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オーナーの独白②⭐︎
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(なんだよ、そういうことだったのか)
聞き及んだ噂は本当で、勇樹は舞花の恋人などではなく、ただ純粋に姉のように慕っていたのだろう。
兄の立場からすると、そこまで親身に慕ってくれる人が居たことに驚きを隠せなかったが、店のダンサーたちも口を揃えて、舞花のことを褒めちぎるので、今更気が付いた。
俺が見ようとしなかった舞花の世界は、想像とは正反対の、厳しくもキラキラとした眩しい世界だったのだと。
今になって、妹の努力を認めようとしなかったことへの罪悪感でおかしくなりそうになった上に、勇樹が突然仕事を休むと言い出した。
こうして俺は、欲しいものを欲しいとも言えず、自由に生きる人を羨んで、悪足掻きすら出来ないまま生きていくのかと思うと息が詰まった。
そして、事務所を訪ねて来た勇樹がソファーで眠り込んでいるのを見た時、しない後悔に価値があるのかと自問自答して足掻く方を選んだ。
「……亮司さん? どうしたの」
「いや、朝まで寝てる訳にもいかないと思って」
「そっか。ここ、店の事務所だったね」
「なあ、勇樹」
「ん?」
「肝心なことを伝えてなかった」
俺がそう呟くと、僅かに勇樹の体が強張った。
俺は遊びでこんなことが出来る程、器用なタイプじゃない。
それが勇樹にとっては重たいことかも知れないと思うと、この先の言葉を告げるべきなのか一瞬躊躇ってしまう。
「亮司さん、大丈夫だよ」
「え?」
「ほら、舞花が突然居なくなったり、色々あったからさ」
「いや、勇樹」
「本当に、俺なんかに気を遣わなくて大丈夫だよ」
距離を取るような勇樹の言葉に、やっぱりかと思いながらも、しない後悔より足掻く方を選んだんじゃないのかと、自分を奮い立たせる。
「勇樹、俺はキミが好きなんだ」
「……え」
「俺はキミが思ってるほど器用でもないし、大した大人でもない。もしかしたら舞花の方がよほどしっかりしてたかも知れない」
目の前の愛しい存在に、認めたくない弱い部分を曝け出すと、あたたかい掌が俺の頬をそっと撫でる。
「そういう本質が不器用なとこが似てるね」
「舞花と俺が?」
「似てるよ、凄く」
「そうか」
「あのね、亮司さん」
「なんだい」
「俺も亮司さんが好きなんだ。だから、酔ってたあの日に冷たくされたのがショックで、勝手に長い間店休んでごめんなさい」
「いや、あれは俺が大人気なかった」
腕の中でしょげる勇樹が可愛くて仕方ない。
実際十近く歳も離れてるし、なにより俺と話す時にくるくると変わる表情は生き生きしてて、その純粋さが眩しいくらいだったりする。
「なあ勇樹」
「なんですか」
「中途半端なのは嫌だから、俺と付き合ってくれるか」
「それは、その……嬉しいですけど」
「けど?」
「亮司さん、会社のCEOなんですよね? しっかりした立場があるのに、その……」
「キミが気にしてくれるのも分かるけど、ここで繋ぎ止めて置かないと俺が不安なんだよ」
「不安って。俺そんなに簡単に、亮司さん以外の人を好きになりませんよ」
「それは嬉しいけど、きちんと恋人として付き合っていきたいんだ」
「嬉しい、です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「良かった」
はにかむ勇樹があまりにも可愛くて、静かになっていたはずの俺の股間が熱くなるのに時間は掛からなかった。
「え、ちょ、もうダメですよ」
「大丈夫だよ」
「いや、マジで。他のキャストもいい加減心配して部屋に来ますよ⁉︎」
「それは困っちゃうね」
「他人事ですか!」
「ああもう、本当に勇樹は可愛いな」
裸で抱き合ってキスをするのが、こんなにも愛しくて温かいものだなんて、俺は今までこんな感情に目を背けて来たから、全く以って知りもしなかった。
だから今は少しだけ、もう少しだけ、この愛しくて堪らない恋人を甘やかそうと決めた。
聞き及んだ噂は本当で、勇樹は舞花の恋人などではなく、ただ純粋に姉のように慕っていたのだろう。
兄の立場からすると、そこまで親身に慕ってくれる人が居たことに驚きを隠せなかったが、店のダンサーたちも口を揃えて、舞花のことを褒めちぎるので、今更気が付いた。
俺が見ようとしなかった舞花の世界は、想像とは正反対の、厳しくもキラキラとした眩しい世界だったのだと。
今になって、妹の努力を認めようとしなかったことへの罪悪感でおかしくなりそうになった上に、勇樹が突然仕事を休むと言い出した。
こうして俺は、欲しいものを欲しいとも言えず、自由に生きる人を羨んで、悪足掻きすら出来ないまま生きていくのかと思うと息が詰まった。
そして、事務所を訪ねて来た勇樹がソファーで眠り込んでいるのを見た時、しない後悔に価値があるのかと自問自答して足掻く方を選んだ。
「……亮司さん? どうしたの」
「いや、朝まで寝てる訳にもいかないと思って」
「そっか。ここ、店の事務所だったね」
「なあ、勇樹」
「ん?」
「肝心なことを伝えてなかった」
俺がそう呟くと、僅かに勇樹の体が強張った。
俺は遊びでこんなことが出来る程、器用なタイプじゃない。
それが勇樹にとっては重たいことかも知れないと思うと、この先の言葉を告げるべきなのか一瞬躊躇ってしまう。
「亮司さん、大丈夫だよ」
「え?」
「ほら、舞花が突然居なくなったり、色々あったからさ」
「いや、勇樹」
「本当に、俺なんかに気を遣わなくて大丈夫だよ」
距離を取るような勇樹の言葉に、やっぱりかと思いながらも、しない後悔より足掻く方を選んだんじゃないのかと、自分を奮い立たせる。
「勇樹、俺はキミが好きなんだ」
「……え」
「俺はキミが思ってるほど器用でもないし、大した大人でもない。もしかしたら舞花の方がよほどしっかりしてたかも知れない」
目の前の愛しい存在に、認めたくない弱い部分を曝け出すと、あたたかい掌が俺の頬をそっと撫でる。
「そういう本質が不器用なとこが似てるね」
「舞花と俺が?」
「似てるよ、凄く」
「そうか」
「あのね、亮司さん」
「なんだい」
「俺も亮司さんが好きなんだ。だから、酔ってたあの日に冷たくされたのがショックで、勝手に長い間店休んでごめんなさい」
「いや、あれは俺が大人気なかった」
腕の中でしょげる勇樹が可愛くて仕方ない。
実際十近く歳も離れてるし、なにより俺と話す時にくるくると変わる表情は生き生きしてて、その純粋さが眩しいくらいだったりする。
「なあ勇樹」
「なんですか」
「中途半端なのは嫌だから、俺と付き合ってくれるか」
「それは、その……嬉しいですけど」
「けど?」
「亮司さん、会社のCEOなんですよね? しっかりした立場があるのに、その……」
「キミが気にしてくれるのも分かるけど、ここで繋ぎ止めて置かないと俺が不安なんだよ」
「不安って。俺そんなに簡単に、亮司さん以外の人を好きになりませんよ」
「それは嬉しいけど、きちんと恋人として付き合っていきたいんだ」
「嬉しい、です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「良かった」
はにかむ勇樹があまりにも可愛くて、静かになっていたはずの俺の股間が熱くなるのに時間は掛からなかった。
「え、ちょ、もうダメですよ」
「大丈夫だよ」
「いや、マジで。他のキャストもいい加減心配して部屋に来ますよ⁉︎」
「それは困っちゃうね」
「他人事ですか!」
「ああもう、本当に勇樹は可愛いな」
裸で抱き合ってキスをするのが、こんなにも愛しくて温かいものだなんて、俺は今までこんな感情に目を背けて来たから、全く以って知りもしなかった。
だから今は少しだけ、もう少しだけ、この愛しくて堪らない恋人を甘やかそうと決めた。
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