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シグレ、嫁を受け入れる①
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お腹が膨れて緊張が抜けたのか、ビャクの警護を任されているというのに、ハルとダキはそのまま床で雑魚寝している。
「大した警護だな」
「貴様が美味い飯を作るからだ」
そう答えるビャクも、満腹だとお腹をさすりながら寝台に寝そべって天井を見上げている。
「さて。俺は店を開けるつもりなんだが、お前たちはこのままここでのんびりしてるか」
「なんだ。客は来ないんじゃなかったのか」
「まあ来ねえだろうけど、近くの傭兵組合やら商業組合に挨拶回りに行きがてら、店の宣伝をしてくるよ」
「なら俺も顔を出してやろう」
「はあ?」
「なにも客は男だけとは限らんだろう。俺も今日からここで世話になる身だ。貴様を献身的に支えてやろうではないか」
「その言い様が献身的じゃねえんだよ、お前の場合は」
シグレは頭を抱えるが、ビャクはそれを面白がって起き上がるなりシグレの肩を抱き、その分は当然返してもらうつもりだと意味深に呟く。
「もちろん身体で払ってもらうぞ」
「だったら献身じゃねえだろ。見返り要求するんじゃねえよ。つか抱かれねえし!」
「クッ。あんなに善がったクセに可愛らしい反応をする奴だ」
「うるせえ」
口喧嘩をしながら、それでも眠りこけている二人に配慮して家を出ると、シグレはビャクを連れて店の近くにある組合に顔を出して、新規出店した酒場の宣伝活動に勤しんだ。
もちろんビャクも、シグレの相手をしている時が嘘のように、にこやかな顔で老若男女問わずに声を掛けてその場に留めると、シグレの酒場の宣伝に力を注ぐ。
「随分と美丈夫だが、旦那の連れ合いかい?」
商業組合の組合長と挨拶をしていると、人たらしのビャクがあっちこっちで愛想を振り撒いている様子に、組合長が可笑しそうに口元を緩める。
「連れ合いって……ただの居候だよ」
「へえ。まあそういうことにしといてやるよ。で、酒場だと言うが、酒はどこから仕入れてるんだい。うちの組合なら安値の取引もあるが」
「ああ悪い。俺こう見えて〈龍海酒造〉と縁があってね。酒に関しては一貫してあそこからって決めちまってんのよ」
「ほう。あの〈龍海酒造〉と取引があるとは、旦那は随分とやり手なんだね。ツマミや料理なんかは出すのかい」
「まあ、追い追いね。料理人を雇うにしても、店が軌道に乗らないと決められないからな。その辺りと仕入れで良いところがあったら紹介してもらえると助かる」
「なら適当に見繕っておくから、しばらくしたらまた顔を出してくれ。馴染みには酒場の宣伝をしといてやるよ」
「悪いな、助かるよ」
宣伝料だと言って謝礼と〈龍海酒造〉の酒を渡すと、組合長はご機嫌な表情でそれを受け取った。
「おい、行くぞ」
「なんだ。もう仕舞いか」
「顔繋ぎだから良いんだよ」
愛想を振り撒くビャクを引っ捕まえると、次は傭兵組合に顔を出し、〈龍海酒造〉の酒を配って酒場の宣伝がてら組合長に挨拶を済ませ、その足で店に戻って開店の支度をする。
「まあ今日の今日で客なんか来ないだろうけどな」
「それは分からんぞ。シグレの作る料理は美味いし、酒も上等な物を扱ってると言いふらしてきたからな」
「それが本当なら忙しくなるな」
手が止まってるぞとビャクに店の掃除を任せると、シグレは家から持ってきた食材でツマミになりそうな料理の仕込みに取り掛かる。
その間もくだらない話をしながら、時々手を止めてサボるビャクの尻を叩くように声を荒げると、程なくして料理が仕上がって店を開ける時間になった。
結果はビャクが言った通り盛況で、入れ替わり立ち替わり客の足は途絶えなかった。
「こっちにエールもう一杯」
「こっちにはヤスナ酒を頼む」
「承った。酒だけでなく、食事の追加は如何かな」
手狭な店内を、愛想の良いビャクが闊歩して次々と注文を取ってくる。
「大した警護だな」
「貴様が美味い飯を作るからだ」
そう答えるビャクも、満腹だとお腹をさすりながら寝台に寝そべって天井を見上げている。
「さて。俺は店を開けるつもりなんだが、お前たちはこのままここでのんびりしてるか」
「なんだ。客は来ないんじゃなかったのか」
「まあ来ねえだろうけど、近くの傭兵組合やら商業組合に挨拶回りに行きがてら、店の宣伝をしてくるよ」
「なら俺も顔を出してやろう」
「はあ?」
「なにも客は男だけとは限らんだろう。俺も今日からここで世話になる身だ。貴様を献身的に支えてやろうではないか」
「その言い様が献身的じゃねえんだよ、お前の場合は」
シグレは頭を抱えるが、ビャクはそれを面白がって起き上がるなりシグレの肩を抱き、その分は当然返してもらうつもりだと意味深に呟く。
「もちろん身体で払ってもらうぞ」
「だったら献身じゃねえだろ。見返り要求するんじゃねえよ。つか抱かれねえし!」
「クッ。あんなに善がったクセに可愛らしい反応をする奴だ」
「うるせえ」
口喧嘩をしながら、それでも眠りこけている二人に配慮して家を出ると、シグレはビャクを連れて店の近くにある組合に顔を出して、新規出店した酒場の宣伝活動に勤しんだ。
もちろんビャクも、シグレの相手をしている時が嘘のように、にこやかな顔で老若男女問わずに声を掛けてその場に留めると、シグレの酒場の宣伝に力を注ぐ。
「随分と美丈夫だが、旦那の連れ合いかい?」
商業組合の組合長と挨拶をしていると、人たらしのビャクがあっちこっちで愛想を振り撒いている様子に、組合長が可笑しそうに口元を緩める。
「連れ合いって……ただの居候だよ」
「へえ。まあそういうことにしといてやるよ。で、酒場だと言うが、酒はどこから仕入れてるんだい。うちの組合なら安値の取引もあるが」
「ああ悪い。俺こう見えて〈龍海酒造〉と縁があってね。酒に関しては一貫してあそこからって決めちまってんのよ」
「ほう。あの〈龍海酒造〉と取引があるとは、旦那は随分とやり手なんだね。ツマミや料理なんかは出すのかい」
「まあ、追い追いね。料理人を雇うにしても、店が軌道に乗らないと決められないからな。その辺りと仕入れで良いところがあったら紹介してもらえると助かる」
「なら適当に見繕っておくから、しばらくしたらまた顔を出してくれ。馴染みには酒場の宣伝をしといてやるよ」
「悪いな、助かるよ」
宣伝料だと言って謝礼と〈龍海酒造〉の酒を渡すと、組合長はご機嫌な表情でそれを受け取った。
「おい、行くぞ」
「なんだ。もう仕舞いか」
「顔繋ぎだから良いんだよ」
愛想を振り撒くビャクを引っ捕まえると、次は傭兵組合に顔を出し、〈龍海酒造〉の酒を配って酒場の宣伝がてら組合長に挨拶を済ませ、その足で店に戻って開店の支度をする。
「まあ今日の今日で客なんか来ないだろうけどな」
「それは分からんぞ。シグレの作る料理は美味いし、酒も上等な物を扱ってると言いふらしてきたからな」
「それが本当なら忙しくなるな」
手が止まってるぞとビャクに店の掃除を任せると、シグレは家から持ってきた食材でツマミになりそうな料理の仕込みに取り掛かる。
その間もくだらない話をしながら、時々手を止めてサボるビャクの尻を叩くように声を荒げると、程なくして料理が仕上がって店を開ける時間になった。
結果はビャクが言った通り盛況で、入れ替わり立ち替わり客の足は途絶えなかった。
「こっちにエールもう一杯」
「こっちにはヤスナ酒を頼む」
「承った。酒だけでなく、食事の追加は如何かな」
手狭な店内を、愛想の良いビャクが闊歩して次々と注文を取ってくる。
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