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褒賞④

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「それならば、すべての術者を掻き集めてこちらに呼び寄せれば良いではないか」
「いえ。本来、蛇蝎呪術は秘匿とされるもので、術者を探し出すこと自体が困難なのです。術者である私自身も他の術者の所在などは把握出来ておりません」
「ならばブランの体はどうなる」
「そもそも時間経過で悪化する呪詛の 類たぐいであれば、日常的に継続して解呪を施す必要があるでしょう。それを解析するためにも、ヤスナでなければ揃わない薬剤や香が必要です」
「そなたがこちらに滞在して、ヤスナから物資を取り寄せれば良いではないか」
「いいえ父上、それは出来ません。ヴィネージュでは麻薬や劇薬の部類に入る物が含まれるために、輸入自体が出来ないのですよ」
 ビャクは回生師の言葉を引き継いでシグレを腕から解き放つと、なぜヤスナに滞在しなければならないのか、他にも様々な理由があると説明を続けた。
 正直なところ、シグレは初めて聞く話ばかりで驚いて言葉が出ない状態だが、ビャクの言葉が口から出まかせを言っている訳ではないことだけは分かる。
「どうしても、国を捨てるというのだな」
「元よりあの日から息子はいないものと、お伝えしているはずですよ」
「……気は変わらんのだな」
「変わるもなにも、既に済んでいる話です。国に戻る方が新たな歪みを生むでしょうね」
「そうか」
 エンブラット卿はとうとう諦めがついたのか、大きく息を吐き出すと、シグレを見つめて頭を下げた。
「息子をよろしく頼みます」
「いやいやいや、頭を上げてください」
 シグレが慌てふためいてビャクに助けを求める視線を投げると、その様子を見ていたイスタリア王が苦笑しながら口を開いた。
「此度はよく働いてくれた。ブランの希望とあれば、貴君への褒賞はブランの身ということで良いだろうか、シグレよ」
「いやでも、あの」
「ブランの気持ちを汲んでやってくれまいか。甥を頼むぞシグレ」
「……承知しました。謹んでお受けします」
 結局ビャクの思い通りになったかと、シグレは落胆しながらもどこか安堵して小さく溜め息を吐き出した。
 そして話は回生師への褒賞についてに変わり、彼女の望みは今回捕まった蛇蝎呪術の術者を預かりたいという申し出だった。
 当然のことながら、犯罪者の解放を望む声にイスタリア王から反論があったが、ビャクの解呪のために知識が欲しいと回生師は嘆願した。
 蛇蝎呪術は秘匿の呪術、それがヤスナから国外に流出していたことも、どういう経緯なのか詳しく調べて今後の対応を考えなければならないとビャクが援護して付け加える。
「回生師は蛇蝎呪術者の中でも、極めて稀な力を行使できるのです。その管理下に置く方が、有益な情報を引き出すことも出来るでしょう」
 ビャクの言葉にイスタリア王は逡巡してから小さく唸ると、今までとは一変して鋭く厳しい目をビャクに向けた。
「国の一助となるよう、生涯働き続ける。その言葉に二言はないのだな」
「御意のとおりに御座います」
「……ならばブラン、貴様にその件は預けよう。回生師も、それで良いな」
 イスタリア王の言葉にビャクと回生師が頭を下げると、ようやく重たい空気が晴れた。
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