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西の大陸②
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「ヴィネージュの神は寛容だ、同性婚だろうと差別はない。それに言語に関しても、長く帝国文化が根付いたヤスナは公用語を使っているからな。多少の訛りはあるが問題ない」
「論破すんなよ……ダメな理由なんかあってくれよ」
シグレは大きく溜め息を吐き出して、頭を抱えて髪を掻きむしる。
「絶望した顔をするな。貴様はいちいち反応が面白いヤツだな」
「お前が無神経すぎるんだろ。だいたいビャクの親父さん、ヴィネージュの王弟ってことだろ?」
「なに。ただの公爵に過ぎん」
「ヤスナに貴族階級はないけど、俺でも公爵が偉いことくらいは知ってんだよ。しかも王族と血が繋がってるとか、そんな複雑な家庭環境だって知ってたら嫁にもらってねえよ」
「嫁とは認めてくれてるようでなによりだ」
「うるせえ。押しかけ女房のクセに」
「そんな俺が好きで仕方ないだろう?」
「……本当にお前は、ああ言えばこう言う」
消沈して肩を落とし、頭を抱えたシグレの隣に腰掛けると、ビャクは思ったよりも似合っていると言いながら、着崩れたシグレの服を整える。
「色々と考えを巡らせているようだが、俺はもう将軍ではないし、表向きは外務局員で諸外国のと外交を任された立場だ」
「そうなのか」
「考えてもみろ。諜報機関が表立って諜報活動していると名乗りを上げると思うか」
「そりゃそうだな」
へらっと笑うシグレに、ビャクはチュッとリップ音を立ててキスをすると、あまり無防備な笑顔はやめるようにと揶揄うように呟いた。
そしてハラール港で船を降り、ドゥリッサの首都カラムまで移動すると、ヴィネージュ大使館が管理する宿泊施設で、ビャクはヴィネージュ国内の現状を確認するためにシグレを部屋に残した。
「楽にしてろって言われてもな」
要人をもてなすための宿泊施設は、部屋の中にいかにも貴重な品であろう壺や絵画が飾られ、使うのも躊躇われるような高級感の漂う調度品が揃えられている。
シグレは着慣れない服のボタンをいくつか外し、襟元をくつろげると、豪奢なソファーに座ってキラキラと輝くシャンデリアを仰ぎ見る。
「ヤスナですら行ったことないところが山ほどあるってのに、西の大陸だもんな」
まさかこんな形で外国を訪れることになるとは思わず、シグレは早くもヤスナで自分の店を切り盛りしてるであろうハルやダキのことを思い浮かべた。
「店を任せるのは問題ないとしても、兄貴が訪ねてきたらどう言い訳するんだろうな」
母の体調はだいぶ良くなったと聞いているが、それでも、いつ帰れるか分からない旅に出ることになって、挨拶すら出来ずに国を出てきたことがシグレには気掛かりだった。
祖父や父のことがあり、息子たちが遺産のせいで諍いを始め、心を病む形で体調を崩した母に関しては、安心させてやりたい気持ちが強い。
そのため、酒の仕入れと称してこまめに母の顔を見に行っていたのだが、シグレが突然顔を出さなくなったのでは、あの母のことだからまた体調を崩しかねない。
「ビャクが手を打ってはいるんだろうけど」
大きな溜め息を吐き出して前屈みに肘をつくと、両手で顔を覆ってまた溜め息を吐き出す。
静かな部屋に振り子時計の動く音だけが響いて、シグレはしばらくの間、身動き一つ取らずに頭を抱えてヤスナに残してきたもののことを考えた。
「論破すんなよ……ダメな理由なんかあってくれよ」
シグレは大きく溜め息を吐き出して、頭を抱えて髪を掻きむしる。
「絶望した顔をするな。貴様はいちいち反応が面白いヤツだな」
「お前が無神経すぎるんだろ。だいたいビャクの親父さん、ヴィネージュの王弟ってことだろ?」
「なに。ただの公爵に過ぎん」
「ヤスナに貴族階級はないけど、俺でも公爵が偉いことくらいは知ってんだよ。しかも王族と血が繋がってるとか、そんな複雑な家庭環境だって知ってたら嫁にもらってねえよ」
「嫁とは認めてくれてるようでなによりだ」
「うるせえ。押しかけ女房のクセに」
「そんな俺が好きで仕方ないだろう?」
「……本当にお前は、ああ言えばこう言う」
消沈して肩を落とし、頭を抱えたシグレの隣に腰掛けると、ビャクは思ったよりも似合っていると言いながら、着崩れたシグレの服を整える。
「色々と考えを巡らせているようだが、俺はもう将軍ではないし、表向きは外務局員で諸外国のと外交を任された立場だ」
「そうなのか」
「考えてもみろ。諜報機関が表立って諜報活動していると名乗りを上げると思うか」
「そりゃそうだな」
へらっと笑うシグレに、ビャクはチュッとリップ音を立ててキスをすると、あまり無防備な笑顔はやめるようにと揶揄うように呟いた。
そしてハラール港で船を降り、ドゥリッサの首都カラムまで移動すると、ヴィネージュ大使館が管理する宿泊施設で、ビャクはヴィネージュ国内の現状を確認するためにシグレを部屋に残した。
「楽にしてろって言われてもな」
要人をもてなすための宿泊施設は、部屋の中にいかにも貴重な品であろう壺や絵画が飾られ、使うのも躊躇われるような高級感の漂う調度品が揃えられている。
シグレは着慣れない服のボタンをいくつか外し、襟元をくつろげると、豪奢なソファーに座ってキラキラと輝くシャンデリアを仰ぎ見る。
「ヤスナですら行ったことないところが山ほどあるってのに、西の大陸だもんな」
まさかこんな形で外国を訪れることになるとは思わず、シグレは早くもヤスナで自分の店を切り盛りしてるであろうハルやダキのことを思い浮かべた。
「店を任せるのは問題ないとしても、兄貴が訪ねてきたらどう言い訳するんだろうな」
母の体調はだいぶ良くなったと聞いているが、それでも、いつ帰れるか分からない旅に出ることになって、挨拶すら出来ずに国を出てきたことがシグレには気掛かりだった。
祖父や父のことがあり、息子たちが遺産のせいで諍いを始め、心を病む形で体調を崩した母に関しては、安心させてやりたい気持ちが強い。
そのため、酒の仕入れと称してこまめに母の顔を見に行っていたのだが、シグレが突然顔を出さなくなったのでは、あの母のことだからまた体調を崩しかねない。
「ビャクが手を打ってはいるんだろうけど」
大きな溜め息を吐き出して前屈みに肘をつくと、両手で顔を覆ってまた溜め息を吐き出す。
静かな部屋に振り子時計の動く音だけが響いて、シグレはしばらくの間、身動き一つ取らずに頭を抱えてヤスナに残してきたもののことを考えた。
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