聖女召喚でなぜか呼び出された、もう30のお兄さん(自称)ですが、異世界で聖人することにしました。

藜-LAI-

文字の大きさ
上 下
44 / 46

20.キミだからムラムラします①

しおりを挟む
 いつの間に寝入っていたのか、ふと目を開けるとベッドの脇に置かれた燭台に蝋燭の火が灯っている。
「ん、やべ。寝ちまった」
 目を擦りながら体を起こすと、ソファーで寝息を立てるジレーザを見つけて依斗は息を呑んだ。
 しばらく顔を合わせていなかったジレーザが、なぜ今になってこの部屋に居るのか、その理由に思い当たった時、とてつもなく腹立たしくて、同時に悲しくて仕方なくなった。
 ベッドから降りて出来るだけ足音を立てずにソファーに近付くと、不安定に背もたれと肘掛けに体を預け、帽子と顔を覆う布を外し、無防備な寝顔を晒すジレーザを見つめる。
「クマが出来てるじゃないか……」
 ソファーの足元で膝を折ると、ジレーザの顔を覗き込んで、そっと頬に手を添わせて親指で目元を撫でる。
「貴様の望みだからな」
「お前、起きてたのかよ」
 驚いて手を離そうとすると、思ったよりも強い力で手を掴まれる。
「……本当に帰るのか」
「え?」
「私を置いて、元の世界に戻るのか」
 儚げな笑顔を刻んだ顔を見た途端、依斗は堪らずジレーザを力の限り抱き締めた。
「ごめん。ごめん俺、ごめん」
「身勝手を押し付けた自覚はあるようだな」
「俺は……お前を気遣うフリして、お前の気持ちを踏み躙った」
「ああ。あまりにも身勝手だな」
「でもお前には、立場があるじゃないか」
「くだらんな。まさかそんなことで帰ると言い出したのか」
 吐き捨てるのと同時に突き放されて、真正面から見つめ合うと、ジレーザの瞳には怒りが灯っていた。
「だけどジレーザ」
「私の想いは、ヨリトへの愛は、そんなことより軽かったか」
「違う、違うけど」
「術式は完済した。貴様を送還する準備が整ったということだ。これで満足か」
 ジレーザは再び儚げな笑顔を浮かべ、望みは叶えてやったぞと力なく呟いて、依斗が伸ばした手を払い退ける。
「ジレーザ」
「…………」
 返事はない。
 チリチリと蝋燭が燃える音が静寂を破り、揺らぐ炎が歪な影を伸ばす。
「俺だって、お前を失いたくない」
「戯れ言だ。帰るのだろう?」
「違う! 俺がそばに居たら、お前を傷付けるだろ」
「誰がどう傷付ける」
「サーチェスもオーバル教も、同性愛は禁忌に触れるんだろ」
「だからなんだと言うんだ」
「魔力枯渇を助けるために体を繋ぐのとは訳が違う」
「そんなつもりで抱かれていた訳じゃない」
「分かってるよ! だからってお前はオーバル教会の最高神官だろ、組織のトップじゃないか。立場があるだろ」
「そんなものどうでも良い」
「ジレーザ……」
「ヨリトなら、そう言ってくれると思っていた。だが違ったようだな」
 打ちのめされたような悲しい顔をして、ジレーザは声もなく涙を流し、勘違いだったようだと静かに笑う。
 依斗がいくら後悔したところで、ジレーザをここまで傷付けたことを無かったことには出来ない。
 それが分かっていても、依斗はジレーザを抱き締めずにはいられなかった。
「俺が間違ってた」
「慰めなら要らない」
「違う。慰めなんかじゃない。お前を傷付ける全ての可能性から、お前を守りたかった。ただそれだけなんだ」
「ヨリトは分かってない。私を傷付けたのはヨリトだ」
「そうだな、他の誰でもない、俺だった」
 依斗はゆっくりと体を離すと、ジレーザが流す涙を指先で拭い、深く傷付いた顔をしたままのジレーザに額を寄せる。
「愛してる。二度とあんなバカなことは言わない」
「愛してるなら突き放すな」
「分かってる。二度とお前を失いたくない」
「許すのは一度きりだぞ」
「ああ。創造主アネスに誓っても良い。俺はお前だけは失いたくない」
「神に誓うか。信仰心のない貴様は信用ならんが、今は甘んじてその言葉を信じてやろう」
 ようやく口角を上げて笑みを刻んだジレーザに、依斗はそっと唇を重ねた。
 燃え上がるような苛烈なキスではなく、互いを慈しむような柔く優しくて、気が遠くなるほど甘いキス。
 唇がゆっくりと離れると、どちらからともなくソファーから立ち上がり、手を繋いで移動したベッドの上に寝転んで抱き締め合う。
「だけど本当に良いのか」
「なにがだ」
「同性愛は禁忌だろ」
「なんとかなるだろ。それより早くヨリトが欲しい」
「なんとかって、あ、おい」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...