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回生師の正体①
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様々な出来事があって、ようやくヴィネージュから引き上げてきたシグレとビャクは、船でヤスナに戻るために再びドゥリッサ共和国のハラールを訪れていた。
行きと同じくヴィネージュ大使館が管理する宿泊施設は、海沿いの眺めのいい建物で、沈んでゆく夕陽が水平線に溶ける様子は幻想的だ。
「そういえば、なんで黙ってたんだよ」
「なんの話だ」
「あのババアのことだよ」
「ああ、馴染みの相手だったようだな」
ビャクは少し嫌味っぽく答えると、随分と親しい間柄らしいなと付け加えてシグレの頬をつねる。
「痛てっ」
「俺のところに来たくらいだ。娼館で遊び回ってお手付きだらけか。忌々しい」
「お前と会うまでの話だろ」
「よほど色事が好きと見える。いっそのこと足腰立たなくなるまで啼かせてやろうか」
「マジでやめろ!」
ビャクが羽交い締めにしようとする腕を振り払うと、シグレはその場に立ち上がって、そんな話をしてるんじゃないと、話題がすり替わってることに反論する。
「そんなことよりババアだよ」
「クレハと言ったか。確かにあんな身近に回生師が居るとは思いもよらなかったな」
ビャクが連れてきた蛇蝎呪術者こそ、シグレが懇意にしていた娼館である〈イベリス〉の女主人であり、本来の姿はあの老婆だというのだから不思議な縁もあるものだ。
「ババア、やっぱり妖術使いだったのか」
確かにシグレが花街を出入りし始めた頃から、クレハの容姿は一切変わっていないことが不思議でならなかったが、あれほどの使い手ならば容姿を整えるくらい造作もないだろう。
「まあ術者だから間違いではないだろうな」
「それにしても、そんな偶然あるのかよ」
「実はな、俺を身請けした話を聞きつけたクレハの方から接触があったんだ。貴様のことは我が子同然だからと言ってな」
「なんだそれ」
「興味本位のことだったのだろうが、俺を見た瞬間に顔色を変えてな。俺にかけられた禁呪が見えたからだろう、その体はどうしたのかと聞いてきた」
「見える? 王様と違ってビャクの呪いは見えないけど、ババアには見えるってことか」
「そういうことだ」
つまりは偶然からクレハが蛇蝎呪術、それも回生師と呼ばれる回復術に長けた術者だと判明したことになる。
「なるほどな。それにしてもお前の体、徐々に蝕まれてる可能性があるのか? 王様と話した時にそんなことを言ってたよな」
「分からん。クレハが言うには、今回捕まえた術者だけの呪詛ではない可能性があるらしい」
「ん? つまりどういうことだよ」
「蛇蝎呪術以外の呪詛が込められている可能性がある、そういう意味だ」
「マジかよ」
「だからこそ、あの術者から色々と聞き出す必要がある。あの場では話さなかったが、クレハによれば呪術の中には隷属の呪詛が存在するらしくてな」
「隷属って、なんだよそれ。めちゃくちゃ物騒だな」
「術者が大人しくしているのも、既にその呪縛で能力を封じているからだ。容易く自尽などされては困るからな」
ビャクはそこまで言うと、そういった恐ろしい力があるからこそ、クレハを全面的には信用していないと付け加えて難しい顔をする。
確かにイスタリア王の解呪の際も、ビャクはクレハを警戒して喉元にサーベルを突き付けていた。
「でも王様は快復したんだよな」
「医師の見立てでは、原因不明で倒れた者は押し並べて健康体だそうだ。クレハが用意した香を解析鑑定させたが、毒物にあたるものは検知されなかった」
「なるほど、悪意の根拠は見当たらねえワケか」
「今のところはそうだ」
警戒を緩めるつもりはないと言いながら、ビャクはそれでも術者としての力を必要としているので、やはり難しい顔をしている。
「お前の体、ババアにしか治せないんだろ」
「……そうだな。別の術者が見つかったとしても、協力を仰げるかどうかは分からないからな」
行きと同じくヴィネージュ大使館が管理する宿泊施設は、海沿いの眺めのいい建物で、沈んでゆく夕陽が水平線に溶ける様子は幻想的だ。
「そういえば、なんで黙ってたんだよ」
「なんの話だ」
「あのババアのことだよ」
「ああ、馴染みの相手だったようだな」
ビャクは少し嫌味っぽく答えると、随分と親しい間柄らしいなと付け加えてシグレの頬をつねる。
「痛てっ」
「俺のところに来たくらいだ。娼館で遊び回ってお手付きだらけか。忌々しい」
「お前と会うまでの話だろ」
「よほど色事が好きと見える。いっそのこと足腰立たなくなるまで啼かせてやろうか」
「マジでやめろ!」
ビャクが羽交い締めにしようとする腕を振り払うと、シグレはその場に立ち上がって、そんな話をしてるんじゃないと、話題がすり替わってることに反論する。
「そんなことよりババアだよ」
「クレハと言ったか。確かにあんな身近に回生師が居るとは思いもよらなかったな」
ビャクが連れてきた蛇蝎呪術者こそ、シグレが懇意にしていた娼館である〈イベリス〉の女主人であり、本来の姿はあの老婆だというのだから不思議な縁もあるものだ。
「ババア、やっぱり妖術使いだったのか」
確かにシグレが花街を出入りし始めた頃から、クレハの容姿は一切変わっていないことが不思議でならなかったが、あれほどの使い手ならば容姿を整えるくらい造作もないだろう。
「まあ術者だから間違いではないだろうな」
「それにしても、そんな偶然あるのかよ」
「実はな、俺を身請けした話を聞きつけたクレハの方から接触があったんだ。貴様のことは我が子同然だからと言ってな」
「なんだそれ」
「興味本位のことだったのだろうが、俺を見た瞬間に顔色を変えてな。俺にかけられた禁呪が見えたからだろう、その体はどうしたのかと聞いてきた」
「見える? 王様と違ってビャクの呪いは見えないけど、ババアには見えるってことか」
「そういうことだ」
つまりは偶然からクレハが蛇蝎呪術、それも回生師と呼ばれる回復術に長けた術者だと判明したことになる。
「なるほどな。それにしてもお前の体、徐々に蝕まれてる可能性があるのか? 王様と話した時にそんなことを言ってたよな」
「分からん。クレハが言うには、今回捕まえた術者だけの呪詛ではない可能性があるらしい」
「ん? つまりどういうことだよ」
「蛇蝎呪術以外の呪詛が込められている可能性がある、そういう意味だ」
「マジかよ」
「だからこそ、あの術者から色々と聞き出す必要がある。あの場では話さなかったが、クレハによれば呪術の中には隷属の呪詛が存在するらしくてな」
「隷属って、なんだよそれ。めちゃくちゃ物騒だな」
「術者が大人しくしているのも、既にその呪縛で能力を封じているからだ。容易く自尽などされては困るからな」
ビャクはそこまで言うと、そういった恐ろしい力があるからこそ、クレハを全面的には信用していないと付け加えて難しい顔をする。
確かにイスタリア王の解呪の際も、ビャクはクレハを警戒して喉元にサーベルを突き付けていた。
「でも王様は快復したんだよな」
「医師の見立てでは、原因不明で倒れた者は押し並べて健康体だそうだ。クレハが用意した香を解析鑑定させたが、毒物にあたるものは検知されなかった」
「なるほど、悪意の根拠は見当たらねえワケか」
「今のところはそうだ」
警戒を緩めるつもりはないと言いながら、ビャクはそれでも術者としての力を必要としているので、やはり難しい顔をしている。
「お前の体、ババアにしか治せないんだろ」
「……そうだな。別の術者が見つかったとしても、協力を仰げるかどうかは分からないからな」
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