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ヴィネージュ②
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その首から下げたプレートを、外務局の入り口で提示すると、ビャクと共にシグレは内部への通行を許可されて大きな門を潜った。
「物々しいな」
「王位継承問題で、今は内部の混乱もある。厳重な警戒態勢を敷くのは至極当然だ」
「なるほどね。それでも俺みたいな新参者が入り込めるのは、ブラン殿のおかげってことか」
「そうなるな。感謝しろよ婿殿」
「その呼び方やめろ」
大理石に目の覚めるような青い絨毯が敷かれた廊下を歩き進むと、大きな鉄扉の前で再び身分証明のプレートを提示する。
そこで照会が終わると、特殊な鍵を用いて二人掛かりで鉄扉が開場され、地下へと降りる階段が現れた。
シグレもさすがに空気を読み、固く口を結んでビャクの後ろをついていくと、ひんやりとした金属製の壁に囲まれた通路を抜けた先で、また警備兵が管理する鉄扉を抜ける。
「ブラン特務官、お待ちしておりました」
中で出迎えたのは白髪が混じった隻眼の男で、シグレの存在は承知しているのか、僅かに視線を移しながらもビャクに敬礼してみせる。
「スパードか、出迎えご苦労。早速情報を整理して、対応に当たりたい。回生師の用意した香の効き目はどうだ」
ビャクは挨拶もそこそこにその場を離れて足を進めると、スパードはシグレと反対側に控えてビャクのあとをおいながら会話を続ける。
「重篤な状態からの回復兆候が見られます。こちらが現状をまとめた資料です」
「ふむ。やはり蛇蝎呪術との関連性は濃厚だな」
スパードから手渡された資料にざっと目を通すと、ビャクは黙り込んで控えるシグレに視線を移し、緊張してるのかと笑顔を見せる。
「やはりまだ疲れが取れてないか。この先の部屋が私の執務室だ。そこで少し休むと良い」
「……ご配慮ありがとうございます」
シグレは教わったばかりの敬礼をしながらそう答えると、スパードと打ち合わせをするというビャクとはその場で別れる形でビャクの執務室に入った。
簡素な造りながら、意匠が凝らされた職人の丁寧な仕事が窺える美しい仕様の応接家具、壁一面を覆い尽くす書棚と部屋を照らす壁掛け式のランプ。
それらのいずれもヤスナで育ったシグレには目新しく、シグレは誰もいない部屋を一通り見て回る。
ビャクはここ数年ヤスナに居たのだから、この部屋にビャクの気配を感じないのは当然なのかも知れないが、〈マグノリア〉のあの部屋の方がビャクらしいとシグレは思ってしまう。
「なんだってこんなことになったのかな」
応接用のソファーに腰を下ろすと、シグレは冷淡な一目千両に意趣返ししようと、〈マグノリア〉に五千万ゼラを持参した日のことを思い出す。
それが切っ掛けでビャクの好奇心を刺激してしまい、五千万ゼラも払ったのに、奪うはずが失うはずのない純潔を逆に奪われて、いつの間にか身請けすることが決まったのだ。
「あいつ本当、なに考えてんだろうな」
シグレは苦笑すると、僅かに緊張がほぐれたのか大きな欠伸をすると、そのまま背もたれに体を預ける。
このところ毎晩と言わず、起きている間はずっとあの体力オバケのビャクに、身体を好きなように翻弄され続けてきた。
「ヤスナ入りしてからは、ずっと禁欲してたなんて都合の良いこと言ってたけど、あいつが我慢出来るとは思えないんだよな」
呟くだけでビャクの艶かしい手つきや視線を思い出してしまい、シグレは誰もいない部屋で大きな咳払いをして居住まいを正す。
けれど待てどもビャクが執務室に戻ってくる気配はなく、いよいよ疲労の溜まったシグレは、無防備にもそのままソファーでうとうとと寝入ってしまった。
「物々しいな」
「王位継承問題で、今は内部の混乱もある。厳重な警戒態勢を敷くのは至極当然だ」
「なるほどね。それでも俺みたいな新参者が入り込めるのは、ブラン殿のおかげってことか」
「そうなるな。感謝しろよ婿殿」
「その呼び方やめろ」
大理石に目の覚めるような青い絨毯が敷かれた廊下を歩き進むと、大きな鉄扉の前で再び身分証明のプレートを提示する。
そこで照会が終わると、特殊な鍵を用いて二人掛かりで鉄扉が開場され、地下へと降りる階段が現れた。
シグレもさすがに空気を読み、固く口を結んでビャクの後ろをついていくと、ひんやりとした金属製の壁に囲まれた通路を抜けた先で、また警備兵が管理する鉄扉を抜ける。
「ブラン特務官、お待ちしておりました」
中で出迎えたのは白髪が混じった隻眼の男で、シグレの存在は承知しているのか、僅かに視線を移しながらもビャクに敬礼してみせる。
「スパードか、出迎えご苦労。早速情報を整理して、対応に当たりたい。回生師の用意した香の効き目はどうだ」
ビャクは挨拶もそこそこにその場を離れて足を進めると、スパードはシグレと反対側に控えてビャクのあとをおいながら会話を続ける。
「重篤な状態からの回復兆候が見られます。こちらが現状をまとめた資料です」
「ふむ。やはり蛇蝎呪術との関連性は濃厚だな」
スパードから手渡された資料にざっと目を通すと、ビャクは黙り込んで控えるシグレに視線を移し、緊張してるのかと笑顔を見せる。
「やはりまだ疲れが取れてないか。この先の部屋が私の執務室だ。そこで少し休むと良い」
「……ご配慮ありがとうございます」
シグレは教わったばかりの敬礼をしながらそう答えると、スパードと打ち合わせをするというビャクとはその場で別れる形でビャクの執務室に入った。
簡素な造りながら、意匠が凝らされた職人の丁寧な仕事が窺える美しい仕様の応接家具、壁一面を覆い尽くす書棚と部屋を照らす壁掛け式のランプ。
それらのいずれもヤスナで育ったシグレには目新しく、シグレは誰もいない部屋を一通り見て回る。
ビャクはここ数年ヤスナに居たのだから、この部屋にビャクの気配を感じないのは当然なのかも知れないが、〈マグノリア〉のあの部屋の方がビャクらしいとシグレは思ってしまう。
「なんだってこんなことになったのかな」
応接用のソファーに腰を下ろすと、シグレは冷淡な一目千両に意趣返ししようと、〈マグノリア〉に五千万ゼラを持参した日のことを思い出す。
それが切っ掛けでビャクの好奇心を刺激してしまい、五千万ゼラも払ったのに、奪うはずが失うはずのない純潔を逆に奪われて、いつの間にか身請けすることが決まったのだ。
「あいつ本当、なに考えてんだろうな」
シグレは苦笑すると、僅かに緊張がほぐれたのか大きな欠伸をすると、そのまま背もたれに体を預ける。
このところ毎晩と言わず、起きている間はずっとあの体力オバケのビャクに、身体を好きなように翻弄され続けてきた。
「ヤスナ入りしてからは、ずっと禁欲してたなんて都合の良いこと言ってたけど、あいつが我慢出来るとは思えないんだよな」
呟くだけでビャクの艶かしい手つきや視線を思い出してしまい、シグレは誰もいない部屋で大きな咳払いをして居住まいを正す。
けれど待てどもビャクが執務室に戻ってくる気配はなく、いよいよ疲労の溜まったシグレは、無防備にもそのままソファーでうとうとと寝入ってしまった。
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