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褒賞③
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老婆の様子に挙動不審になるシグレに対し、いよいよビャクが助け舟なのだろう、間に入ってイスタリア王に声を掛けた。
「こちらの者はシグレ、私の婿です」
「婿とな」
突然のビャクの発言にイスタリア王だけでなく、エンブラット卿も度肝を抜かれたような顔をして、シグレとビャクを交互に見る。
「そうです陛下。我が婿殿は、今回の解呪にも立ち会い尽力してくれました。またヤスナにおいても、私や仲間たちの面倒を見てくれています」
ビャクは質問される前にそこまで言い切ると、続けて口を開いてシグレも引くほどの勢いで捲し立てた。
「ですから陛下、いや、伯父上。褒賞をくださるというお話であれば、どうか私とシグレの婚姻をヴィネージュにおいても認めて戴きたいのです。そして私をヤスナに帰してください」
「待て待て、待たないかブラン」
「父上は口を閉じていてください」
「黙ってなどいられるか! 陛下は此度の功労者であるお前に、改めて将軍の責務をお与えくださるおつもりなのだぞ」
「そんなものは要りません。また私には務まりません」
「おいブラン」
正気なのかと言わんばかりに、エンブラット卿は息子であるビャクの肩を掴んで体をゆすり、そんな話は聞いていないと声を荒げて説得に掛かる。
だがビャクはそれには一切応じずに、イスタリア王に視線を向けて、父を止めてくれと無言で訴えた。
「まあ待てラグナ。ブランは本気だろう、そう頭ごなしに否定してばかりはいかん。して、シグレと申したか。そなたは誠にブランの婿であるのか」
部屋中の視線が一気にシグレに向けられ、シグレはどう答えるべきなのか言い淀んでビャクを見るが、ビャクは面白がって助けるつもりがないらしい。
「……恐れながら、ブラン様がお伝えした通りです」
「ほう。これは面白い」
イスタリア王はにっこりと微笑むと、まずは仕切り直して座ろうとソファーに腰を下ろし、興奮冷めやらぬ様子のエンブラット卿を隣に座らせて、シグレたちにも着席を促す。
「なるほど、見た目は確かに色男だな。漆黒の髪に宝玉と見紛うほどに澄んだ黒い瞳。ブランの好みはシグレのような人物であったか」
「兄上!」
「良いではないか。ブランが今までお前を困らせるようなことをしたことがあったか? それが自ら、したいことを口にしたのだ。叶えてやれば良かろう」
「しかし兄上、婿の話はまだ良いとしても、国を離れるというのですよ」
婿は良いのかよとシグレが心の中で呟くと、その心の声が聞こえたかのようにエンブラット卿がシグレを見る。
「シグレと言ったな。母国を捨てるなど、貴殿の入れ知恵ではないのか」
「いや、えっと……」
そもそもビャクとの出会い方も普通ではない。決してシグレがビャクを 唆した訳ではないが、金で買ったと取られかねない事実は話せない。
どう答えて良いかシグレが頭を悩ませていると、それまで口を閉じていたビャクが面倒そうに仲裁に入った。
「父上、その物言いはあまりにも失礼です。そもそも彼は、私がヤスナで諜報活動をしているのを知っています。その上で心を癒してくれた恩人なのですよ」
ビャクは白々しくもそう言ってのけると、板挟みになっているシグレを引き寄せて自分の腕の中に閉じ込めるように抱き締める。
そして反論しようとするエンブラット卿に、片手を挙げてそれを制すると、ヤスナにいなければ解呪が出来ないと話を続ける。
「そもそもヤスナには、この身に受けた禁呪を解く方法を探るために潜入したのです。そして今回、陛下の御身を救った術者が私の解呪はヤスナでしか果たせないと言っています」
「どういうことだ」
「説明を頼んでも?」
ビャクは回生師に声を掛けると、老婆だったはずの女性はにこりと微笑んでエンブラット卿を見つめる。
「途中で口を挟む形になりますが、ブラン様の禁呪は陛下にかけられたものよりも複雑で厄介なものです。私の知識だけでは、解呪自体が困難。他の術者の知恵も必要になります」
「こちらの者はシグレ、私の婿です」
「婿とな」
突然のビャクの発言にイスタリア王だけでなく、エンブラット卿も度肝を抜かれたような顔をして、シグレとビャクを交互に見る。
「そうです陛下。我が婿殿は、今回の解呪にも立ち会い尽力してくれました。またヤスナにおいても、私や仲間たちの面倒を見てくれています」
ビャクは質問される前にそこまで言い切ると、続けて口を開いてシグレも引くほどの勢いで捲し立てた。
「ですから陛下、いや、伯父上。褒賞をくださるというお話であれば、どうか私とシグレの婚姻をヴィネージュにおいても認めて戴きたいのです。そして私をヤスナに帰してください」
「待て待て、待たないかブラン」
「父上は口を閉じていてください」
「黙ってなどいられるか! 陛下は此度の功労者であるお前に、改めて将軍の責務をお与えくださるおつもりなのだぞ」
「そんなものは要りません。また私には務まりません」
「おいブラン」
正気なのかと言わんばかりに、エンブラット卿は息子であるビャクの肩を掴んで体をゆすり、そんな話は聞いていないと声を荒げて説得に掛かる。
だがビャクはそれには一切応じずに、イスタリア王に視線を向けて、父を止めてくれと無言で訴えた。
「まあ待てラグナ。ブランは本気だろう、そう頭ごなしに否定してばかりはいかん。して、シグレと申したか。そなたは誠にブランの婿であるのか」
部屋中の視線が一気にシグレに向けられ、シグレはどう答えるべきなのか言い淀んでビャクを見るが、ビャクは面白がって助けるつもりがないらしい。
「……恐れながら、ブラン様がお伝えした通りです」
「ほう。これは面白い」
イスタリア王はにっこりと微笑むと、まずは仕切り直して座ろうとソファーに腰を下ろし、興奮冷めやらぬ様子のエンブラット卿を隣に座らせて、シグレたちにも着席を促す。
「なるほど、見た目は確かに色男だな。漆黒の髪に宝玉と見紛うほどに澄んだ黒い瞳。ブランの好みはシグレのような人物であったか」
「兄上!」
「良いではないか。ブランが今までお前を困らせるようなことをしたことがあったか? それが自ら、したいことを口にしたのだ。叶えてやれば良かろう」
「しかし兄上、婿の話はまだ良いとしても、国を離れるというのですよ」
婿は良いのかよとシグレが心の中で呟くと、その心の声が聞こえたかのようにエンブラット卿がシグレを見る。
「シグレと言ったな。母国を捨てるなど、貴殿の入れ知恵ではないのか」
「いや、えっと……」
そもそもビャクとの出会い方も普通ではない。決してシグレがビャクを 唆した訳ではないが、金で買ったと取られかねない事実は話せない。
どう答えて良いかシグレが頭を悩ませていると、それまで口を閉じていたビャクが面倒そうに仲裁に入った。
「父上、その物言いはあまりにも失礼です。そもそも彼は、私がヤスナで諜報活動をしているのを知っています。その上で心を癒してくれた恩人なのですよ」
ビャクは白々しくもそう言ってのけると、板挟みになっているシグレを引き寄せて自分の腕の中に閉じ込めるように抱き締める。
そして反論しようとするエンブラット卿に、片手を挙げてそれを制すると、ヤスナにいなければ解呪が出来ないと話を続ける。
「そもそもヤスナには、この身に受けた禁呪を解く方法を探るために潜入したのです。そして今回、陛下の御身を救った術者が私の解呪はヤスナでしか果たせないと言っています」
「どういうことだ」
「説明を頼んでも?」
ビャクは回生師に声を掛けると、老婆だったはずの女性はにこりと微笑んでエンブラット卿を見つめる。
「途中で口を挟む形になりますが、ブラン様の禁呪は陛下にかけられたものよりも複雑で厄介なものです。私の知識だけでは、解呪自体が困難。他の術者の知恵も必要になります」
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