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なんでそうなる!!②
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「旦那がまだそこに居残ってるのって、ビャクに関してなんか用事があるってことか」
花街の中でも一線を画す高級娼館〈マグノリア〉の主人であるはずのアザミが、一目千両と呼ばれているとはいえ男娼一人のために、わざわざ単身で食事を運んでくる理由が分からない。
それに先ほどの入り口でのビャクとのやり取りも、盗み聞いた訳ではないが、耳に入ってしまったので気になっていることは確かだ。
「そう逸るなシグレ。傍で見られていては居心地も悪かろうが、まずは食べろ」
「いやまあ、食うけどよ」
その様子を見ても無言を貫くアザミの目的を知っているからか、落ち着きを払うビャクの発言に、シグレは箸で魚の煮付けを口に運びながら、納得がいかないと表情を歪める。
大方ビャクに関わることだろうと見当は付くが、まさか昔話に 準えて、身請けだのなんだのという話をされるのだろうかと思うと、シグレはゾッとして身構えた。
「なんだ。そんなに俺と二人きりで居たいのか」
「抜かせ」
「ほう。また抜いてやろうか」
「お前ね……」
「なにを呆けている、冷める前に食べてしまえ」
「お前がくだらねえこと言うからだろ」
ビャクの発言に調子を狂わされ、箸を持つ手が止まるシグレに、それまで黙っていたアザミがようやく口を開く。
「今はまず、お召し上がりください」
まるで諭されてしまったような気分になって、シグレはそれ以降静かに食事をとることにした。
沈黙とも呼べる異様な空気の中で、上品な味付けの食事を食べながら、シグレはアザミの様子を観察する。
〈マグノリア〉は新しい娼館ではないとはいえ、主人が代替わりしてから今の高級志向な店に変わったと聞いているので、仕掛け人となったのは、やはりこのアザミなのだろうか。
一見すると、カタブツと呼ぶのがしっかりくるほど、少し神経質で人を寄せ付けない空気を纏っていて、とても客商売、しかも娼館の主人とは思えない愛想のなさだ。
だからと言って、金にがめつい卑しさは微塵もなく、商売人にしては品格と優雅さのような雰囲気がある。だからなのか、整った顔立ちではないのに妙な色気がある男だ。
「ほう。シグレは俺からアザミに鞍替えか」
シグレのそんな様子を面白がって、ビャクは揶揄うように呟くと、最後に残していたのだろう、魚の煮付けを頬張ってニヤついた顔をする。
「鞍替えって、お前の頭の中はそれしかねえのかよ」
「違ったか? あんなに熱い視線を向けていたのでな。捨てられるのかと冷や汗をかいたぞ」
「また、ああ言えばこう言う。本当に口が達者だな」
「そうだな、口は上手いぞ。色んな意味でな。ああ、シグレにはわざわざ言わなくても分かるか」
「はあ?」
面白がるビャクの言葉の意味が分からずに顔を歪めてから、昨夜散々されたことを思い出し、口が上手いという意味に行き当たってシグレは頭を抱えたくなる。
「お前、マジで。もう一生喋るな」
「おや? 何か意味深だな」
「もう本当、黙ってろ」
「揶揄い甲斐があって困るな、貴様は」
まだ楽しげになにかを口にする悪ノリしたビャクを放置すると、シグレはさっさと食事を平らげてから、投げ付けるように箸を置く。
「ああ美味かった。それで? 〈マグノリア〉の主人がわざわざ出向いて俺に話ってのは、一体なんのことなんだ」
「手前勝手な話では御座いますが、シグレ様はビャクの水揚げの相手。そのままビャクの希望により、身請けをしていただきたいのです」
「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ」
あまりにも突然の話に、アザミとビャクを交互に見つめ、シグレは混乱する頭を整理する。
ビャクは巷の噂通り、一目千両の如く一千万ゼラを払う客にその姿だけを拝ませてきた。それは紛れもない事実で、閨を共にしたのはシグレが初めてだということか。
そしてビャク本人が口にしたように、昔話さながらに、大枚を叩いたシグレを気に入ったから身請けしろと酔狂なことを言い出し、〈マグノリア〉の主人のアザミもそれを承諾した。
「そんなに驚くことかシグレ」
「当たり前だろ。なんで身請けなんて話になるんだよ」
シグレは楽しげに喉を鳴らすビャクを睨むと、そもそも見受けするならもっと莫大な金が必要なのではないかとアザミの顔を見た。
「まさか、五千万ゼラがその身請けの条件だったってことか」
「いいえ、ビャクの希望で御座います」
アザミは顔色ひとつ変えずそう答えると、僅かにビャクの方を見つめてなにかを確認するように目配せしてから、ことの真相をお話ししましょうと居住まいを正した。
花街の中でも一線を画す高級娼館〈マグノリア〉の主人であるはずのアザミが、一目千両と呼ばれているとはいえ男娼一人のために、わざわざ単身で食事を運んでくる理由が分からない。
それに先ほどの入り口でのビャクとのやり取りも、盗み聞いた訳ではないが、耳に入ってしまったので気になっていることは確かだ。
「そう逸るなシグレ。傍で見られていては居心地も悪かろうが、まずは食べろ」
「いやまあ、食うけどよ」
その様子を見ても無言を貫くアザミの目的を知っているからか、落ち着きを払うビャクの発言に、シグレは箸で魚の煮付けを口に運びながら、納得がいかないと表情を歪める。
大方ビャクに関わることだろうと見当は付くが、まさか昔話に 準えて、身請けだのなんだのという話をされるのだろうかと思うと、シグレはゾッとして身構えた。
「なんだ。そんなに俺と二人きりで居たいのか」
「抜かせ」
「ほう。また抜いてやろうか」
「お前ね……」
「なにを呆けている、冷める前に食べてしまえ」
「お前がくだらねえこと言うからだろ」
ビャクの発言に調子を狂わされ、箸を持つ手が止まるシグレに、それまで黙っていたアザミがようやく口を開く。
「今はまず、お召し上がりください」
まるで諭されてしまったような気分になって、シグレはそれ以降静かに食事をとることにした。
沈黙とも呼べる異様な空気の中で、上品な味付けの食事を食べながら、シグレはアザミの様子を観察する。
〈マグノリア〉は新しい娼館ではないとはいえ、主人が代替わりしてから今の高級志向な店に変わったと聞いているので、仕掛け人となったのは、やはりこのアザミなのだろうか。
一見すると、カタブツと呼ぶのがしっかりくるほど、少し神経質で人を寄せ付けない空気を纏っていて、とても客商売、しかも娼館の主人とは思えない愛想のなさだ。
だからと言って、金にがめつい卑しさは微塵もなく、商売人にしては品格と優雅さのような雰囲気がある。だからなのか、整った顔立ちではないのに妙な色気がある男だ。
「ほう。シグレは俺からアザミに鞍替えか」
シグレのそんな様子を面白がって、ビャクは揶揄うように呟くと、最後に残していたのだろう、魚の煮付けを頬張ってニヤついた顔をする。
「鞍替えって、お前の頭の中はそれしかねえのかよ」
「違ったか? あんなに熱い視線を向けていたのでな。捨てられるのかと冷や汗をかいたぞ」
「また、ああ言えばこう言う。本当に口が達者だな」
「そうだな、口は上手いぞ。色んな意味でな。ああ、シグレにはわざわざ言わなくても分かるか」
「はあ?」
面白がるビャクの言葉の意味が分からずに顔を歪めてから、昨夜散々されたことを思い出し、口が上手いという意味に行き当たってシグレは頭を抱えたくなる。
「お前、マジで。もう一生喋るな」
「おや? 何か意味深だな」
「もう本当、黙ってろ」
「揶揄い甲斐があって困るな、貴様は」
まだ楽しげになにかを口にする悪ノリしたビャクを放置すると、シグレはさっさと食事を平らげてから、投げ付けるように箸を置く。
「ああ美味かった。それで? 〈マグノリア〉の主人がわざわざ出向いて俺に話ってのは、一体なんのことなんだ」
「手前勝手な話では御座いますが、シグレ様はビャクの水揚げの相手。そのままビャクの希望により、身請けをしていただきたいのです」
「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ」
あまりにも突然の話に、アザミとビャクを交互に見つめ、シグレは混乱する頭を整理する。
ビャクは巷の噂通り、一目千両の如く一千万ゼラを払う客にその姿だけを拝ませてきた。それは紛れもない事実で、閨を共にしたのはシグレが初めてだということか。
そしてビャク本人が口にしたように、昔話さながらに、大枚を叩いたシグレを気に入ったから身請けしろと酔狂なことを言い出し、〈マグノリア〉の主人のアザミもそれを承諾した。
「そんなに驚くことかシグレ」
「当たり前だろ。なんで身請けなんて話になるんだよ」
シグレは楽しげに喉を鳴らすビャクを睨むと、そもそも見受けするならもっと莫大な金が必要なのではないかとアザミの顔を見た。
「まさか、五千万ゼラがその身請けの条件だったってことか」
「いいえ、ビャクの希望で御座います」
アザミは顔色ひとつ変えずそう答えると、僅かにビャクの方を見つめてなにかを確認するように目配せしてから、ことの真相をお話ししましょうと居住まいを正した。
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