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解呪②
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「なに、心配するな。遅くても今夜までに方をつける」
「じゃあ黒幕の目星がついたのか」
「ああ。だからこそ俺のそばを離れるなよ、シグレ」
打って変わってひどく真剣な顔でシグレを見上げると、ビャクは当然のように唇を求めて深くキスを貪った。
その後、部屋に用意させた早めの朝食を済ませると、支度を済ませてから、ビャクに付き添う形でシグレは王が待つ王城でも警備が厳重な区画に移動した。
途中、ビャクが立ち寄った部屋で、シグレはヤスナから連れてこられたという蛇蝎呪術の回生師と初めて顔を合わせた。
想像とは違い、回生師と呼ばれる人物はどうやら老婆らしく、声は低く嗄れているが、男性のものではなく凛とした響きがある。
老婆は挨拶を交わしたシグレに僅かに口元を緩めた気がしたが、王にかけられた術の解呪についての話をビャクとし始めたので、シグレは老婆に笑みを浮かべられた理由を聞けなかった。
そしてそのまま王の私室に向かうと、厳重な警備の中、ビャクはシグレに耳打ちをする。
「使うかどうかは分からんが、術師には警戒してくれ。ヤスナの古い言葉を扱うようで、稀に意味合いが分からないと言葉を使う時がある」
「それって」
「医師の見立てで回復傾向にあるとは聞いているが、念のためだ」
「分かった」
小声で二、三やり取りすると、ビャクは腰元からサーベルを抜いて回生師の老婆の首にそれをあてがった。
しかし老婆はそれに動じる様子もなく、寝台で深い眠りにつく王に両手をかざして、ぶつぶつと文言を唱え始めた。
すると突然王の体の周りに呪詛のような文字が浮かび上がり、老婆が一言、また一言と文言を呟く度に、剥がれ落ちるように呪詛らしき文字が消えていく。
これが解呪の作業なら、この老婆が正しく回生師だとしても、確かに簡単に禁呪を解くとは出来ないことをシグレは理解した。
そして気が遠くなるほど長い時間を掛けて、体を蝕む呪縛を剥がす作業が続く中、シグレはビャクに言われた通り、老婆の言葉に耳を傾けている。
確かに老婆はヤスナの昔言葉を時折使うようだが、そもそもシグレに蛇蝎呪術の知識はないし、言葉を聞き取っただけでは、老婆が悪いことを目論んでいるとは考えにくい。
そして王を蝕む呪縛の一層がようやく剥がれ落ち、ビャクの構えたサーベルが僅かに傾きカチャリと金属音が響き、老婆の額から滲んだ汗が頬を伝ってサーベルにぽたりと落ちた。
「回生師、あとどれくらいだ」
「すぐにとはいきませぬ。そこでお願いがあるのです」
老婆は落ち窪んだ 眼を開いてビャクを見た。その姿はお願いをするというよりも、凄んでいるようにも見える。
「お願いか。それは解呪に関係があるのだな」
ビャクが改めてサーベルを構えると、老婆は静かに頷き、今度はシグレを見つめて頼があると続けた。
「そこのお方に頼みがあるのです。読経してはくださらんか」
「読経って、経典を声に出して読めってことか……デスか」
ビャクの視線を感じて僅かに言い直したが、老婆はシグレの反応がおかしかったのか、肩を揺らして笑いを堪えている。
「おい、回生師。読経とはどういうことだ」
ビャクはサーベルを構えたまま、シグレのせいで緊張をとけた様子の老婆に問い掛ける。
確かにヤスナは唯一神ナザートを信仰し、慶事や弔事には経典の言葉を祝詞として神に祈ることが多く、神職に就いていない者でも、経典があれば読経することは容易い。
「このままでは、こちらの御仁の体力が保ちません。読経はいわばブーストです。解呪の効率と速度を底上げして対処を急ぐということです」
「じゃあ黒幕の目星がついたのか」
「ああ。だからこそ俺のそばを離れるなよ、シグレ」
打って変わってひどく真剣な顔でシグレを見上げると、ビャクは当然のように唇を求めて深くキスを貪った。
その後、部屋に用意させた早めの朝食を済ませると、支度を済ませてから、ビャクに付き添う形でシグレは王が待つ王城でも警備が厳重な区画に移動した。
途中、ビャクが立ち寄った部屋で、シグレはヤスナから連れてこられたという蛇蝎呪術の回生師と初めて顔を合わせた。
想像とは違い、回生師と呼ばれる人物はどうやら老婆らしく、声は低く嗄れているが、男性のものではなく凛とした響きがある。
老婆は挨拶を交わしたシグレに僅かに口元を緩めた気がしたが、王にかけられた術の解呪についての話をビャクとし始めたので、シグレは老婆に笑みを浮かべられた理由を聞けなかった。
そしてそのまま王の私室に向かうと、厳重な警備の中、ビャクはシグレに耳打ちをする。
「使うかどうかは分からんが、術師には警戒してくれ。ヤスナの古い言葉を扱うようで、稀に意味合いが分からないと言葉を使う時がある」
「それって」
「医師の見立てで回復傾向にあるとは聞いているが、念のためだ」
「分かった」
小声で二、三やり取りすると、ビャクは腰元からサーベルを抜いて回生師の老婆の首にそれをあてがった。
しかし老婆はそれに動じる様子もなく、寝台で深い眠りにつく王に両手をかざして、ぶつぶつと文言を唱え始めた。
すると突然王の体の周りに呪詛のような文字が浮かび上がり、老婆が一言、また一言と文言を呟く度に、剥がれ落ちるように呪詛らしき文字が消えていく。
これが解呪の作業なら、この老婆が正しく回生師だとしても、確かに簡単に禁呪を解くとは出来ないことをシグレは理解した。
そして気が遠くなるほど長い時間を掛けて、体を蝕む呪縛を剥がす作業が続く中、シグレはビャクに言われた通り、老婆の言葉に耳を傾けている。
確かに老婆はヤスナの昔言葉を時折使うようだが、そもそもシグレに蛇蝎呪術の知識はないし、言葉を聞き取っただけでは、老婆が悪いことを目論んでいるとは考えにくい。
そして王を蝕む呪縛の一層がようやく剥がれ落ち、ビャクの構えたサーベルが僅かに傾きカチャリと金属音が響き、老婆の額から滲んだ汗が頬を伝ってサーベルにぽたりと落ちた。
「回生師、あとどれくらいだ」
「すぐにとはいきませぬ。そこでお願いがあるのです」
老婆は落ち窪んだ 眼を開いてビャクを見た。その姿はお願いをするというよりも、凄んでいるようにも見える。
「お願いか。それは解呪に関係があるのだな」
ビャクが改めてサーベルを構えると、老婆は静かに頷き、今度はシグレを見つめて頼があると続けた。
「そこのお方に頼みがあるのです。読経してはくださらんか」
「読経って、経典を声に出して読めってことか……デスか」
ビャクの視線を感じて僅かに言い直したが、老婆はシグレの反応がおかしかったのか、肩を揺らして笑いを堪えている。
「おい、回生師。読経とはどういうことだ」
ビャクはサーベルを構えたまま、シグレのせいで緊張をとけた様子の老婆に問い掛ける。
確かにヤスナは唯一神ナザートを信仰し、慶事や弔事には経典の言葉を祝詞として神に祈ることが多く、神職に就いていない者でも、経典があれば読経することは容易い。
「このままでは、こちらの御仁の体力が保ちません。読経はいわばブーストです。解呪の効率と速度を底上げして対処を急ぐということです」
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