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西の大陸③
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そして不意に、ビャクが長い間ヴィネージュを離れてヤスナで暮らしていたことを思い出し、それがたとえ任務だったとはいえ、だからこそ尚のこと過酷だったのではないかと思い至る。
「ブラン・グエストル……か」
シグレの知るのらりくらりとしたビャクとは別の顔。
戦場を駆け、次々と武勲を上げて若くして将軍にまで上り詰めたということは、戦争を知らず平和に暮らしてきたシグレにとっては想像もつかない世界の話だ。
しかもそんな活躍をやっかまれて、禁術を使って体の自由を奪われ今に至ると言うのだから、ビャクが歩んできた道のりを思うと、今更ながらゾッとする。
「もう少し、優しくしてやった方が良いのかな」
誰もいない部屋でぼそりと呟くと、シグレはそのままソファーに寝そべって手摺りに足を投げ出し、クッションの上に置いた頭の後ろで腕を組む。
そしてそのまま、うとうとしているうちに寝落ちしてしまっていたのか、辺りが暗くなった頃にビャクのキスで目が覚めた。
「ん……ビャク? なんだ、話し合いはもう良いのか」
「ああ。少しはゆっくり出来たか、シグレ」
「どうかな。寝入るつもりはなかったけど、疲れが溜まってたのかもな」
シグレはゆっくりと起き上がり、大きなあくびをすると、寝るには狭すぎると苦笑して首や肩を回した。
「そうか。疲れているところ悪いんだが、 飛翔艇の手配が整った」
「ヒショウテイ? なんだそれ」
「空飛ぶ船だ。陸路ではヴィネージュまで、まだまだ移動時間が掛かるからな。空路で一気に向かうことになった」
「へえ。話には聞いたことがあるけど、空飛ぶ船って本当にあるんだな。で? もう出るのか」
「ああ。悪いがすぐに出る」
「まあそもそも、船旅で半月も経ってるんだもんな」
「すまんなシグレ」
「そう思うなら、さっさと片付けてヤスナに帰らせてくれ」
そう言ってから、シグレは迂闊だったと気まずい顔をするが、ビャクは気にする様子もなく笑っている。
シグレが思うほど国に、ビャクは家族に愛着や執着がないのだろうか。
「さあ、行こうか」
だからビャクが差し出した手を取って、シグレはそのままビャクを抱き締める。
「どうした婿殿。睦み合う時間はないぞ」
「うるせえよ。たまには好きにさせろ」
「よく分からんが、飛翔艇でたっぷり可愛がってやろう」
ビャクはクスッと笑ってシグレの臀部をしっかり掴み、双丘の狭間に指を滑らせる。
「おい馬鹿やめろ。さっさと行くぞ」
「なんだ。誘っておいて焦らすのか」
「時間ねえんだろ」
「船に乗れば時間はたっぷりある」
「……もう良いよ、行こうぜ」
項垂れたように溜め息を吐いて、シグレは部屋のドアに手を掛ける。
「すまんなシグレ」
「ん?」
「いや、行こう」
ビャクはシグレの頬を撫でると軽くキスをして、それからなにもなかったように部屋を出た。
「ブラン・グエストル……か」
シグレの知るのらりくらりとしたビャクとは別の顔。
戦場を駆け、次々と武勲を上げて若くして将軍にまで上り詰めたということは、戦争を知らず平和に暮らしてきたシグレにとっては想像もつかない世界の話だ。
しかもそんな活躍をやっかまれて、禁術を使って体の自由を奪われ今に至ると言うのだから、ビャクが歩んできた道のりを思うと、今更ながらゾッとする。
「もう少し、優しくしてやった方が良いのかな」
誰もいない部屋でぼそりと呟くと、シグレはそのままソファーに寝そべって手摺りに足を投げ出し、クッションの上に置いた頭の後ろで腕を組む。
そしてそのまま、うとうとしているうちに寝落ちしてしまっていたのか、辺りが暗くなった頃にビャクのキスで目が覚めた。
「ん……ビャク? なんだ、話し合いはもう良いのか」
「ああ。少しはゆっくり出来たか、シグレ」
「どうかな。寝入るつもりはなかったけど、疲れが溜まってたのかもな」
シグレはゆっくりと起き上がり、大きなあくびをすると、寝るには狭すぎると苦笑して首や肩を回した。
「そうか。疲れているところ悪いんだが、 飛翔艇の手配が整った」
「ヒショウテイ? なんだそれ」
「空飛ぶ船だ。陸路ではヴィネージュまで、まだまだ移動時間が掛かるからな。空路で一気に向かうことになった」
「へえ。話には聞いたことがあるけど、空飛ぶ船って本当にあるんだな。で? もう出るのか」
「ああ。悪いがすぐに出る」
「まあそもそも、船旅で半月も経ってるんだもんな」
「すまんなシグレ」
「そう思うなら、さっさと片付けてヤスナに帰らせてくれ」
そう言ってから、シグレは迂闊だったと気まずい顔をするが、ビャクは気にする様子もなく笑っている。
シグレが思うほど国に、ビャクは家族に愛着や執着がないのだろうか。
「さあ、行こうか」
だからビャクが差し出した手を取って、シグレはそのままビャクを抱き締める。
「どうした婿殿。睦み合う時間はないぞ」
「うるせえよ。たまには好きにさせろ」
「よく分からんが、飛翔艇でたっぷり可愛がってやろう」
ビャクはクスッと笑ってシグレの臀部をしっかり掴み、双丘の狭間に指を滑らせる。
「おい馬鹿やめろ。さっさと行くぞ」
「なんだ。誘っておいて焦らすのか」
「時間ねえんだろ」
「船に乗れば時間はたっぷりある」
「……もう良いよ、行こうぜ」
項垂れたように溜め息を吐いて、シグレは部屋のドアに手を掛ける。
「すまんなシグレ」
「ん?」
「いや、行こう」
ビャクはシグレの頬を撫でると軽くキスをして、それからなにもなかったように部屋を出た。
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