踊り子さんはその手で乱されたい。

藜-LAI-

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踊り子さんは触れさせない①

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 今日は急遽キッズクラスの受け持ちが入り、この元気が有り余ったガキどもの相手をしなければならない。
「ユウキ、トーマスフレア見せてよ」
「俺バックスピン見たい!」
「先生を呼び捨てにするんじゃない。あとリクエストされても応えないから。さっさとストレッチしろ」
 夕方の十六時頃ともなれば、このダンススクールもかなり賑やかになる。
 いつもなら夜からのシニアクラスが俺の受け持ちだが、キッズ担当の松浦がインフルエンザに罹ったらしくて、とりあえず今日だけだと言われて代打を引き受けた。
「そろそろアップ終わり。頭からアイソレーション」
 BGMを流してカウントを取り、賑やかな子どもたちに声掛けしながら、引き継いだ課題を与えて動きを見て回る。
「ユウキ先生、足の動き確認してもらえますか」
「おう」
 周りに囃し立てられながら、女の子がどこか恥ずかしそうに声を掛けてきて、この年頃なら仕方ないかと、なにも気付いてないフリをする。
 正直なところ、俺はガキの中でも女の子が苦手。特に俺に好意を寄せる気配に気付いてしまったら最悪だ。
「足の動きだけに気を取られんな。もっと肩も開いて、メリハリ付けたいなら大きく動いてみて」
 鏡を正面に横に並んで踊ってみせて視覚で覚えさせると、女の子は少しだけ落胆したように、それでも一生懸命踊り始めたのでホッとする。
 俺が〈バイオレットフラクション〉で働いてるのは、舞花に出会ってダンスを覚えたのが切っ掛け。
 それまでは、正直思い出したくもない程に荒れていて、手の付けられない腐ったガキだった自覚はある。
 ダンスに出会ったおかげで、自己表現の方法を知った。
 それまでは自分のことをどう吐き出してやれば楽になるのか、自分自身のことなのに全然分からなくて苦しかったのを覚えてる。
 そんな自分のことがあったからこそ、ダンスに魅せられた子どもたちをサポートしてやりたい気持ちはあるけど、なにかにつけてストレートで熱量が高いヤツらの相手は手に余る。
 同じ熱量でも、ジルとして立つ〈バイオレットフラクション〉では、相手がお客様なので割り切っているが、あれはあくまでもお仕事で、俺が大事なあの店の商品だから出来ることだ。
 だから俺は普段からキッズクラスを担当しない。
「ほーい。お疲れさん。寄り道しないでサッサと帰れよ」
 パンパンと手を叩いてレッスンを切り上げると、ガキどもを追い出してスタジオの清掃準備に取り掛かる。
「ユウキ先生、私、手伝います」
「良いよ良いよ。早よ帰れ」
「でも」
「要らねえってマジで」
 冷たく突き放す言葉は、万が一でも気を持たせることがないようにするためだ。
「お疲れ様、でした」
「おう」
 常識的に考えて親子ほど歳だって離れてるし、そもそも歳が近かったとしても俺がその気になることはない。
 自分の恋愛対象が異性じゃないと気が付いたのは割と早くて、小学校に上がる頃には人には言っちゃいけないことなんだろうなと、大人の気配を伺う子どもになってた。
 そして早熟な奴らが、誰が誰に告られたとか同級生の女子の話をする中、男子が短パンで長距離走を走るのを不埒な目で眺めるような日常に、情緒は不安定になっていった。
 そのうち周りが言う『普通』が俺の『普通』とは違うことに苛立つようになって、中学生になった頃には手の付けられないヤンチャなガキになると、警察の世話にもなるようになる。
 都会育ちでなんでも手が届く環境だったのは、明らかに俺の素行不良を加速させ、思春期で性欲も旺盛だった俺はウリに近いことも平気でやった。
 だから男遊びと喧嘩に明け暮れた挙げ句、半グレの連中に目をつけられて、毎日のようにどこかしらで揉め事を起こして、路地裏で血を流して気を失うことも多々あった。
『ヤダ、ゴミじゃなくて少年じゃない』
 ハスキーで男みたいな声。
 あの晩は土砂降りで、雑居ビルが立ち並ぶ路地裏にゴミみたいに捨てられてた俺は、それまでの悪行のしっぺ返しで袋叩きにされて、そのまま死ぬんじゃないかって思ってた。
(ホント、舞花には感謝だよな)
 あの晩、俺を見つけて病院に連れてってくれたのが舞花で、それを切っ掛けに俺は舞花が通ってるダンスジオに入り浸るようになった。
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