超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-

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遊び人の本気②

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 鞄の中にはビャクの鼻を明かすための手形と、十万ゼラに相当するジルコニア硬貨を数枚、そして更に千ゼラ札に帯がついたままの札束をいくつも詰め込んだ。
 シグレがビャクに対抗するために用意した手形は、破格の五千万ゼラだ。
 前回出向いて思い知らされたのは、一千万ゼラもの大金を持参しても、 瞬まばたき一つの猶予しか与えてもらえないという現実だった。
 シグレ自身も、ムキになって意地になっている自覚はあるが、ビャクは娼館に身を置く男娼のクセに、姿を見せるだけで大金を要求するその姿勢が気に食わない。
 だからせめてシグレを客としてもてなすように、屈服させるだけの手付金として五千万ゼラを用意したという訳だ。
 そうして大門を潜って花街に足を踏み入れると、シグレは他の店には目もくれずに〈マグノリア〉に向かった。
「本日は数ある娼館の中から、ようこそ〈マグノリア〉においでくださいました」
 入り口に入ると、広々とした玄関ホールに受付に立つ男が、こちらでご案内しますと恭しく頭を下げる。
「よう。今夜もビャクを指名したい」
 受付のカウンターに肘をつくシグレに、にこやかな表情を作ると、男はニッコリと微笑む。
「かしこまりました。それでは恐れ入りますが、別室にお越しください」
 受付の男はベルを鳴らすと、すぐに駆け付けた男に耳打ちし、受付の担当を交代してから、シグレに参りましょうと声を掛ける。
「ご案内致します」
「おう」
 前回同様に〈マグノリア〉の主人であるアザミが控える部屋に案内されると、やはりアザミは顔色一つ変えずにシグレにようこそおいでくださいましたと声を掛けた。
「この度もビャクをご用命とのことですが、ご承知の通りビャクは客を取りません。お目通しになるだけですが、宜しいのでしょうか」
 テーブルを挟んだ向いに座るアザミは、金をドブに捨てる気かと確認するようにシグレの顔を覗き込む。
「アザミの旦那、俺は腹が立っててな。ここに五千万ゼラの手形がある。もっと必要なら更に払っても良い。これで一目と言わず舐め回すように拝んで、あの高慢ちきの鼻を明かしてやるよ」
 シグレは初めて来た時同様に鞄をテーブルに投げ付けると、無作法にもテーブルに足を投げ出して、その長い足を組み直した。
 アザミは初めて呆気に取られた顔をすると、一言断りを入れてからシグレが投げ付けた鞄を手に取り、改めて確認するようにシグレの顔を見つめた。
「中身を確認させて戴いても?」
「封筒に入ってるのが五千万ゼラの手形だ。あとは必要なら、硬貨と札束が見えるだろ」
「本気で仰っているのですね」
「おう。あの舐め腐った野郎の鼻を明かすためなら、そんなもんは 端金はしたがねだ」
 手形を確認するアザミにシグレは鼻を鳴らすと、テーブルに置かれていた葡萄を房ごと掴んで、一つをちぎって口に放り込む。
「承知致しました。まずはビャクの支度の間、細やかな催しとお食事などは如何でしょうか」
「腹ペコなんだよね。芸妓や踊り子は良いからさ、食事だけお願いできるかな」
 相変わらず読めない男だなと様子を伺いながら、シグレがお腹をさすってそう答えると、アザミはすぐに水晶を使って指示を出し、程なくして食事が運ばれて来た。
 それにしてもただ見るだけなのに、こんな風に待たされるということは、ビャクに他の客がついているということだろうか。
 それはそれで面白くないと、心の中に芽生えた独占欲が刺激され、アザミが語り掛ける世間話に適当な返事をしてあっという間に食事を平らげる。
「ビャクの支度は既に整って御座います」
「そうなのか。んじゃ行きますか」
 ごちそうさまと手を合わせると、アザミが手を叩いてすぐに別の男が部屋の扉を開けて顔を覗かせる。
 前回案内についた屈強な男だ。
 しかしアザミは自ら立ち上がると、その男に部屋の留守を任せるやり取りをして、状況が飲み込めないシグレを手招きをして自分が案内すると口を開いた。
「本日は例外的な事態ですので、 私わたくしめが直接ご案内致します」
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