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ビャク、嫁になる②
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シグレはアザミの話を一通り聞いてから、身請けまでする必要はないだろうと顔を歪める。
「シグレ、俺は貴様が気に入った。それにな、大事なものを差し出したのだから、それなりに責任を取ってもらっても良いと思うんだが」
「お前なあ、奪われたのは俺の方だろうが」
「何を言う。貴様がその指で……」
「わあああ! やめろ馬鹿!」
咄嗟に叫んでビャクの口を手で覆うと、アザミはそれでも顔色一つ変えず、落ち着いてくださいとシグレを諌めるように口を開いた。
「複雑な内情をお伝えしたのは、今後貴方様にも関係してくる可能性があるからです。但し、今回のビャクの身請けに関しては、それ相応にお支払いをいただいた結果で御座います」
「いや、無茶苦茶だろ」
「なんだ。最初と合わせて六千万も払っておいて、冷やかしだったというのか。酔狂にも程があるぞシグレ」
「お前ねえ」
「とにかく、六千万ゼラもの破格のお支払いを戴いておりますし、ビャクの水揚げもまた然り。シグレ様にはビャクを身請けしていただきます」
「水揚げって、喰われたのは俺の方だぞ!」
「……それでも身請けしていただきます」
「待て、なんだ今の間は。だいたい、そんな話おかしいだろ」
「待たん。男なら腹を括れ」
アザミとビャクに詰め寄られてシグレは頭を抱えるが、これは決定事項なのだと言いくるめられて、結局のところシグレには断る選択肢など用意されてはいなかった。
それからは慌ただしく支度が進み、見事な金色の髪はバッサリ刈られて妖艶な雰囲気が払拭されると、翠眼は目立ち過ぎるからか、左眼に眼帯を付けて右眼も長めに残した前髪で覆われた。
そして装いはシグレと同じく、ヤスナではよく見掛ける、ヤスナと帝国の衣装を組み合わせて着物の下に細身のズボンを合わせた格好になった。
「身請けと言っても、仰々しい儀式は致しません。このままビャクを連れてお帰りいただくだけで結構で御座います」
淡々とした様子で告げるアザミに、もはやシグレは言い返す気力も残っていない。
ただ呆然と変容したビャクを見つめて、やっと一人暮らしを始めたあの家で、酒場を切り盛りしながらビャクと二人で生活していくのかと、不安ばかりを募らせる。
「なんだ。浮かない顔だな」
「当たり前だろ。呼んでもないのに誰かさんが嫁いでくるって張り切ってんだからな」
「そうか。嫁に貰うのが不満なら俺が娶ってやろう」
「そういう話じゃねえよ」
ビャクは長い髪を切ったからか、それに加えて眼帯で目元の印象も違うこともあり、見慣れた美しい姿と印象が異なって、今までとは別な精悍な男の色気を醸し出している。
顔立ちが整っていると、どんな容姿になったとしても迫力があるのかよと、シグレは悪態吐きたくなったが、ビャクを相手にそう言ったところで褒め言葉に取られかねない。
「では、花街が賑わう前に」
夕方になれば活気付いて人の出入りも多くなるからだろう、アザミに声を掛けられてシグレはいよいよ諦めたように立ち上がった。
荷物持ちという名目で警護の男が二人つけられ、想像よりも物々しい状態で〈マグノリア〉を後にすると、人気がなく静まり返った花街を出る。
そこから街外れのシグレの家まで、帰り道には買い物も済ませてぞろぞろと連れ立って歩くと、嫌でも人の目を引く男四人の集団に好奇の目が集まる。
「なあビャク、お前ただでさえ目を引くんだから、頭巾かなんか被っとけよ」
「なんだシグレ。もうヤキモチか」
「お前、頭のネジ飛んでるだろ」
「生憎だが、俺の頭にネジは留まってない」
「比喩だよ!」
「シグレ、俺は貴様が気に入った。それにな、大事なものを差し出したのだから、それなりに責任を取ってもらっても良いと思うんだが」
「お前なあ、奪われたのは俺の方だろうが」
「何を言う。貴様がその指で……」
「わあああ! やめろ馬鹿!」
咄嗟に叫んでビャクの口を手で覆うと、アザミはそれでも顔色一つ変えず、落ち着いてくださいとシグレを諌めるように口を開いた。
「複雑な内情をお伝えしたのは、今後貴方様にも関係してくる可能性があるからです。但し、今回のビャクの身請けに関しては、それ相応にお支払いをいただいた結果で御座います」
「いや、無茶苦茶だろ」
「なんだ。最初と合わせて六千万も払っておいて、冷やかしだったというのか。酔狂にも程があるぞシグレ」
「お前ねえ」
「とにかく、六千万ゼラもの破格のお支払いを戴いておりますし、ビャクの水揚げもまた然り。シグレ様にはビャクを身請けしていただきます」
「水揚げって、喰われたのは俺の方だぞ!」
「……それでも身請けしていただきます」
「待て、なんだ今の間は。だいたい、そんな話おかしいだろ」
「待たん。男なら腹を括れ」
アザミとビャクに詰め寄られてシグレは頭を抱えるが、これは決定事項なのだと言いくるめられて、結局のところシグレには断る選択肢など用意されてはいなかった。
それからは慌ただしく支度が進み、見事な金色の髪はバッサリ刈られて妖艶な雰囲気が払拭されると、翠眼は目立ち過ぎるからか、左眼に眼帯を付けて右眼も長めに残した前髪で覆われた。
そして装いはシグレと同じく、ヤスナではよく見掛ける、ヤスナと帝国の衣装を組み合わせて着物の下に細身のズボンを合わせた格好になった。
「身請けと言っても、仰々しい儀式は致しません。このままビャクを連れてお帰りいただくだけで結構で御座います」
淡々とした様子で告げるアザミに、もはやシグレは言い返す気力も残っていない。
ただ呆然と変容したビャクを見つめて、やっと一人暮らしを始めたあの家で、酒場を切り盛りしながらビャクと二人で生活していくのかと、不安ばかりを募らせる。
「なんだ。浮かない顔だな」
「当たり前だろ。呼んでもないのに誰かさんが嫁いでくるって張り切ってんだからな」
「そうか。嫁に貰うのが不満なら俺が娶ってやろう」
「そういう話じゃねえよ」
ビャクは長い髪を切ったからか、それに加えて眼帯で目元の印象も違うこともあり、見慣れた美しい姿と印象が異なって、今までとは別な精悍な男の色気を醸し出している。
顔立ちが整っていると、どんな容姿になったとしても迫力があるのかよと、シグレは悪態吐きたくなったが、ビャクを相手にそう言ったところで褒め言葉に取られかねない。
「では、花街が賑わう前に」
夕方になれば活気付いて人の出入りも多くなるからだろう、アザミに声を掛けられてシグレはいよいよ諦めたように立ち上がった。
荷物持ちという名目で警護の男が二人つけられ、想像よりも物々しい状態で〈マグノリア〉を後にすると、人気がなく静まり返った花街を出る。
そこから街外れのシグレの家まで、帰り道には買い物も済ませてぞろぞろと連れ立って歩くと、嫌でも人の目を引く男四人の集団に好奇の目が集まる。
「なあビャク、お前ただでさえ目を引くんだから、頭巾かなんか被っとけよ」
「なんだシグレ。もうヤキモチか」
「お前、頭のネジ飛んでるだろ」
「生憎だが、俺の頭にネジは留まってない」
「比喩だよ!」
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