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10.邪竜(股間)の咆哮①⭐︎

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 瘴気が溢れた東の森で聖剣〈ネグロシス〉を振るってから三日。
 膨大な魔力を使い果たしたことを理由に、依斗は自室として与えられた部屋のベッドの上にいた。
「くっ、……う、はっ」
 しかし実際には、意に反して暴れ蠢く下半身の邪竜を鎮める儀式に掛り切りになっている。
「うぅっ」
 もはや枯れ果てた残滓を溢して短く呻くと、乱れた息を整えるように深く深呼吸するが、間髪入れずに鎌首をもたげる邪竜を視界に捉えた瞬間、げんなりとして呟く。
「つかマジ、なんだよこれ」
 依斗は部屋に引きこもって荒ぶる邪竜と格闘しているが、その熱は治まるどころか枯渇を知らず、既に両手首も痙攣を起こして限界が迫っている。
 性に目覚めた思春期の男子でさえ、ここまで貪欲に己を慰めはしないだろう。
「抜いても抜いても、チンコが萎えない」
 正直なところ、最初は独特の疲労から起こる生理現象だと思って気楽に構えていた依斗だが、一晩を越えた辺りから、暴走が止まらない下半身を持て余し始めた。
 ジレーザが何度か心配して様子を見に来たが、勃起が治まらない下半身を見せる訳にもいかず、魔力消費で体調が整わないと門前払いする形で、なんとか顔を合わさずに誤魔化し続けた。
 けれどそれも三日も続けば限界だ。
 聖剣〈ネグロシス〉に魔力を注ぐことで、聖人として瘴気を祓うことは出来たが、人としての尊厳を失った気がするのは気のせいかと、依斗は荒ぶる邪竜を見つめる。
「萎えろよ!」
 ぺちんと勃起した性器を叩くと、思いも虚しく股間でそれが元気に立ち上がったまま震えるだけ。
 不幸中の幸いなのか、今のところは性欲というよりも勃起が治まらないだけで、みだりに女性を求めたい感覚が湧き上がる様子がないことだけが救いだった。
 しかしただ硬くなるだけではなく、排泄欲に似た解放を求める不快感は募っていく一方なので、依斗は仕方なく手首のスナップで機械的に処理を続けている。
「お願い、もう枯れて何も出ない、やめて」
 股間で荒ぶる邪竜に向かって泣きついてみるものの、本当に全く別の生き物が宿ったように、痛いほど張り詰めたジュニアは解放を求めて硬さを増していく。
 そんな中、部屋の扉を叩く音が聞こえて、続け様に依斗を呼ぶ声がした。
「ヨリト様、お加減は如何でしょうか」
 今日もジレーザが様子を見に来たらしい。
 部屋に引きこもる依斗を気遣い案じるジレーザの声が、今はなぜか異様なまでに心に沁みる。
 依斗は決心した様子で立ち上がると、勃起が治まらない下半身を剥き出しにしたままで、入って構わないと扉の向こうに返事を返した。
「鍵なら開いてるぞ」
「失礼致します」
 食事やお茶を乗せた木製のワゴンを押して部屋に入ると、一人きりで来たのだろう、部屋の扉を閉めてから、ジレーザはベッドで膝を抱えて項垂れる依斗を見付けて怪訝な顔をする。
「どうなさったのですか。まだ具合いが優れませんか」
「……んだ」
「申し訳御座いません、少々聞き取りづらいのですが」
「勃起が治まらない」
「…………はい?」
「チンコが痛い」
 ようやく顔を上げた依斗の顔は、頬がこけたように青白く、冗談を言っている様子はない。
 なにより自嘲するような悟り切った静かな笑みに反して、折り曲げた脚が開かれると、赤黒く張り詰めた下半身の邪竜が牙を向くようにジレーザと対峙する。
「……ヨリト様、とりあえずそちらをお収めください」
「だから治まらないんだって」
「分かってますよ! 隠せと言ってるんです」
「お、おう」
 突如激昂したジレーザの声に押されて、依斗はブランケットを手繰り寄せると、荒ぶる邪竜を覆い隠すように再び膝を抱えた。
 部屋の中に奇妙な沈黙が落ちると、気まずさを払拭するように先に口を開いたのは、意外にもジレーザのほうだった。
「それが、聖剣を使う代償ということですか」
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