40 / 49
解呪③
しおりを挟む
老婆は王を見つめ、シグレには禁呪が目に見えているはずだとビャクたちを振り返った。
「そうなのか」
「え? ビ……ブランには見えてないのか。体中に巻き付いてるじゃないか。不気味で赤い血文字みたいだよな」
シグレは見ているだけでも息が苦しくなる気配がすると、ビャクを見つめて首を傾げるが、質問したビャクには可視化出来るものではないらしく、難しい顔で眉を寄せた。
「血文字。そうかお前には目視できているのだな。回生師、お前の申し出を許可しよう。シグレ、読経とやらだが、お前にも出来ることなんだな?」
「経典がないと無理だぞ。婆さん、経典はあるのかよ」
「おいシグレ」
「ふふふ、構いやしません。ではシグレの旦那にはこちらをお渡しします」
老婆は可笑しそうに笑いながら、蛇腹状に折り畳まれた経典を懐から取り出し、それをシグレに差し出して読めそうかと確認する。
「ああ。俺でもちゃんと読めるし、内容も見覚えある文言だから変なもんじゃないと思う」
「ならば急いで貰おう。回生師、約束を違えれば……その時は分かっているな」
「もちろんです。そのために旦那の力をお借りするのです」
「だそうだ。シグレ、任せたぞ」
「お、おう」
ビャクの言葉を受け、シグレは緊張から乾いていく喉で唾を呑み込み、老婆が指示する通りに王のそばに立って経典を開く。
「では始めますぞ」
老婆の一言でそれまでの和やかだった空気は一変し、静まり返る部屋の中に、シグレが読経する声が大きく空気を震わせる。
老婆が口にした通り、先ほどまでとは比べ物にならない速度で、王を絡め取る呪詛のような赤い文字が、剥がれ浮いて消滅していく。
そうして何層にも重なっていた呪縛の文字はあっという間に消え失せ、いよいよあと一層を残し、王の顔色も僅かに回復してきたように見える。
「では仕上げに入ります」
老婆はそう呟くと、シグレに読経をやめないように釘を刺し、今までとは明らかに違う文言を唱え始めた。
張り詰めた緊張が続く中、王の体から一文字、また一文字と文字が剥がれて消滅する度に、その体が痙攣するように大きく揺れ始めた。
警戒するビャクが、老婆の喉元に突き付けたサーベルに力を込めるものの、老婆は動じずに短く解呪の反動だと答えて詠唱をやめない。
そして最後の文字が消滅したのを確認すると、老婆はまだだと呟いて、王の体に新たに言葉を刻み始めた。
青白く輝く文字が王の体を包むと、最後の文字が刻まれた瞬間、王の体が紫に光って大きく跳ねるようにビクッと動いた。
「貴様、なにをした」
ビャクのサーベルが僅かに引かれ、老婆の喉元から血が滲む。
「護符の附与です。医師に確認させれば、こちらの御仁の体調が回復してると分かりましょう」
「護符だと?」
「また複雑な禁呪を用いられては意味がない。事前に話があった通り、禁呪への対策とでも申し上げておきましょう」
「そうか。シグレ、お前にはどう見える」
「そうだな、さっきまでの禍々しいのは消えたけど、今度は青い文字が体を包んでる」
老婆の指示で読経をやめたシグレは見えたままをビャクに伝えると、老婆は捕捉するように回生師にしか扱えない術で更なる術を跳ね除けるようにしたのだと説明した。
そしてそれを証明するように、程なくして王が意識を取り戻し、医師が呼ばれて部屋の中が騒がしくなると、王の回復を確認してからシグレたちはその場を離れた。
「そうなのか」
「え? ビ……ブランには見えてないのか。体中に巻き付いてるじゃないか。不気味で赤い血文字みたいだよな」
シグレは見ているだけでも息が苦しくなる気配がすると、ビャクを見つめて首を傾げるが、質問したビャクには可視化出来るものではないらしく、難しい顔で眉を寄せた。
「血文字。そうかお前には目視できているのだな。回生師、お前の申し出を許可しよう。シグレ、読経とやらだが、お前にも出来ることなんだな?」
「経典がないと無理だぞ。婆さん、経典はあるのかよ」
「おいシグレ」
「ふふふ、構いやしません。ではシグレの旦那にはこちらをお渡しします」
老婆は可笑しそうに笑いながら、蛇腹状に折り畳まれた経典を懐から取り出し、それをシグレに差し出して読めそうかと確認する。
「ああ。俺でもちゃんと読めるし、内容も見覚えある文言だから変なもんじゃないと思う」
「ならば急いで貰おう。回生師、約束を違えれば……その時は分かっているな」
「もちろんです。そのために旦那の力をお借りするのです」
「だそうだ。シグレ、任せたぞ」
「お、おう」
ビャクの言葉を受け、シグレは緊張から乾いていく喉で唾を呑み込み、老婆が指示する通りに王のそばに立って経典を開く。
「では始めますぞ」
老婆の一言でそれまでの和やかだった空気は一変し、静まり返る部屋の中に、シグレが読経する声が大きく空気を震わせる。
老婆が口にした通り、先ほどまでとは比べ物にならない速度で、王を絡め取る呪詛のような赤い文字が、剥がれ浮いて消滅していく。
そうして何層にも重なっていた呪縛の文字はあっという間に消え失せ、いよいよあと一層を残し、王の顔色も僅かに回復してきたように見える。
「では仕上げに入ります」
老婆はそう呟くと、シグレに読経をやめないように釘を刺し、今までとは明らかに違う文言を唱え始めた。
張り詰めた緊張が続く中、王の体から一文字、また一文字と文字が剥がれて消滅する度に、その体が痙攣するように大きく揺れ始めた。
警戒するビャクが、老婆の喉元に突き付けたサーベルに力を込めるものの、老婆は動じずに短く解呪の反動だと答えて詠唱をやめない。
そして最後の文字が消滅したのを確認すると、老婆はまだだと呟いて、王の体に新たに言葉を刻み始めた。
青白く輝く文字が王の体を包むと、最後の文字が刻まれた瞬間、王の体が紫に光って大きく跳ねるようにビクッと動いた。
「貴様、なにをした」
ビャクのサーベルが僅かに引かれ、老婆の喉元から血が滲む。
「護符の附与です。医師に確認させれば、こちらの御仁の体調が回復してると分かりましょう」
「護符だと?」
「また複雑な禁呪を用いられては意味がない。事前に話があった通り、禁呪への対策とでも申し上げておきましょう」
「そうか。シグレ、お前にはどう見える」
「そうだな、さっきまでの禍々しいのは消えたけど、今度は青い文字が体を包んでる」
老婆の指示で読経をやめたシグレは見えたままをビャクに伝えると、老婆は捕捉するように回生師にしか扱えない術で更なる術を跳ね除けるようにしたのだと説明した。
そしてそれを証明するように、程なくして王が意識を取り戻し、医師が呼ばれて部屋の中が騒がしくなると、王の回復を確認してからシグレたちはその場を離れた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる