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ビャク、嫁になる③
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「阿呆。分かってて揶揄ってるだけだ」
ビャクは楽しげに肩を揺らすと、街並みを眺めながら、こんな風に外を自由に歩き回ったのはいつぶりだろうかと、シグレにとってはなんら日常と変わらない景色に目を輝かせている。
アザミから聞いた話が本当だとして、ビャクが〈マグノリア〉から動かずにいたのは、諜報活動のまとめ役としての責務があったからではないのだろうかとシグレは頭を悩ませる。
拠点を〈マグノリア〉からシグレの酒場に移すつもりなのか、詳細は移ってからまた話すと聞いているが、平穏を望むシグレにとって不都合になりかねないのは事実だろう。
「ほら、着いたぞ」
「ほう。酒場を切り盛りしてるというのは本当らしい」
「まあ客は来ねえけどな」
シグレは投げやりに答えてから、店の脇にある門を開けて細い路地を先陣切って歩いて行く。
そして玄関を開けて家の中に入ると、そのまま先に階段で二階に移動して窓を開け放す。
「前もって言ったけど、広さはないだろ。お前が勝手に転がり込んできたんだから文句は受け付けねえぞ」
「いや、想像していたよりは居心地が良い」
「そうかよ」
シグレは荷物を運んできた二人の警護担当の男たちに茶を振る舞うと、きょろきょろして部屋を見て回るビャクの首根っこを捕まえて荷物整理をさせる。
「てめえのことは、てめえでやれ」
「婿殿は手厳しいなあ」
「喧しい。んで、あんたらはうるさく言われてないなら、ここで晩飯食ってくか?」
ビャクに荷解きをさせながら、警護の二人に声を掛けると、片方の身軽そうな小柄な男が嬉しそうな声をあげた。
「良いんですか⁉︎」
「おい、ハル!」
慌てて止めに入るもう一方の体格が良い男が焦った声を出すと、シグレはその様子に苦笑して二人を止める。
「まあまあ。アザミの旦那の話じゃ、ビャクの警護はこれからも続けるんだろ。ならこの店にも出入りしてる方が不自然がない。遠慮するほど美味い飯は作れないから安心しろ」
事前の話が本当なら、キナの街にはビャクたちに協力的な者が多く、その後ろ盾を利用してシグレの家の近くに住み込んで様子を見ることになるのだろう。
普段から客の少ないシグレの店に、突如として人の出入りがあるのは不自然だし、ここはもう乗り込んだ船と割り切る方が賢い選択だとシグレは思う。
「ほら、こう言ってくださってるし。ダキも御相伴に預かろうよ」
「……すみません。それではお言葉に甘えさせていただきます。手伝いが入り用でしたらなんなりとお声掛けください」
自己紹介がまだだったと二人の名前を確認すると、小柄な方がハルウィ、大柄な方がダキッタルだと分かった。
流石に呼び名が長くて珍しく発音しづらいので、強面のダキにはビャクを見張ってもらい、器用そうなハルには料理を手伝わせる。
幸いにもここに帰ってくるまでに食材は多めに仕入れてあるので、四人で食事をすることになっても充分過ぎるほどの材料がある。
「さて。さっさと取り掛かるぞ」
シグレはパンッと手を叩くと、夕食の支度に取り掛かった。
ビャクは楽しげに肩を揺らすと、街並みを眺めながら、こんな風に外を自由に歩き回ったのはいつぶりだろうかと、シグレにとってはなんら日常と変わらない景色に目を輝かせている。
アザミから聞いた話が本当だとして、ビャクが〈マグノリア〉から動かずにいたのは、諜報活動のまとめ役としての責務があったからではないのだろうかとシグレは頭を悩ませる。
拠点を〈マグノリア〉からシグレの酒場に移すつもりなのか、詳細は移ってからまた話すと聞いているが、平穏を望むシグレにとって不都合になりかねないのは事実だろう。
「ほら、着いたぞ」
「ほう。酒場を切り盛りしてるというのは本当らしい」
「まあ客は来ねえけどな」
シグレは投げやりに答えてから、店の脇にある門を開けて細い路地を先陣切って歩いて行く。
そして玄関を開けて家の中に入ると、そのまま先に階段で二階に移動して窓を開け放す。
「前もって言ったけど、広さはないだろ。お前が勝手に転がり込んできたんだから文句は受け付けねえぞ」
「いや、想像していたよりは居心地が良い」
「そうかよ」
シグレは荷物を運んできた二人の警護担当の男たちに茶を振る舞うと、きょろきょろして部屋を見て回るビャクの首根っこを捕まえて荷物整理をさせる。
「てめえのことは、てめえでやれ」
「婿殿は手厳しいなあ」
「喧しい。んで、あんたらはうるさく言われてないなら、ここで晩飯食ってくか?」
ビャクに荷解きをさせながら、警護の二人に声を掛けると、片方の身軽そうな小柄な男が嬉しそうな声をあげた。
「良いんですか⁉︎」
「おい、ハル!」
慌てて止めに入るもう一方の体格が良い男が焦った声を出すと、シグレはその様子に苦笑して二人を止める。
「まあまあ。アザミの旦那の話じゃ、ビャクの警護はこれからも続けるんだろ。ならこの店にも出入りしてる方が不自然がない。遠慮するほど美味い飯は作れないから安心しろ」
事前の話が本当なら、キナの街にはビャクたちに協力的な者が多く、その後ろ盾を利用してシグレの家の近くに住み込んで様子を見ることになるのだろう。
普段から客の少ないシグレの店に、突如として人の出入りがあるのは不自然だし、ここはもう乗り込んだ船と割り切る方が賢い選択だとシグレは思う。
「ほら、こう言ってくださってるし。ダキも御相伴に預かろうよ」
「……すみません。それではお言葉に甘えさせていただきます。手伝いが入り用でしたらなんなりとお声掛けください」
自己紹介がまだだったと二人の名前を確認すると、小柄な方がハルウィ、大柄な方がダキッタルだと分かった。
流石に呼び名が長くて珍しく発音しづらいので、強面のダキにはビャクを見張ってもらい、器用そうなハルには料理を手伝わせる。
幸いにもここに帰ってくるまでに食材は多めに仕入れてあるので、四人で食事をすることになっても充分過ぎるほどの材料がある。
「さて。さっさと取り掛かるぞ」
シグレはパンッと手を叩くと、夕食の支度に取り掛かった。
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