来る方がすれば良いことだよ。さ、冷めないうちに食べようか」
「やった。いただきます!」
向かい合って食事をしながら、昨夜とは打って変わってたわいない世間話をして朝食をとる。
何気ない話でも、勇樹とそれを共有することで、日常の景色がガラリと変わったような気がするのは、決して気のせいではないと思う。
俺が、俺自身のために呼吸をしている。そんな風にようやく思えるのは、やっぱり勇樹がそばにいてくれるからだ。
「ありがとうね、勇樹」
「はい?」
「いや、なんでもない」
「なんでお礼を言ったんですか?」
「本当になんでもないんだ。俺はキミが凄く好きだって伝えたかった」
「なっ……」
「あれ、こんなことでそんなに真っ赤になるのかい」
照れて顔を覆う勇樹を揶揄うと、こんな日が続けば良いと思うし、こんな日々を守るためには、俺がどうするべきなのか、早いうちに腹を括らないといけない。
もちろん勇樹にも釘を刺されたし、全てを投げ出すようなバカはしない。
俺だって、欲しいものは力ずくでも絶対に手に入れる。
耳まだ真っ赤にしながらパンを頬張る勇樹を見つめて、俺は静かにそんなことを考えていた。
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