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2.運命の光
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土砂降りの雨はいつの間にか雪に変わり、客足も悪くその日はどこかいつもと違っていた。
「悪いな依斗、こんなことまで頼んで」
「なに言ってるんですか。お安いご用です」
夜の社交場での振る舞いを知らない客は近年増加する一方で、客を自称する悪質なクレーマーや、キャストに対する過激なストーカー行為は後を絶たない。
暁こと、白石秋成に拾われてMagnifiqueに世話になるようになってから、依斗は簡単な手続きであれば弁護士としての仕事も兼務している。
最近は三号店の出店準備のために激務で顔を合わせることが少ない秋成と、警察署からの帰りの車中で久しぶりに会話を交わすと、あれから五年も経ったのかと懐かしい話に花が咲く。
「俺はそろそろ裏方に徹しようと思ってます」
「お前がもう三十とはな、でも卒業は早いんじゃないか」
「どうですかね。俺を拾ってくださって、本当に感謝してます。これからは裏方で支えさせてください」
「この街の王子がまた一人消えるって訳か。残念だな」
「またすぐに別の王子が現れますよ」
実際、秋成が見つけて来た原石や依斗の後輩の中には、その可能性を秘めた連中がゴロゴロ居る。
元々表舞台に立つような仕事には向いてないのだと依斗が苦笑すると、秋成は俺のせいかと揶揄うように笑う。
依斗がホストを辞めるのにはもう一つ理由があって、大好きな母が父の元へ旅立ったからだ。
「お袋さん、残念だったな」
「はい。でもお気遣いいただいて、最期を看取れましたから」
「お前の原動力は、お袋さんのためだったもんな」
「それマザコンだって、揶揄ってます?」
「親孝行な良い息子だって話だろ」
秋成の配慮に笑顔を浮かべると、秋成が住むマンションの駐車場に車を停めて車を降り、部屋まで見送りますと助手席のドアを開ける。
「俺までお姫様みたいに扱うな」
「あはは、王様ですよ。お姫様なわけないでしょ」
秋成の冗談に笑い声を上げた瞬間、視界の端でキラッと光る物が見えた。
「オーナー、車から出ないでください!」
降りようとしていた秋成を車の中に押し込むと、急いでドアを閉める。
背後から異様な気配を感じて振り返ると、刃物を振り翳した女が半狂乱になって走ってくるのが見えた。
このまま刺される思った瞬間、眩い閃光が走り、依斗を中心に不思議な光が辺りを包んで、体がふわりと宙に浮かぶ。
「依斗!」
車の中から秋成が叫んでいる声が聞こえた。
一方刃物を持っていた女は、突然の出来事に腰を抜かしてその場にへたり込んで呆然としているのが見える。
いったいなにが起こっているのか分からないが、命の危機は回避できたらしい。
しかし次の瞬間、依斗は強烈な吐き気を伴って激しい眩暈に襲われると、視界が一気にブラックアウトして床に叩き付けられるような衝撃で意識を取り戻す。
「なんと!」
「これは一体どういうことだ」
光に包まれて感じた吐き気と眩暈、そして床に叩き付けられた痛みで頭が朦朧とする中、周りを取り囲む男たちが嘆くように困惑した声をあげている。
ざわつく気配の中、一人の男の声が響くと辺りの気配は驚くほど静かになる。
「〈ネグロシス〉をこちらに」
凛とした響きの声が指示を出すと、声の主が依斗に近付く気配を感じる。
「ご気分が優れませんか。手をお貸しします。起き上がることは出来ますでしょうか」
差し出された手の気配を感じて依斗はようやく目を開けると、そこは見たこともない神殿の広間のような場所だった。
「悪いな依斗、こんなことまで頼んで」
「なに言ってるんですか。お安いご用です」
夜の社交場での振る舞いを知らない客は近年増加する一方で、客を自称する悪質なクレーマーや、キャストに対する過激なストーカー行為は後を絶たない。
暁こと、白石秋成に拾われてMagnifiqueに世話になるようになってから、依斗は簡単な手続きであれば弁護士としての仕事も兼務している。
最近は三号店の出店準備のために激務で顔を合わせることが少ない秋成と、警察署からの帰りの車中で久しぶりに会話を交わすと、あれから五年も経ったのかと懐かしい話に花が咲く。
「俺はそろそろ裏方に徹しようと思ってます」
「お前がもう三十とはな、でも卒業は早いんじゃないか」
「どうですかね。俺を拾ってくださって、本当に感謝してます。これからは裏方で支えさせてください」
「この街の王子がまた一人消えるって訳か。残念だな」
「またすぐに別の王子が現れますよ」
実際、秋成が見つけて来た原石や依斗の後輩の中には、その可能性を秘めた連中がゴロゴロ居る。
元々表舞台に立つような仕事には向いてないのだと依斗が苦笑すると、秋成は俺のせいかと揶揄うように笑う。
依斗がホストを辞めるのにはもう一つ理由があって、大好きな母が父の元へ旅立ったからだ。
「お袋さん、残念だったな」
「はい。でもお気遣いいただいて、最期を看取れましたから」
「お前の原動力は、お袋さんのためだったもんな」
「それマザコンだって、揶揄ってます?」
「親孝行な良い息子だって話だろ」
秋成の配慮に笑顔を浮かべると、秋成が住むマンションの駐車場に車を停めて車を降り、部屋まで見送りますと助手席のドアを開ける。
「俺までお姫様みたいに扱うな」
「あはは、王様ですよ。お姫様なわけないでしょ」
秋成の冗談に笑い声を上げた瞬間、視界の端でキラッと光る物が見えた。
「オーナー、車から出ないでください!」
降りようとしていた秋成を車の中に押し込むと、急いでドアを閉める。
背後から異様な気配を感じて振り返ると、刃物を振り翳した女が半狂乱になって走ってくるのが見えた。
このまま刺される思った瞬間、眩い閃光が走り、依斗を中心に不思議な光が辺りを包んで、体がふわりと宙に浮かぶ。
「依斗!」
車の中から秋成が叫んでいる声が聞こえた。
一方刃物を持っていた女は、突然の出来事に腰を抜かしてその場にへたり込んで呆然としているのが見える。
いったいなにが起こっているのか分からないが、命の危機は回避できたらしい。
しかし次の瞬間、依斗は強烈な吐き気を伴って激しい眩暈に襲われると、視界が一気にブラックアウトして床に叩き付けられるような衝撃で意識を取り戻す。
「なんと!」
「これは一体どういうことだ」
光に包まれて感じた吐き気と眩暈、そして床に叩き付けられた痛みで頭が朦朧とする中、周りを取り囲む男たちが嘆くように困惑した声をあげている。
ざわつく気配の中、一人の男の声が響くと辺りの気配は驚くほど静かになる。
「〈ネグロシス〉をこちらに」
凛とした響きの声が指示を出すと、声の主が依斗に近付く気配を感じる。
「ご気分が優れませんか。手をお貸しします。起き上がることは出来ますでしょうか」
差し出された手の気配を感じて依斗はようやく目を開けると、そこは見たこともない神殿の広間のような場所だった。
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