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オーナーの独白①⭐︎
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汗ばんだ肌はすぐに冷えてしまうので、すぐ隣で力尽きたように眠る男に、安っぽい毛布を掛けて風邪を引かせないように心掛ける。
「もっと堪え性はあるはずだったんだけどな」
誰に言い訳するでもなく独りごちると、俺は寝息を立てる彼の髪をそっと撫でた。
ジルこと、高城勇樹に初めて会ったのは、妹の舞花の通夜の時だった。
青白い顔をして舞花の死を、現実を受け止め切れない。そんな弱々しい印象だっだと思う。
翌日の葬儀の時、彼が仲間内で話す姿を見て、昨夜の顔は見間違いだったかと、自分の記憶を疑った。
突然の不幸に誰もが打ちのめされる中、勇樹は周りのみんなを励ますように、舞花が居たら張り倒されるぞと、自嘲気味に笑っていた。
それから程なくして、舞花が経営してたストリップバーをどうするのか、家族で話し合いの席が設けられた。
正直なところ、俺の中の舞花はいい加減なところが多くて、自由気ままで好き放題。だから店も潰してしまっても構わないと思っていた。
弁護士と相談して店のことを調べてみると、意外にも繁盛していることを知り、スタッフに意見を聞くために、俺は舞花が亡くなった一週間後に〈バイオレットフラクション〉に初めて足を運んだ。
そこで再び勇樹に再会した。
彼は魂を削がれたように意気消沈していた。無理もない、突然の訃報に、誰もが戸惑っていたのだから。
だけどスタッフやダンサーと話せば話すほど、勇樹だけが特別に舞花に思い入れを持っているのを感じるようになった。
(もしかしたら、舞花の恋人か?)
勇樹の口から聞く舞花の様子は、どう聞いても愛する人のそれで、こちらが歯の浮くようなことをつらつらと言ってのける姿に、俺はその直感を疑わなくなった。
そして四十九日が過ぎると、店のスタッフの中で勇樹だけが舞花の墓の場所を尋ねてきた。
俺が直接見た訳ではないが、母によれば、毎日のように違う花が墓前に添えられていて、誰かが舞花を訪ねて来ているというのは、多分勇樹だったのだと思う。
そして正式に俺が店を引き継ぐことになると、勇樹は嬉しそうに事務所に顔を覗かせるようになった。
いつまでも純粋に舞花を、妹を慕う勇樹の姿が痛々しくもあり、どうしてだか心に引っ掛かるようになるのに時間は掛からなかった。
「ん……」
「寒いか?」
「大丈夫。亮司さん、休まないの」
「抱いて寝てくれっておねだりかな?」
「また、そういうことを平然と……」
「冗談だよ。ほら、風邪引くぞ」
勇樹を抱き締めて布団を被ると、脚を絡めてその存在を身体で必死になって感じる。
俺は昔から人嫌いで、その原因は、自分が女性を好きになれないことへの罪悪感からだった。
誰かを好きになること自体、とんでもない過ちを犯している気がして、人への執着はとうの昔に捨てたはずだった。
だけど勇樹が俺に懐くようになって、その無邪気な笑顔を見ていると、舞花の恋人だと分かってはいるのに、どうしようもなく勇樹を愛しく感じてしまうようになった。
それは多分、時折勇樹が見せる真剣な眼差しが、俺を好きだと言ってる気がしたからかも知れない。
もちろん、そんなことは都合の良い自分勝手な思い込みだと、すぐに反省して自分を律する努力はした。
けれど、どんなに妹を愛した男だと言い聞かせても、勇樹の目が劣情を孕んでいる気がして、昼夜問わず頭の中を彼の存在が埋め尽くしていくのを止められなくなった。
その上、店のスタッフが勇樹がゲイだと噂してる話を耳にしてしまった。
もしかしたら俺の思い込みではなく、勇樹は俺に好意を抱いてるのかも知れない。安易にそう思って浮かれてしまう自分が恥ずかしかった。
そしてそれを紛らわせるために飲み歩く日々が続き、自分自身を持て余していた矢先、男と親しげに抱き合う勇樹を街角で見掛けてしまった。
「もっと堪え性はあるはずだったんだけどな」
誰に言い訳するでもなく独りごちると、俺は寝息を立てる彼の髪をそっと撫でた。
ジルこと、高城勇樹に初めて会ったのは、妹の舞花の通夜の時だった。
青白い顔をして舞花の死を、現実を受け止め切れない。そんな弱々しい印象だっだと思う。
翌日の葬儀の時、彼が仲間内で話す姿を見て、昨夜の顔は見間違いだったかと、自分の記憶を疑った。
突然の不幸に誰もが打ちのめされる中、勇樹は周りのみんなを励ますように、舞花が居たら張り倒されるぞと、自嘲気味に笑っていた。
それから程なくして、舞花が経営してたストリップバーをどうするのか、家族で話し合いの席が設けられた。
正直なところ、俺の中の舞花はいい加減なところが多くて、自由気ままで好き放題。だから店も潰してしまっても構わないと思っていた。
弁護士と相談して店のことを調べてみると、意外にも繁盛していることを知り、スタッフに意見を聞くために、俺は舞花が亡くなった一週間後に〈バイオレットフラクション〉に初めて足を運んだ。
そこで再び勇樹に再会した。
彼は魂を削がれたように意気消沈していた。無理もない、突然の訃報に、誰もが戸惑っていたのだから。
だけどスタッフやダンサーと話せば話すほど、勇樹だけが特別に舞花に思い入れを持っているのを感じるようになった。
(もしかしたら、舞花の恋人か?)
勇樹の口から聞く舞花の様子は、どう聞いても愛する人のそれで、こちらが歯の浮くようなことをつらつらと言ってのける姿に、俺はその直感を疑わなくなった。
そして四十九日が過ぎると、店のスタッフの中で勇樹だけが舞花の墓の場所を尋ねてきた。
俺が直接見た訳ではないが、母によれば、毎日のように違う花が墓前に添えられていて、誰かが舞花を訪ねて来ているというのは、多分勇樹だったのだと思う。
そして正式に俺が店を引き継ぐことになると、勇樹は嬉しそうに事務所に顔を覗かせるようになった。
いつまでも純粋に舞花を、妹を慕う勇樹の姿が痛々しくもあり、どうしてだか心に引っ掛かるようになるのに時間は掛からなかった。
「ん……」
「寒いか?」
「大丈夫。亮司さん、休まないの」
「抱いて寝てくれっておねだりかな?」
「また、そういうことを平然と……」
「冗談だよ。ほら、風邪引くぞ」
勇樹を抱き締めて布団を被ると、脚を絡めてその存在を身体で必死になって感じる。
俺は昔から人嫌いで、その原因は、自分が女性を好きになれないことへの罪悪感からだった。
誰かを好きになること自体、とんでもない過ちを犯している気がして、人への執着はとうの昔に捨てたはずだった。
だけど勇樹が俺に懐くようになって、その無邪気な笑顔を見ていると、舞花の恋人だと分かってはいるのに、どうしようもなく勇樹を愛しく感じてしまうようになった。
それは多分、時折勇樹が見せる真剣な眼差しが、俺を好きだと言ってる気がしたからかも知れない。
もちろん、そんなことは都合の良い自分勝手な思い込みだと、すぐに反省して自分を律する努力はした。
けれど、どんなに妹を愛した男だと言い聞かせても、勇樹の目が劣情を孕んでいる気がして、昼夜問わず頭の中を彼の存在が埋め尽くしていくのを止められなくなった。
その上、店のスタッフが勇樹がゲイだと噂してる話を耳にしてしまった。
もしかしたら俺の思い込みではなく、勇樹は俺に好意を抱いてるのかも知れない。安易にそう思って浮かれてしまう自分が恥ずかしかった。
そしてそれを紛らわせるために飲み歩く日々が続き、自分自身を持て余していた矢先、男と親しげに抱き合う勇樹を街角で見掛けてしまった。
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