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回生師の正体②
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「奇妙な事態になってんな」
「そう思うなら、俺に癒しを与えておくれ」
「お前、またそれかよ」
しなだれ掛かってくるビャクを受け止め苦笑すると、シグレはそのままビャクを抱き締めて、髪に顔を埋めるようにしてキスをする。
「どうした婿殿」
「どうもしねえよ」
顔を上げたビャクの唇にキスをすると、シグレはもどかしさを埋めるようにビャクを強く抱き締めた。
クレハにどんな意図があってビャクの手伝いを買って出たのか分からないが、シグレが知るクレハは少なくとも悪人ではない。だから申し出が善意から来るものだとだと信じたい。
そろそろ悪さをし始めた手癖の悪い手を叩いて払うと、シグレはクレハと話がしてみたいとビャクの顔を覗き込んだ。
「それは船まで我慢してくれ。そんなことよりババアは今どこだ。俺のこと騙しやがって、あのババア」
「クレハなら軟禁している」
「マジかよ」
「本人が承知していることだ。手足の拘束はもちろんだが、話が出来るような自由も与えてない。理由は先ほど話しただろ」
「いや、そりゃ分かってるけどさ。クレハのババアから真意を聞き出せねえかな」
「真意もなにも、発言は終始変わらんぞ。術者としての腕試しがどうだとか、とにかく自分の利になるから協力させろと言っている」
「ならそれが本音じゃねえの。そもそもそれを信じる材料なら、王様や貴族の命で答えは出てるだろ。お前は神経質に気を張り過ぎて心配になる」
「なんだシグレ、貴様そんなに俺が気になるのか」
「当たり前だろ」
「おやおや、随分としおらしいじゃないか」
「お前がそうやって揶揄うのにも慣れたわ。俺もお前の親父さんと王様に約束したからな、いい加減認めるよ。俺にはお前が必要だし、お前が居ない生活はもう考えられねえんだわ」
「シグレ……」
「だからさ、ババアの手のひらで転がされんのは癪だけど、お前の体ちゃんと治してもらおうぜ、ビャク」
「婿殿は本当に人が良いな」
「そうか? ババアのことだから、法外な治療費ぼったくられそうでヒヤヒヤするけどな」
「フッ。俺を破格で身請けしてくれたんだ。また救ってくれるんだろう?」
「つくづく金のかかる嫁だな、まったく」
「俺をなんだと思ってる。一目だけでも千両の価値があることを忘れてないか」
ビャクが澄ました顔で言い切るので、シグレは僅かに驚いて、それからすぐに腹を抱えて爆笑する。
出会う切っ掛けは確かに奇妙なものだったが、気が付けばお互いになくてはならない存在になって、ビャクは素直に口には出さないが、ヴィネージュで口にした言葉は本心だろう。
シグレが危惧するように、もしもクレハに治療費を要求されたとしても、ビャクのためなら払えないこともない。
莫大な遺産を巡っては、兄弟とも本気で縁を切ろうと考えたこともあるし、そんな大金を自分では持て余すだろうとシグレは考えていた。
けれどビャクの噂を聞いたのが運の尽き。あれよあれよと、気付けば六千万もの大金を、この男のために注ぎ込んだのだ。
「払った分は、働いてくれよなビャク」
「ほう。寝所へのお誘いか」
「違うわ馬鹿」
「誘い文句が下手すぎる。これはまた身体に教え込まんといかんな」
「だから、そのやる気を店の方に回せって言ってるんだよ」
そんなたわいないやり取りをしながら、ヤスナに戻ってどう暮らしていくか、ハルやダキに任せてきた酒場はどうなっているのか、話題は尽きず夜が更けるまで賑やかに過ごした。
「そう思うなら、俺に癒しを与えておくれ」
「お前、またそれかよ」
しなだれ掛かってくるビャクを受け止め苦笑すると、シグレはそのままビャクを抱き締めて、髪に顔を埋めるようにしてキスをする。
「どうした婿殿」
「どうもしねえよ」
顔を上げたビャクの唇にキスをすると、シグレはもどかしさを埋めるようにビャクを強く抱き締めた。
クレハにどんな意図があってビャクの手伝いを買って出たのか分からないが、シグレが知るクレハは少なくとも悪人ではない。だから申し出が善意から来るものだとだと信じたい。
そろそろ悪さをし始めた手癖の悪い手を叩いて払うと、シグレはクレハと話がしてみたいとビャクの顔を覗き込んだ。
「それは船まで我慢してくれ。そんなことよりババアは今どこだ。俺のこと騙しやがって、あのババア」
「クレハなら軟禁している」
「マジかよ」
「本人が承知していることだ。手足の拘束はもちろんだが、話が出来るような自由も与えてない。理由は先ほど話しただろ」
「いや、そりゃ分かってるけどさ。クレハのババアから真意を聞き出せねえかな」
「真意もなにも、発言は終始変わらんぞ。術者としての腕試しがどうだとか、とにかく自分の利になるから協力させろと言っている」
「ならそれが本音じゃねえの。そもそもそれを信じる材料なら、王様や貴族の命で答えは出てるだろ。お前は神経質に気を張り過ぎて心配になる」
「なんだシグレ、貴様そんなに俺が気になるのか」
「当たり前だろ」
「おやおや、随分としおらしいじゃないか」
「お前がそうやって揶揄うのにも慣れたわ。俺もお前の親父さんと王様に約束したからな、いい加減認めるよ。俺にはお前が必要だし、お前が居ない生活はもう考えられねえんだわ」
「シグレ……」
「だからさ、ババアの手のひらで転がされんのは癪だけど、お前の体ちゃんと治してもらおうぜ、ビャク」
「婿殿は本当に人が良いな」
「そうか? ババアのことだから、法外な治療費ぼったくられそうでヒヤヒヤするけどな」
「フッ。俺を破格で身請けしてくれたんだ。また救ってくれるんだろう?」
「つくづく金のかかる嫁だな、まったく」
「俺をなんだと思ってる。一目だけでも千両の価値があることを忘れてないか」
ビャクが澄ました顔で言い切るので、シグレは僅かに驚いて、それからすぐに腹を抱えて爆笑する。
出会う切っ掛けは確かに奇妙なものだったが、気が付けばお互いになくてはならない存在になって、ビャクは素直に口には出さないが、ヴィネージュで口にした言葉は本心だろう。
シグレが危惧するように、もしもクレハに治療費を要求されたとしても、ビャクのためなら払えないこともない。
莫大な遺産を巡っては、兄弟とも本気で縁を切ろうと考えたこともあるし、そんな大金を自分では持て余すだろうとシグレは考えていた。
けれどビャクの噂を聞いたのが運の尽き。あれよあれよと、気付けば六千万もの大金を、この男のために注ぎ込んだのだ。
「払った分は、働いてくれよなビャク」
「ほう。寝所へのお誘いか」
「違うわ馬鹿」
「誘い文句が下手すぎる。これはまた身体に教え込まんといかんな」
「だから、そのやる気を店の方に回せって言ってるんだよ」
そんなたわいないやり取りをしながら、ヤスナに戻ってどう暮らしていくか、ハルやダキに任せてきた酒場はどうなっているのか、話題は尽きず夜が更けるまで賑やかに過ごした。
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