聖女召喚でなぜか呼び出された、もう30のお兄さん(自称)ですが、異世界で聖人することにしました。

藜-LAI-

文字の大きさ
上 下
4 / 46

2.運命の光

しおりを挟む
 土砂降りの雨はいつの間にか雪に変わり、客足も悪くその日はどこかいつもと違っていた。
「悪いな依斗、こんなことまで頼んで」
「なに言ってるんですか。お安いご用です」
 夜の社交場での振る舞いを知らない客は近年増加する一方で、客を自称する悪質なクレーマーや、キャストに対する過激なストーカー行為は後を絶たない。
 アキラこと、白石しらいし秋成あきなりに拾われてMagnifiqueマニフィックに世話になるようになってから、依斗は簡単な手続きであれば弁護士としての仕事も兼務している。
 最近は三号店の出店準備のために激務で顔を合わせることが少ない秋成と、警察署からの帰りの車中で久しぶりに会話を交わすと、あれから五年も経ったのかと懐かしい話に花が咲く。
「俺はそろそろ裏方に徹しようと思ってます」
「お前がもう三十とはな、でも卒業は早いんじゃないか」
「どうですかね。俺を拾ってくださって、本当に感謝してます。これからは裏方で支えさせてください」
「この街の王子がまた一人消えるって訳か。残念だな」
「またすぐに別の王子が現れますよ」
 実際、秋成が見つけて来た原石や依斗の後輩の中には、その可能性を秘めた連中がゴロゴロ居る。
 元々表舞台に立つような仕事には向いてないのだと依斗が苦笑すると、秋成は俺のせいかと揶揄うように笑う。
 依斗がホストを辞めるのにはもう一つ理由があって、大好きな母が父の元へ旅立ったからだ。
「お袋さん、残念だったな」
「はい。でもお気遣いいただいて、最期を看取れましたから」
「お前の原動力は、お袋さんのためだったもんな」
「それマザコンだって、揶揄ってます?」
「親孝行な良い息子だって話だろ」
 秋成の配慮に笑顔を浮かべると、秋成が住むマンションの駐車場に車を停めて車を降り、部屋まで見送りますと助手席のドアを開ける。
「俺までお姫様みたいに扱うな」
「あはは、王様ですよ。お姫様なわけないでしょ」
 秋成の冗談に笑い声を上げた瞬間、視界の端でキラッと光る物が見えた。
「オーナー、車から出ないでください!」
 降りようとしていた秋成を車の中に押し込むと、急いでドアを閉める。
 背後から異様な気配を感じて振り返ると、刃物を振り翳した女が半狂乱になって走ってくるのが見えた。
 このまま刺される思った瞬間、眩い閃光が走り、依斗を中心に不思議な光が辺りを包んで、体がふわりと宙に浮かぶ。
「依斗!」
 車の中から秋成が叫んでいる声が聞こえた。
 一方刃物を持っていた女は、突然の出来事に腰を抜かしてその場にへたり込んで呆然としているのが見える。
 いったいなにが起こっているのか分からないが、命の危機は回避できたらしい。
 しかし次の瞬間、依斗は強烈な吐き気を伴って激しい眩暈に襲われると、視界が一気にブラックアウトして床に叩き付けられるような衝撃で意識を取り戻す。
「なんと!」
「これは一体どういうことだ」
 光に包まれて感じた吐き気と眩暈、そして床に叩き付けられた痛みで頭が朦朧とする中、周りを取り囲む男たちが嘆くように困惑した声をあげている。
 ざわつく気配の中、一人の男の声が響くと辺りの気配は驚くほど静かになる。
「〈ネグロシス〉をこちらに」
 凛とした響きの声が指示を出すと、声の主が依斗に近付く気配を感じる。
「ご気分が優れませんか。手をお貸しします。起き上がることは出来ますでしょうか」
 差し出された手の気配を感じて依斗はようやく目を開けると、そこは見たこともない神殿の広間のような場所だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

召喚先で恋をするのはまちがっているかもしれない

ブリリアント・ちむすぶ
BL
コウが異世界にきてすでに三年経った。 特に浮いた話もなく、魔法の実験体兼雑用係のコウにようやく恋が出来そうな機会がやってきた。 それはユーバ要塞司令官カイラスの命令で司令官付きの男娼アリスの見張りをすることだった。 少しづつ距離を深めていくコウとアリス。しかし、アリスには忘れれない相手がいたーー

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

聖女追放ラノベの馬鹿王子に転生しましたが…あれ、問題ないんじゃね?

越路遼介
ファンタジー
産婦人科医、後藤茂一(54)は“気功”を生来備えていた。その気功を活用し、彼は苦痛を少なくして出産を成功させる稀代の名医であったが心不全で死去、生まれ変わってみれば、そこは前世で読んだ『聖女追放』のラノベの世界!しかも、よりによって聖女にざまぁされる馬鹿王子に!せめて聖女断罪の前に転生しろよ!と叫びたい馬鹿王子レンドル。もう聖女を追放したあとの詰んだ状態からのスタートだった。 ・全8話で無事に完結しました!『小説家になろう』にも掲載しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...