超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-

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シグレ、嫁を受け入れる③

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「そうか? 物欲しそうな顔をしているぞ」
 ビャクは不意にシグレを抱き寄せると、乱暴に髪を掴んで逃げられないように顔を力ずくで固定して、噛み付くようなキスでシグレの反論を封じ込める。
「んっ」
 チリッとした痛みが走って、それがビャクに噛まれた唇から血が滲んでいるのだとシグレが悟ると、柔らかい舌がゆっくりと下唇を舐り、鉄の匂いが二人の口の中に広がっていく。
「やめろ、って。まだちゃんと店閉めてねえんだぞ」
 どうにかしてビャクを突き放すと、シグレは手の甲で口元を拭って溜め息を吐く。
「ならさっさと家に帰ろう、シグレ」
「馬鹿か。明日の仕込みがまだ終わってねえんだよ」
「まだ俺を待たせるのか」
「待たせるって、お前なあ。俺は成り行きでお前を引き取ることになっただけだ。しかも客を呼び込んだのはお前だろビャク」
「ふむ。なら俺は酒を飲んで待たせてもらう」
「使えねえ嫁だな」
 呆れを通り越して苦笑すると、シグレは立ち上がってカウンターの内側に入り、時間が掛かる煮込み料理の仕込みを始める。
 それから酒場で出すための料理の仕込みをしながら、ビャクとたわいない会話をして、なにか変わり種にならないかと、大陸の料理はどんな物なのかと話題は料理に移る。
 そうこうしてるうちに翌日のための支度が整って、シグレは火元を確認すると、いよいよ店を引き上げて家に帰るぞとビャクの手元からグラスを取り上げる。
「給金は払えないから今日はこの酒も奢ってやるけど、店の商品なんだから今度からはお前も金払えよ」
「身体で払ってやる」
「お前ねえ、そう言う悪ふざけはもう良いから」
「至って本気だ。さっきから貴様をどう善がらせてやるかばかり考えてるぞ」
「ほざいてろ」
 軽口を叩くビャクの頭を叩くと、最後の洗い物を済ませて店を戸締りし、二人で店を出て二階の自宅に向かう。
 家にはハルとダキが居るはずだが、やたらと静かなので、まさかまだ寝入っているのだろうか。
「なあビャク」
「なんだ」
「ハルとダキも大陸の出身か? 見た目はそこまでヤスナの奴らと変わらないが」
「あいつらはヤスナに潜入していた者の子孫と言ったところだな」
「物騒な話だな」
「まあ、帝国本土にまでは潜入が不可能で、北西からヤスナを拠点に潜り込んでる奴は数え切れない」
「……この先、マジで戦争になるのか」
「それはヤスナが戦場になるかどうかということか」
 戦争ならあちこちで小競り合いが起こっているぞと、ビャクは珍しく苦い顔をする。
 シグレは生まれた時から平和な環境で育ってきた。
 戦争がどんなものか、知識として認識していても、実際に命に関わる状況下で生きているビャクたちとは意識が違うのだろう。
 殺さなければ殺される。単純な理屈に見えて、それは人としての良心や常識というものを試されるもののような気がしてならない。
「安心しろ。ヤスナは小国であっても帝国の統治下にはない稀有な国だ。それに独自の経路で様々な国との国交を持つ。そこを戦場にするのは帝国にとっても愚策でしかない」
 僅かに震えるシグレの肩に手を添えると、そうはさせないから安心しろとビャクは繰り返した。
「あれ? ハルとダキが居ない」
「いや、呼べば出てくるはずだ」
「そうなのか?」
 シグレが驚いてビャクを見つめると、風もないのに窓が開いてハルがその場に現れた。
「酒場のお仕事お疲れ様でした」
「ハル!」
「いやあ、ご飯が美味しくてついつい寝入ってしまいました。でもやるべきことは片付けてきましたから」
 そう言ってハルはビャクに書簡を手渡すと、この後は見張りに徹底するのでごゆっくりと言い残し、部屋から姿を消した。
 シグレが呆気に取られる中、ビャクはハルから受け取った書簡に目を通して僅かに眉を動かしたが、すぐにまた飄々とした顔をして寝台に腰掛けて足を組む。
「さて婿殿」
「なんだよ」
「奴らも気を回してくれたことだし、初夜と行こうか」
「はあ?」
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