超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-

文字の大きさ
上 下
26 / 49

急転直下①

しおりを挟む
 ビャクがシグレの家に居着いて早くも二十日足らず。
 ありがたいことに店には常連客もついて、酒場の滑り出しは好調だ。
 ビャクがシグレに聞かせた一目千両の話によれば、妻は人目に晒されたことを恨んだのか、昔話は、亡くなった後も金を払わなければ会ってはやらないと皮肉の効いた終わり方だった。
 だが現代の一目千両ことビャクに関しては、先ほどから常連客と楽しげに会話をして、次々と注文を取ってきては、気怠そうにカウンターに突っ伏してみたりと、自由に過ごしている。
 西の大陸の中央に位置する大国ヴィネージュ。
 そこからヤスナにやって来たのは、帝国の動向を探るためだと言ってはいるが、この姿を見る限り、それが真実なのかすらシグレには分からない。
「どうした婿殿。手が止まってるぞ」
「うるせえ。お前も手伝えよ」
「なにが気に食わん。ちゃんと給仕をしてるだろうに」
「お前が張り切って注文取るから、俺には休む暇がないんだよ!」
 平鍋を振るい、注文の入った肉料理を拵えると、シグレはさっさとそれを皿に盛り付け、溜まっている注文の入った料理を次々と作っていく。
 ビャクはそんなシグレを横目に見ながら、出来上がった料理を運ぶと、飲み物のおかわりを頼まれてシグレとは別に客の対応にあたる。
 そうしてこの二十日ほど、アザミが送り込んでくるヴィネージュの息が掛かった人物が客に紛れてビャクに情報を渡しているらしいが、シグレにはどの客だか見当もつかない。
「旦那! お手伝いに来ましたよ」
「おお。ハル、悪いけど調理場を手伝ってくれ。ダキは客の相手を頼む」
「はーい」
「承知しました」
 賑わう店をなんとか切り盛りできるのは、こうしてハルとダキが様子を見て手伝いに来てくれるからでもある。
 この二人は店に来るアザミの配下の者とは別行動で、帝国の情報を集めて回ってるらしいが、ビャクの護衛という立場でもある。
 髪を切って隻眼にして見てくれを誤魔化しているとはいえ、ビャクの容姿は確かにヤスナでは目立つし人目を引く。
 ましてやこの酒場もちょっとは名の知れた店になってしまったので、二人の護衛が機能していないと、ビャクに危害が及ぶ可能性があるというのだから、店に置かざるを得ない。
「厚切り肉の生姜焼き、二皿分上がったぞ」
「こっちも、だし巻き玉子と味醂干しの炙りでーす」
 シグレはハルと一緒に鍋を振るう。
 そう広くはない目の行き届く広さしかない酒場だが、商業組合で買い揃えた調理法で作るシグレの肉料理が好評で、わざわざ食べに来たという客も後を絶たない。
 ありがたいことだが、シグレとしては実家の〈龍海酒造〉の酒だけ振る舞って、のんべんだらりと適当に商いするつもりだったのに、大幅に計算が狂ってしまった。
「鰤と大根の煮付けの注文が入ったぞ」
「やっと魚かよ!」
 ビャクに噛み付くように叫ぶと、これも毎度のやり取りとして、客がドッと笑う声が店内に響く。
 客の中には本当にシグレとビャクが世帯を構えてると信じ切ってる者も多い。だからこんなやり取りを、客の方も楽しげに笑って受け止めているらしい。
 いつだったか、痴話喧嘩ならぬ 夫婦めおと漫才だと言われてしまった時は、さすがにもう言い返す気力すら失ってしまった。
 そうして日付が変わる時間まで賑やかな酒場を切り盛りすると、最後の客を送り出して店を閉める。
「ああ、疲れた」
 シグレはカウンターに突っ伏して、もう限界だと大きな溜め息を吐く。
 毎日想定以上に押し寄せる客足の途絶えない状況は、店をやる上でありがたいことこの上ないのだが、当初の想像とは違う店の盛況ぶりには、体力的にも精神的にも限界がある。
「貴様は毎日それだな」
 シグレの隣に座り、売り上げを確認して帳簿をつけるビャクの姿もそれなりに板について来た。
「うるせえ。お前も腕パンパンになるまで鍋振ったら分かるよ」
「ならば愛想良く客の相手が出来るのか、シグレ」
「ホントああ言えばこう言うよな、お前」
「正論を言ったまでだ」
「口うるさい嫁だな。もっと労われよ」
「ほう。ならば寝所に行くか?」
「……お前に期待するのが間違いなんだよな」
 いつもの調子でシグレはビャクをいなすと、首や肩を回しながら椅子がら立ち上がり、片付けに精を出すハルとダキに一声掛けてから先に自宅に帰る。
 北西部の連合国軍やヴィネージュの話題など、ヤスナの民であるシグレには興味のないことだし、戦争の話など物騒で聞いていられない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)
BL
わけありイケメンバーテンダー×接触恐怖症の公務員。居場所探し系です。 【あらすじ】  軽い接触恐怖症がある比野和希(ひびのかずき)は、ある日、不良少年に襲われて倒れていたところを、通りかかったバーテンダー沢村慎一(さわむらしんいち)に助けられる。彼の店に連れていかれ、出された酒に酔って眠り込んでしまったことから、和希と慎一との間に不思議な縁が生まれ……。  慎一になら触られても怖くない。酒でもなんでも、少しずつ慣れていけばいいのだと言われ、ゆっくりと距離を縮めてゆく二人。  小さな縁をきっかけに、自分の居場所に出会うお話です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...