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踊り子さんと新しいオーナー①
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爆音のダンスミュージックは、地鳴りのように重低音がフロアの空気を震わせ、闇の中で光るストロボライトが、妖艶な腰つきの男たちを煌々と照らす。
「キャー‼︎」
「こっちにも来てぇえ!」
そしてステージ上でパフォーマンスする男たちの艶かしい姿を見て、熱に浮かされた女性客たちの、フロアから男たちの名を呼ぶ黄色い声援が飛び交う。
都内某所。
ここは〈バイオレットフラクション〉という名の、国内では唯一、男性ストリップショーが楽しめるショー&ダイニングバーだ。
男性の入店が制限されている訳ではないが、店内は連日ほぼ女性客で埋め尽くされ、金曜の今日の盛り上がり方は凄まじい。
そんなフロアの客を楽しませるのは、セクシー過ぎるほど肌を露出した、消防士にドクター、警官にパイロット。
様々なコスチュームに身を包むキャストたちは、音楽に合わせて服を一枚、また一枚と脱ぎ捨てていき、鍛え抜かれた肉体美が露わになっていく。
見えそうで見えない、ギリギリまで露出されたその姿に身悶えすると、店内でチップ代わりに使う紙切れを、突き出した腰元に女性客が歓喜しながら捩じ込んでくれる。
「いやぁあ! ジル様ぁ」
「ジルぅ‼︎」
「こっちにも来て!」
堪え切れない様子で俺に発狂して近付く女性客に、エロティックな舌舐めずりと、妖艶な流し目でハートを射抜く。
(チョロいな。まいどあり)
チップを受け取ってから、もう一つおまけにウインクをしてステージ中央に悠然と戻っていく。
俺の名前は 高城 勇樹。
三十を過ぎてもダンサーとしては鳴かず飛ばずで、ダンススクールの講師をする傍ら、昔馴染みの誘いで〈バイオレットフラクション〉のジルとしてステージに立っている。
絞り込んだ一八〇センチ近い細身で筋肉質な体に、アッシュグレイに染めた髪は、結ぼうと思えば多分結べる程度に長い。
顔立ちに関しては、ステージ用のメイクを抜きにしてもイケメンだとか言われるから、まあ男前な方なんだと思う。
「痛てて」
ようやくステージを終えて黒いエナメルのピンヒールを脱ぎ捨てると、潰れてしまったマメに絆創膏を貼り付けて足首を回す。
「お疲れさん。サイファが辞めてから、ポールダンスの演目まで増えたもんな」
「仕方ない。アイツの人気は凄まじかったから」
「それにしてもポールダンスとはね。出来るヤツが少ないから頼みますよ、エースストリッパーさん」
「そこはダンサーって言ってくれよ」
仲間内でくだらないやり取りをしながら、ステージ用のメイクを落とし、ダラダラと帰り支度をするのはいつものことだ。
ここに居る連中は大抵の場合、俺みたいにダンス講師の本業を抱えてるヤツや、プロダンサーを今でも目指してて、場数や経験を積むために働いてるヤツが多い。
ストリップショーと言っても、ここは法治国家日本だ。つまり全裸になってしまったらアウト。あくまでもショービジネスに過ぎないので、御開帳はナシ。
だけど実際に店に脚を運ばない人からしてみたら、いかがわしい仕事のようなイメージを持たれることも多くて、うちの店で働いてることを公言してないヤツも少なくない。
俺は経験上、オーディションでそれをネタにして公言してきたし、それが問題視されたことはないと思ってるけど、人によってはセンシティブなことなんだろう。
「んじゃ、お疲れっした」
帰り支度を終えた俺は、まだ残って話し込んでるみんなに手を振って、キャスト用の更衣室を後にする。
そして流れ作業のようにバッグからスマホを取り出すと、SNSやニュースサイトをチェックしながら、従業員通路の奥の事務所の扉を開いて中を見渡す。
「失礼しまーす」
「ん? ジルかな。お疲れ様」
「お疲れです、オーナー」
「オーナーはやめろって。名前で良いよ」
苦笑してあしらうように手を振る目の前の色男は、それまでパソコンで作業していた手を止めて、コーヒーでも飲むかと俺に声を掛け、事務机から立ち上がる。
俺よりも少し背が高くて、大人の色気が漂うちょっと目に毒なくらいの色男。
「キャー‼︎」
「こっちにも来てぇえ!」
そしてステージ上でパフォーマンスする男たちの艶かしい姿を見て、熱に浮かされた女性客たちの、フロアから男たちの名を呼ぶ黄色い声援が飛び交う。
都内某所。
ここは〈バイオレットフラクション〉という名の、国内では唯一、男性ストリップショーが楽しめるショー&ダイニングバーだ。
男性の入店が制限されている訳ではないが、店内は連日ほぼ女性客で埋め尽くされ、金曜の今日の盛り上がり方は凄まじい。
そんなフロアの客を楽しませるのは、セクシー過ぎるほど肌を露出した、消防士にドクター、警官にパイロット。
様々なコスチュームに身を包むキャストたちは、音楽に合わせて服を一枚、また一枚と脱ぎ捨てていき、鍛え抜かれた肉体美が露わになっていく。
見えそうで見えない、ギリギリまで露出されたその姿に身悶えすると、店内でチップ代わりに使う紙切れを、突き出した腰元に女性客が歓喜しながら捩じ込んでくれる。
「いやぁあ! ジル様ぁ」
「ジルぅ‼︎」
「こっちにも来て!」
堪え切れない様子で俺に発狂して近付く女性客に、エロティックな舌舐めずりと、妖艶な流し目でハートを射抜く。
(チョロいな。まいどあり)
チップを受け取ってから、もう一つおまけにウインクをしてステージ中央に悠然と戻っていく。
俺の名前は 高城 勇樹。
三十を過ぎてもダンサーとしては鳴かず飛ばずで、ダンススクールの講師をする傍ら、昔馴染みの誘いで〈バイオレットフラクション〉のジルとしてステージに立っている。
絞り込んだ一八〇センチ近い細身で筋肉質な体に、アッシュグレイに染めた髪は、結ぼうと思えば多分結べる程度に長い。
顔立ちに関しては、ステージ用のメイクを抜きにしてもイケメンだとか言われるから、まあ男前な方なんだと思う。
「痛てて」
ようやくステージを終えて黒いエナメルのピンヒールを脱ぎ捨てると、潰れてしまったマメに絆創膏を貼り付けて足首を回す。
「お疲れさん。サイファが辞めてから、ポールダンスの演目まで増えたもんな」
「仕方ない。アイツの人気は凄まじかったから」
「それにしてもポールダンスとはね。出来るヤツが少ないから頼みますよ、エースストリッパーさん」
「そこはダンサーって言ってくれよ」
仲間内でくだらないやり取りをしながら、ステージ用のメイクを落とし、ダラダラと帰り支度をするのはいつものことだ。
ここに居る連中は大抵の場合、俺みたいにダンス講師の本業を抱えてるヤツや、プロダンサーを今でも目指してて、場数や経験を積むために働いてるヤツが多い。
ストリップショーと言っても、ここは法治国家日本だ。つまり全裸になってしまったらアウト。あくまでもショービジネスに過ぎないので、御開帳はナシ。
だけど実際に店に脚を運ばない人からしてみたら、いかがわしい仕事のようなイメージを持たれることも多くて、うちの店で働いてることを公言してないヤツも少なくない。
俺は経験上、オーディションでそれをネタにして公言してきたし、それが問題視されたことはないと思ってるけど、人によってはセンシティブなことなんだろう。
「んじゃ、お疲れっした」
帰り支度を終えた俺は、まだ残って話し込んでるみんなに手を振って、キャスト用の更衣室を後にする。
そして流れ作業のようにバッグからスマホを取り出すと、SNSやニュースサイトをチェックしながら、従業員通路の奥の事務所の扉を開いて中を見渡す。
「失礼しまーす」
「ん? ジルかな。お疲れ様」
「お疲れです、オーナー」
「オーナーはやめろって。名前で良いよ」
苦笑してあしらうように手を振る目の前の色男は、それまでパソコンで作業していた手を止めて、コーヒーでも飲むかと俺に声を掛け、事務机から立ち上がる。
俺よりも少し背が高くて、大人の色気が漂うちょっと目に毒なくらいの色男。
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