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一目千両とその夫②
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「シグレ、そろそろ体を冷やすぞ」
香に夢中になるシグレを抱き寄せると、ビャクは湯船から汲んだ熱いお湯をかけて、手を使って体の隅々を濯ぐように洗う。
シグレも最初は抵抗があったが、元来ビャクは世話焼きな性格のようで、あまり拒んでも機嫌を損ねることを覚えたシグレは、それを黙って受け入れる。
そして掛け湯で少し温まると、ビャクの不埒な手が悪戯に時雨の股間へと伸ばされる。
「ちょ、もうマジでムリだって」
「つれないな」
「まだするつもりかよ」
「そうは言うがシグレ。船酔いから体調を崩して、帰国してしばらくそれどころではなかっただろ」
「当たり前だ。あんな状況だったのに、ことに及ばれたら引くわ」
「そうだろう。ならば我慢出来た俺に、もっと褒美をくれても構わんだろ」
まだ股座で悪戯する不埒な手をシグレが叩くと、少ししょんぼりした顔のビャクと一緒に湯船に浸かり、シグレは身を預けるようにビャクにもたれる。
「もう少し広い湯船に新調するか」
「広すぎてはシグレを抱いてはいれなくなる」
「そもそも風呂は寛ぐ場所なんだよ。いかがわしいことをする場所じゃないんだよ」
「婿殿は手厳しいな」
ビャクは呟いて答えるとシグレの首筋に顔を埋め、甘噛みしてから吸い付くようにキスを繰り返し、柔いシグレの肉茎を握って揉みしだく。
「聞いてたか? 本当に、マジもうムリだって」
言葉通りぴくりとも反応しない分身を見つめると、シグレは甘えたようにビャクに寄り掛かって、本当に限界だとあくびをしながら呟く。
「なんだ眠いのか」
「ん。割とガチで眠い」
「そんなに疲れさせたか」
「自覚ねえのかよ」
半笑いの苦笑をするシグレの濡れた髪を手櫛で梳かし、だいぶ伸びたなと毛先から落ちる雫を絞る。
それがシグレの肩口を伝って湯船に僅かな漣を立て、シグレの指がその湯を掬って、濡れた手で首筋を撫でる。
「最近冷え込むから、明日は柚子でも買って、柚子風呂にするか」
「それなら薬屋で調合してある、乾皮の類いを買った方が効くんじゃないのか」
「そうだな。店開ける前に、ちょっと色々見て回るか」
「婿殿の仰せの通りに」
ビャクは答えてからシグレの顎を掴むと、優しく唇を重ねてキスをしてシグレを抱き締める。
「やっぱり広い湯船に変えようぜ」
そもそも一人暮らしを想定した間取りで、シグレと体格がそう変わらない長身のビャクが同時になにかする時点で、想定から逸脱してる。
「二階は座敷の個室にして、部屋は別で借りるか」
「でも店から離れてるのはヤダな」
「隣の乾物屋の老夫婦が、店を畳む話を聞いたことがあるぞ。明日少し詳しく聞いてみるか」
「そうなの? まあ聞くだけ聞いてみようか。隣が空けば勝手が良いのは良いよな」
「思い切って酒場でなく宿屋として、規模を大きくするのもありだと思うんだがな」
「なんだよビャク。急にやる気だな」
「解呪にいつまで時間が掛かるか分からんが、ハルとダキ以外にも、人手を集めるのは容易いからな」
「宿屋なのに看板娘も居ねえのかよ」
シグレが鼻で笑ってビャクの顔を振り返ると、ビャクは済ました顔でここに居るだろうと不貞腐れたように答える。
確かに一目千両と呼ばれた男ではあるが、場末の酒場や、拡張出来たとして宿屋の店員を見るために一千万ゼラ要求するのはおかしな話だ。
「無償の笑顔で頑張ってくれ」
「婿殿は嫁遣いが荒いな」
「大丈夫。本当のお前を知ってるのは、これから先も俺だけだから」
眼帯で目元を隠すことのつもりで答えたのだが、ビャクは満足げに微笑むとシグレをしっかりと抱き締める。
「随分と可愛らしく嬉しいことを言ってくれる」
「そうか?」
「なんなら愛を囁いても構わんのだぞ」
「今更そんなの必要か」
「シグレは照れ屋だからな。寝所でしか甘い言葉を吐かぬ」
「そうだっけか」
「ああ、俺が言わせてる」
「でしょうね」
二人して可笑しくなって笑い声をあげると、ビャクは先に湯船を出て、しっかり温まるように言い残すと、さっさと体を拭いて風呂場から姿を消した。
こんな生活も、いつの間にかシグレにとってはかけがえのないものに変化しているようで、今までシグレを抱いていたビャクの温もりがないことに僅かな不安が芽生える。
ビャクから聞いている話では、ヴィネージュから連れ帰った術者の手伝いもあり、クレハの術で少しずつ解呪も進んでいるようだが、終わりはまだ見えないという。
解呪が全て終わった時、ビャクはなにも言わずにヴィネージュに帰ってしまうのではないかと、シグレは一人不安を募らせている。
口ではああ言っていたが、本来であればこんな小さな島国にいるべきはずの人ではないのだから。
だからシグレは愛の言葉をビャクにぶつけることが出来ない。
失ってしまう先を考えると、一人取り残されて耐えていける自信がないからだ。
そんなことを考え込んでいるうちに、湯船の湯が冷めてきた。
「そろそろ出るか」
香に夢中になるシグレを抱き寄せると、ビャクは湯船から汲んだ熱いお湯をかけて、手を使って体の隅々を濯ぐように洗う。
シグレも最初は抵抗があったが、元来ビャクは世話焼きな性格のようで、あまり拒んでも機嫌を損ねることを覚えたシグレは、それを黙って受け入れる。
そして掛け湯で少し温まると、ビャクの不埒な手が悪戯に時雨の股間へと伸ばされる。
「ちょ、もうマジでムリだって」
「つれないな」
「まだするつもりかよ」
「そうは言うがシグレ。船酔いから体調を崩して、帰国してしばらくそれどころではなかっただろ」
「当たり前だ。あんな状況だったのに、ことに及ばれたら引くわ」
「そうだろう。ならば我慢出来た俺に、もっと褒美をくれても構わんだろ」
まだ股座で悪戯する不埒な手をシグレが叩くと、少ししょんぼりした顔のビャクと一緒に湯船に浸かり、シグレは身を預けるようにビャクにもたれる。
「もう少し広い湯船に新調するか」
「広すぎてはシグレを抱いてはいれなくなる」
「そもそも風呂は寛ぐ場所なんだよ。いかがわしいことをする場所じゃないんだよ」
「婿殿は手厳しいな」
ビャクは呟いて答えるとシグレの首筋に顔を埋め、甘噛みしてから吸い付くようにキスを繰り返し、柔いシグレの肉茎を握って揉みしだく。
「聞いてたか? 本当に、マジもうムリだって」
言葉通りぴくりとも反応しない分身を見つめると、シグレは甘えたようにビャクに寄り掛かって、本当に限界だとあくびをしながら呟く。
「なんだ眠いのか」
「ん。割とガチで眠い」
「そんなに疲れさせたか」
「自覚ねえのかよ」
半笑いの苦笑をするシグレの濡れた髪を手櫛で梳かし、だいぶ伸びたなと毛先から落ちる雫を絞る。
それがシグレの肩口を伝って湯船に僅かな漣を立て、シグレの指がその湯を掬って、濡れた手で首筋を撫でる。
「最近冷え込むから、明日は柚子でも買って、柚子風呂にするか」
「それなら薬屋で調合してある、乾皮の類いを買った方が効くんじゃないのか」
「そうだな。店開ける前に、ちょっと色々見て回るか」
「婿殿の仰せの通りに」
ビャクは答えてからシグレの顎を掴むと、優しく唇を重ねてキスをしてシグレを抱き締める。
「やっぱり広い湯船に変えようぜ」
そもそも一人暮らしを想定した間取りで、シグレと体格がそう変わらない長身のビャクが同時になにかする時点で、想定から逸脱してる。
「二階は座敷の個室にして、部屋は別で借りるか」
「でも店から離れてるのはヤダな」
「隣の乾物屋の老夫婦が、店を畳む話を聞いたことがあるぞ。明日少し詳しく聞いてみるか」
「そうなの? まあ聞くだけ聞いてみようか。隣が空けば勝手が良いのは良いよな」
「思い切って酒場でなく宿屋として、規模を大きくするのもありだと思うんだがな」
「なんだよビャク。急にやる気だな」
「解呪にいつまで時間が掛かるか分からんが、ハルとダキ以外にも、人手を集めるのは容易いからな」
「宿屋なのに看板娘も居ねえのかよ」
シグレが鼻で笑ってビャクの顔を振り返ると、ビャクは済ました顔でここに居るだろうと不貞腐れたように答える。
確かに一目千両と呼ばれた男ではあるが、場末の酒場や、拡張出来たとして宿屋の店員を見るために一千万ゼラ要求するのはおかしな話だ。
「無償の笑顔で頑張ってくれ」
「婿殿は嫁遣いが荒いな」
「大丈夫。本当のお前を知ってるのは、これから先も俺だけだから」
眼帯で目元を隠すことのつもりで答えたのだが、ビャクは満足げに微笑むとシグレをしっかりと抱き締める。
「随分と可愛らしく嬉しいことを言ってくれる」
「そうか?」
「なんなら愛を囁いても構わんのだぞ」
「今更そんなの必要か」
「シグレは照れ屋だからな。寝所でしか甘い言葉を吐かぬ」
「そうだっけか」
「ああ、俺が言わせてる」
「でしょうね」
二人して可笑しくなって笑い声をあげると、ビャクは先に湯船を出て、しっかり温まるように言い残すと、さっさと体を拭いて風呂場から姿を消した。
こんな生活も、いつの間にかシグレにとってはかけがえのないものに変化しているようで、今までシグレを抱いていたビャクの温もりがないことに僅かな不安が芽生える。
ビャクから聞いている話では、ヴィネージュから連れ帰った術者の手伝いもあり、クレハの術で少しずつ解呪も進んでいるようだが、終わりはまだ見えないという。
解呪が全て終わった時、ビャクはなにも言わずにヴィネージュに帰ってしまうのではないかと、シグレは一人不安を募らせている。
口ではああ言っていたが、本来であればこんな小さな島国にいるべきはずの人ではないのだから。
だからシグレは愛の言葉をビャクにぶつけることが出来ない。
失ってしまう先を考えると、一人取り残されて耐えていける自信がないからだ。
そんなことを考え込んでいるうちに、湯船の湯が冷めてきた。
「そろそろ出るか」
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