44 / 49
褒賞④
しおりを挟む
「それならば、すべての術者を掻き集めてこちらに呼び寄せれば良いではないか」
「いえ。本来、蛇蝎呪術は秘匿とされるもので、術者を探し出すこと自体が困難なのです。術者である私自身も他の術者の所在などは把握出来ておりません」
「ならばブランの体はどうなる」
「そもそも時間経過で悪化する呪詛の 類いであれば、日常的に継続して解呪を施す必要があるでしょう。それを解析するためにも、ヤスナでなければ揃わない薬剤や香が必要です」
「そなたがこちらに滞在して、ヤスナから物資を取り寄せれば良いではないか」
「いいえ父上、それは出来ません。ヴィネージュでは麻薬や劇薬の部類に入る物が含まれるために、輸入自体が出来ないのですよ」
ビャクは回生師の言葉を引き継いでシグレを腕から解き放つと、なぜヤスナに滞在しなければならないのか、他にも様々な理由があると説明を続けた。
正直なところ、シグレは初めて聞く話ばかりで驚いて言葉が出ない状態だが、ビャクの言葉が口から出まかせを言っている訳ではないことだけは分かる。
「どうしても、国を捨てるというのだな」
「元よりあの日から息子はいないものと、お伝えしているはずですよ」
「……気は変わらんのだな」
「変わるもなにも、既に済んでいる話です。国に戻る方が新たな歪みを生むでしょうね」
「そうか」
エンブラット卿はとうとう諦めがついたのか、大きく息を吐き出すと、シグレを見つめて頭を下げた。
「息子をよろしく頼みます」
「いやいやいや、頭を上げてください」
シグレが慌てふためいてビャクに助けを求める視線を投げると、その様子を見ていたイスタリア王が苦笑しながら口を開いた。
「此度はよく働いてくれた。ブランの希望とあれば、貴君への褒賞はブランの身ということで良いだろうか、シグレよ」
「いやでも、あの」
「ブランの気持ちを汲んでやってくれまいか。甥を頼むぞシグレ」
「……承知しました。謹んでお受けします」
結局ビャクの思い通りになったかと、シグレは落胆しながらもどこか安堵して小さく溜め息を吐き出した。
そして話は回生師への褒賞についてに変わり、彼女の望みは今回捕まった蛇蝎呪術の術者を預かりたいという申し出だった。
当然のことながら、犯罪者の解放を望む声にイスタリア王から反論があったが、ビャクの解呪のために知識が欲しいと回生師は嘆願した。
蛇蝎呪術は秘匿の呪術、それがヤスナから国外に流出していたことも、どういう経緯なのか詳しく調べて今後の対応を考えなければならないとビャクが援護して付け加える。
「回生師は蛇蝎呪術者の中でも、極めて稀な力を行使できるのです。その管理下に置く方が、有益な情報を引き出すことも出来るでしょう」
ビャクの言葉にイスタリア王は逡巡してから小さく唸ると、今までとは一変して鋭く厳しい目をビャクに向けた。
「国の一助となるよう、生涯働き続ける。その言葉に二言はないのだな」
「御意のとおりに御座います」
「……ならばブラン、貴様にその件は預けよう。回生師も、それで良いな」
イスタリア王の言葉にビャクと回生師が頭を下げると、ようやく重たい空気が晴れた。
「いえ。本来、蛇蝎呪術は秘匿とされるもので、術者を探し出すこと自体が困難なのです。術者である私自身も他の術者の所在などは把握出来ておりません」
「ならばブランの体はどうなる」
「そもそも時間経過で悪化する呪詛の 類いであれば、日常的に継続して解呪を施す必要があるでしょう。それを解析するためにも、ヤスナでなければ揃わない薬剤や香が必要です」
「そなたがこちらに滞在して、ヤスナから物資を取り寄せれば良いではないか」
「いいえ父上、それは出来ません。ヴィネージュでは麻薬や劇薬の部類に入る物が含まれるために、輸入自体が出来ないのですよ」
ビャクは回生師の言葉を引き継いでシグレを腕から解き放つと、なぜヤスナに滞在しなければならないのか、他にも様々な理由があると説明を続けた。
正直なところ、シグレは初めて聞く話ばかりで驚いて言葉が出ない状態だが、ビャクの言葉が口から出まかせを言っている訳ではないことだけは分かる。
「どうしても、国を捨てるというのだな」
「元よりあの日から息子はいないものと、お伝えしているはずですよ」
「……気は変わらんのだな」
「変わるもなにも、既に済んでいる話です。国に戻る方が新たな歪みを生むでしょうね」
「そうか」
エンブラット卿はとうとう諦めがついたのか、大きく息を吐き出すと、シグレを見つめて頭を下げた。
「息子をよろしく頼みます」
「いやいやいや、頭を上げてください」
シグレが慌てふためいてビャクに助けを求める視線を投げると、その様子を見ていたイスタリア王が苦笑しながら口を開いた。
「此度はよく働いてくれた。ブランの希望とあれば、貴君への褒賞はブランの身ということで良いだろうか、シグレよ」
「いやでも、あの」
「ブランの気持ちを汲んでやってくれまいか。甥を頼むぞシグレ」
「……承知しました。謹んでお受けします」
結局ビャクの思い通りになったかと、シグレは落胆しながらもどこか安堵して小さく溜め息を吐き出した。
そして話は回生師への褒賞についてに変わり、彼女の望みは今回捕まった蛇蝎呪術の術者を預かりたいという申し出だった。
当然のことながら、犯罪者の解放を望む声にイスタリア王から反論があったが、ビャクの解呪のために知識が欲しいと回生師は嘆願した。
蛇蝎呪術は秘匿の呪術、それがヤスナから国外に流出していたことも、どういう経緯なのか詳しく調べて今後の対応を考えなければならないとビャクが援護して付け加える。
「回生師は蛇蝎呪術者の中でも、極めて稀な力を行使できるのです。その管理下に置く方が、有益な情報を引き出すことも出来るでしょう」
ビャクの言葉にイスタリア王は逡巡してから小さく唸ると、今までとは一変して鋭く厳しい目をビャクに向けた。
「国の一助となるよう、生涯働き続ける。その言葉に二言はないのだな」
「御意のとおりに御座います」
「……ならばブラン、貴様にその件は預けよう。回生師も、それで良いな」
イスタリア王の言葉にビャクと回生師が頭を下げると、ようやく重たい空気が晴れた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜
嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。
勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。
しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!?
たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。
この恋は運命
大波小波
BL
飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。
申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。
第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。
しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。
合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。
そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。
海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。
ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。
そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。
麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。
響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。
明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。
第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。
しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。
そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。
彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。
そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。
喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。
一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。
ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。
子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。
二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
森光くんのおっぱい
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
「下手な女子より大きくない?」
そう囁かれていたのは、柔道部・森光の胸だった。
僕はそれが気になりながらも、一度も同じクラスになることなく中学校を卒業し、高校も違う学校に進学。結局、義務教育では彼の胸を手に入れることはできなかった。
しかし大学生になってから彼と意外な接点ができ、意欲が再燃。攻略を神に誓う。
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる