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褒賞①
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王が意識を取り戻して二日、泳がせていた術者が行動を起こし、術者本人と、接触を図った伯爵はその場で捕縛された。
そして二人の供述から首謀者であり、蛇蝎呪術者を囲い込んでいたラザル公爵が任意で取り調べを受けることとなり、同時進行していた捜索で屋敷の隠し部屋から複数の書類が押収された。
これらの書類の中から公爵に手を貸した貴族や、その報酬を記した契約書などの証拠品が見つかり、芋蔓式に関与した者たちは身柄を拘束され、事態は大きく動いた。
「禁呪の使い手はどうなったんだよ」
「回生師に頼んで術を封じた上で投獄してる」
「すげえな。あの婆さん、そんなことも出来るのかよ」
「ああ。長く調べて見つけた甲斐があった」
ビャクは無意識なのか、自分の半身を庇うように撫でると、力の抜けた笑顔を浮かべて話を続ける。
「分かっていると思うが、王から非公式に呼び出しを受けている。回生師もだが、お前もその場には立ち会ってもらうぞ」
「えぇえ、俺もかよ」
「貴様の場合は意味合いが違うんだよ、婿殿」
「はあ? どういう意味だよ」
「どうということはない。それより粗相は許されんぞ。相手が俺の伯父とはいえ、一国の 主だからな。シグレはそそっかしいから心配だ」
「だったら顔出さなくて良くねえ?」
「それは出来ん。まあ、精々緊張して震えていろ」
「お前は、本当にね。そういうところが可愛くないんだよ」
「俺に可愛げを求めるか。そうかそうか、可愛いなシグレ」
ニコニコしながらビャクはシグレを羽交い締めにすると、反射的に嫌がるシグレを無視して、力尽くで首筋に吸い付いて噛み跡を残すようなキスをする。
「痛てっ、放せこら」
「熱心に求愛する健気さが可愛いだろう?」
「それ本気で言ってんならどうかしてるぞ。んなもんに可愛げがあるかよ。ああもう、痛てえし見えねえし。なにすんだよマジで」
シグレが文句を言うのを楽しげに眺めると、ビャクは不意に立ち上がり、部屋に置かれた道具でお茶の支度を指示してからソファーに戻ってきた。
「あれなんなの。〈マグノリア〉とかに置いてある水晶みたいなもん?」
「ああ。水晶を核にした連絡装置だな。帝国の技術力よりも、北やこの西大陸と呼ばれる諸国の方が、より高度な技術を持ってる」
「へえ。まあ、船も空飛んだしな」
「そういうことだ」
ビャクからヴィネージュの文化や歴史について聞きながら、そのうち運ばれてきたお茶を飲んで雑談をしていると、話の切っ掛けになった先ほどの機械から呼び鈴のような音が鳴った。
ビャクは慣れた様子で機械を操作して二言ほどやり取りすると、僅かにシグレに視線を移して、呼び出されたことをその視線で知らせる。
確かにビャクの言う通り、相手はビャクの伯父とはいえ、このヴィネージュを治める国王なのだから、外国の造り酒屋の三男坊風情が簡単に会えるような人物ではない。
小さな島国のヤスナに置き換えて考えても、国王に会う機会なんて一生のうちに起こり得ることではないだろう。
「シグレ」
「分かってるよ。呼び出しだろ」
「ああ。少々窮屈だろうが、上着に袖を通せ」
「まったく。脱がしたり着せたり忙しいヤツだな」
「俺は今からまた抱き合っても構わんのだかな」
「うるせえ。もう腰が保たねえよ」
シグレはビャクを叩くと、ソファーに掛けていた上着を掴み、その場で立ち上がって上着を着込んだ。
支度の整った二人は部屋を出ると、途中で兵士と共に控えていた回生師と合流してから、城の中でも深部の王族の居住区域に向かう。
「なあビャク、あの婆さんなんか様子が違わねえか」
声を抑えてビャクの耳元に囁くように、シグレは顔を寄せて視線だけを老婆に向ける。
「おい、俺の呼び名には気を払え」
「ああ悪い」
「まあ良い。回生師ならば、王への謁見だからな。姿を整えたいらしい」
そして二人の供述から首謀者であり、蛇蝎呪術者を囲い込んでいたラザル公爵が任意で取り調べを受けることとなり、同時進行していた捜索で屋敷の隠し部屋から複数の書類が押収された。
これらの書類の中から公爵に手を貸した貴族や、その報酬を記した契約書などの証拠品が見つかり、芋蔓式に関与した者たちは身柄を拘束され、事態は大きく動いた。
「禁呪の使い手はどうなったんだよ」
「回生師に頼んで術を封じた上で投獄してる」
「すげえな。あの婆さん、そんなことも出来るのかよ」
「ああ。長く調べて見つけた甲斐があった」
ビャクは無意識なのか、自分の半身を庇うように撫でると、力の抜けた笑顔を浮かべて話を続ける。
「分かっていると思うが、王から非公式に呼び出しを受けている。回生師もだが、お前もその場には立ち会ってもらうぞ」
「えぇえ、俺もかよ」
「貴様の場合は意味合いが違うんだよ、婿殿」
「はあ? どういう意味だよ」
「どうということはない。それより粗相は許されんぞ。相手が俺の伯父とはいえ、一国の 主だからな。シグレはそそっかしいから心配だ」
「だったら顔出さなくて良くねえ?」
「それは出来ん。まあ、精々緊張して震えていろ」
「お前は、本当にね。そういうところが可愛くないんだよ」
「俺に可愛げを求めるか。そうかそうか、可愛いなシグレ」
ニコニコしながらビャクはシグレを羽交い締めにすると、反射的に嫌がるシグレを無視して、力尽くで首筋に吸い付いて噛み跡を残すようなキスをする。
「痛てっ、放せこら」
「熱心に求愛する健気さが可愛いだろう?」
「それ本気で言ってんならどうかしてるぞ。んなもんに可愛げがあるかよ。ああもう、痛てえし見えねえし。なにすんだよマジで」
シグレが文句を言うのを楽しげに眺めると、ビャクは不意に立ち上がり、部屋に置かれた道具でお茶の支度を指示してからソファーに戻ってきた。
「あれなんなの。〈マグノリア〉とかに置いてある水晶みたいなもん?」
「ああ。水晶を核にした連絡装置だな。帝国の技術力よりも、北やこの西大陸と呼ばれる諸国の方が、より高度な技術を持ってる」
「へえ。まあ、船も空飛んだしな」
「そういうことだ」
ビャクからヴィネージュの文化や歴史について聞きながら、そのうち運ばれてきたお茶を飲んで雑談をしていると、話の切っ掛けになった先ほどの機械から呼び鈴のような音が鳴った。
ビャクは慣れた様子で機械を操作して二言ほどやり取りすると、僅かにシグレに視線を移して、呼び出されたことをその視線で知らせる。
確かにビャクの言う通り、相手はビャクの伯父とはいえ、このヴィネージュを治める国王なのだから、外国の造り酒屋の三男坊風情が簡単に会えるような人物ではない。
小さな島国のヤスナに置き換えて考えても、国王に会う機会なんて一生のうちに起こり得ることではないだろう。
「シグレ」
「分かってるよ。呼び出しだろ」
「ああ。少々窮屈だろうが、上着に袖を通せ」
「まったく。脱がしたり着せたり忙しいヤツだな」
「俺は今からまた抱き合っても構わんのだかな」
「うるせえ。もう腰が保たねえよ」
シグレはビャクを叩くと、ソファーに掛けていた上着を掴み、その場で立ち上がって上着を着込んだ。
支度の整った二人は部屋を出ると、途中で兵士と共に控えていた回生師と合流してから、城の中でも深部の王族の居住区域に向かう。
「なあビャク、あの婆さんなんか様子が違わねえか」
声を抑えてビャクの耳元に囁くように、シグレは顔を寄せて視線だけを老婆に向ける。
「おい、俺の呼び名には気を払え」
「ああ悪い」
「まあ良い。回生師ならば、王への謁見だからな。姿を整えたいらしい」
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