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5.似過ぎた他人②
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他人の空似にしてはよく似ているのに、秋成は依斗よりも背が低かったが、リュミナスは依斗と同じくらいか、あるいはもう少し背が高い。
屋根が付いたベンチに腰掛けると、水をもらってくると走り出したネルディムの後ろ姿を眺める依斗に、リュミナスが話し掛けた。
「それで、本当はどうしたんだ」
「え」
「俺を見た瞬間に固まった様子だったろ。ああ、聖人様にこんな話し方はマズいかな」
「いや、大丈夫ですよ。えっと、リュミナスさん」
リュミナスは話し方こそ違うが、声の質まで秋成そっくりだ。
「リュミナスで構わないよ。で、なんであんなに驚いてたのか聞いても?」
「……世話になってた、兄みたいに慕ってた恩人が居るんです。俺がこの世界に召喚される時に一緒に居て、だけどその時は、錯乱した女性に襲われてる最中で」
「物騒な話だな」
「そう、かも知れません。でも仕事上、そういうことが付き纏う因果な商売だったので、少しその異常さに慣れていた部分はあったかも知れないですね」
「そんな異常事態の中、その兄貴分はどうなった」
「さあ、どうなんでしょう。俺は気が付いたらサーチェスに来てたので、あの後その人が無事だったのかどうかまでは」
依斗は無力さを痛感して、膝の上で握った拳を震わせる。
「なるほどな。じゃあさっきあんなに驚いてたのは、もしかしてその兄貴分が俺と似てたってことか」
「初めてお会いするのに、不躾な態度をとってすみませんでした」
「いや。そんな状況だったら、確かに驚くのも無理はないんじゃないか。だが俺はその人とは別人だ」
「そうですね、驚くほどよく似てますけど、それは分かります」
リュミナスとそんなやり取りをしていると、そこに慌てた様子のネルディムが、ふくよかな体を揺らして走りながら水を運んできた。
「ヨリト様、お加減はよろしいのですか」
「悪いネルディム。心配掛けたな」
もう大丈夫だと笑顔を作ると、依斗はネルディムが差し出す水を受け取って一気に飲み下す。
「本日の剣術指南については、お控えになった方がよろしいのではありませんか」
「そうだな。明日からでも」
リュミナスもそう続けるが、依斗は飲み終えたコップをネルディムに手渡すと、大丈夫だと言い切る。
「大丈夫。少し休んだおかげで楽になったし」
「ですがヨリト様」
「平気だって、そんな心配すんなよ。心配ならお前がそばで見てれば問題ないだろ」
「それはそうかも知れませんが」
「リュミナスさん、忙しい中せっかく時間をとってもらってるのに、それを無駄にはしたくないのでお相手お願いします」
依斗が二人を交互に見てそう答えると、ネルディムは困惑した様子でリュミナスに答えを促すような視線を向ける。
「まあ、なんだ。聖人様がお決めになったんなら、それに従うしかないな。無理と判断したら途中でもなんでも切り上げるから、それで構わないかネルディム」
「リュミナス様がそうご判断なさるなら」
渋々と言った様子で頷くネルディムの顎をたぷたぷと弄ぶと、依斗は本調子を取り戻して大丈夫と笑う。
「キツかったらすぐ声掛けるから。じゃあリュミナスさん、よろしくお願いします」
休憩していたベンチから離れると、依斗はリュミナスが用意した稽古用の木製の剣を握って構える。
「結構重い」
「それでも重たいか。ところで聖人様は、剣術の経験はあるのかな」
「依斗で良いですよ」
「分かった」
「剣術の件ですけど、俺の世界には居合だとか剣道って武術があって、子どもの頃に少しだけやってました。でも剣の形からして全然違うから、経験ないのと同じだと思います」
依斗は父の影響で、居合と剣道を習っていた時期がある。
それなりに大会でも優秀な成績を残すほどセンスは良かったが、突然の父の他界によって習い事を継続する金銭的な余裕はなくなり、縁遠くなったものの一つだ。
屋根が付いたベンチに腰掛けると、水をもらってくると走り出したネルディムの後ろ姿を眺める依斗に、リュミナスが話し掛けた。
「それで、本当はどうしたんだ」
「え」
「俺を見た瞬間に固まった様子だったろ。ああ、聖人様にこんな話し方はマズいかな」
「いや、大丈夫ですよ。えっと、リュミナスさん」
リュミナスは話し方こそ違うが、声の質まで秋成そっくりだ。
「リュミナスで構わないよ。で、なんであんなに驚いてたのか聞いても?」
「……世話になってた、兄みたいに慕ってた恩人が居るんです。俺がこの世界に召喚される時に一緒に居て、だけどその時は、錯乱した女性に襲われてる最中で」
「物騒な話だな」
「そう、かも知れません。でも仕事上、そういうことが付き纏う因果な商売だったので、少しその異常さに慣れていた部分はあったかも知れないですね」
「そんな異常事態の中、その兄貴分はどうなった」
「さあ、どうなんでしょう。俺は気が付いたらサーチェスに来てたので、あの後その人が無事だったのかどうかまでは」
依斗は無力さを痛感して、膝の上で握った拳を震わせる。
「なるほどな。じゃあさっきあんなに驚いてたのは、もしかしてその兄貴分が俺と似てたってことか」
「初めてお会いするのに、不躾な態度をとってすみませんでした」
「いや。そんな状況だったら、確かに驚くのも無理はないんじゃないか。だが俺はその人とは別人だ」
「そうですね、驚くほどよく似てますけど、それは分かります」
リュミナスとそんなやり取りをしていると、そこに慌てた様子のネルディムが、ふくよかな体を揺らして走りながら水を運んできた。
「ヨリト様、お加減はよろしいのですか」
「悪いネルディム。心配掛けたな」
もう大丈夫だと笑顔を作ると、依斗はネルディムが差し出す水を受け取って一気に飲み下す。
「本日の剣術指南については、お控えになった方がよろしいのではありませんか」
「そうだな。明日からでも」
リュミナスもそう続けるが、依斗は飲み終えたコップをネルディムに手渡すと、大丈夫だと言い切る。
「大丈夫。少し休んだおかげで楽になったし」
「ですがヨリト様」
「平気だって、そんな心配すんなよ。心配ならお前がそばで見てれば問題ないだろ」
「それはそうかも知れませんが」
「リュミナスさん、忙しい中せっかく時間をとってもらってるのに、それを無駄にはしたくないのでお相手お願いします」
依斗が二人を交互に見てそう答えると、ネルディムは困惑した様子でリュミナスに答えを促すような視線を向ける。
「まあ、なんだ。聖人様がお決めになったんなら、それに従うしかないな。無理と判断したら途中でもなんでも切り上げるから、それで構わないかネルディム」
「リュミナス様がそうご判断なさるなら」
渋々と言った様子で頷くネルディムの顎をたぷたぷと弄ぶと、依斗は本調子を取り戻して大丈夫と笑う。
「キツかったらすぐ声掛けるから。じゃあリュミナスさん、よろしくお願いします」
休憩していたベンチから離れると、依斗はリュミナスが用意した稽古用の木製の剣を握って構える。
「結構重い」
「それでも重たいか。ところで聖人様は、剣術の経験はあるのかな」
「依斗で良いですよ」
「分かった」
「剣術の件ですけど、俺の世界には居合だとか剣道って武術があって、子どもの頃に少しだけやってました。でも剣の形からして全然違うから、経験ないのと同じだと思います」
依斗は父の影響で、居合と剣道を習っていた時期がある。
それなりに大会でも優秀な成績を残すほどセンスは良かったが、突然の父の他界によって習い事を継続する金銭的な余裕はなくなり、縁遠くなったものの一つだ。
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