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▶︎アン失踪事件
第4話 オジョーとオレとルカ
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◇
「なー、ルカ。結局お前の好きな子って誰なんだよー? 友達だろー教えろよー」
翌日の学校にて。窓際の席で大人しく読書するルカの机にへばりついたオレは、いまだ納得のいかない顔でゴネていた。
「やだ。絶対教えない」
ルカはむくれたような顔でぷいっとそっぽを向く。
よほどオレに知られるのが嫌らしい。くっそう……。まあ、オレだしな。教えるのが嫌なのわからなくもないけど……でも、なんでも話し合えるマブダチだと思ってた自分としては、ちょっと寂しい。
「ちぇ。けち。教えてくれたら全力で協力してやるってーのにさあ」
「……」
オレはルカの机の上に頭を乗せてゴロゴロ転がりながら口を尖らせる。
当然のことながらすでに〝本音ダダモレクッキー〟の効果は切れているため、ルカは本音をこぼすことなく黙々と本を読んでいる。
仕方ない、諦めるか……と、気持ちを切り替えようとしたその時、オレが着ていたパーカーのフードがくいくいと引っ張られた。
「……む?」
「ちょっとカザマ。そこ邪魔。私の席なんだけど」
きつい言い方とは正反対の、鈴を転がすような声に導かれて振り返る。
そこには、腰まである長いふわふわの髪の毛に、モデルみたいな整った顔。それから、センスの良さが光るコジャレたワンピースに身を包んだ女子――星名杏が、腰に手を当てて立っていた。
「げっ。オジョー」
「……っ」
「その呼び方、やめてくれない? 星名杏って名前があるんだからちゃんと名前で呼んでよ」
「へーへー、悪ゥござんした~っと。……いや、つってもさー、オジョーはオジョーじゃん。みんなそう呼んでるし、別にオジョーでよくね?」
機嫌が悪そうな星名相手に、つい本音をこぼすオレ。
そもそもなぜコイツが『オジョー』と呼ばれているかというと、コイツんちのオヤジは世界でも有名な〝星名コーポレーション〟の社長で、家もドーム何個分だ? ってくらいにめちゃくちゃデカい。
登下校はいつも執事付きの専用リムジンだし、当然のようについたあだ名は〝お嬢様〟や〝オジョー〟ってわけ。
「よくない。嫌いなのよ、その呼び方。なんか感じ悪く聞こえるし、バカにされてるみたいでイヤ」
でもそれが気に入らないみたいで、星名はムッとしたように反論してくる。
「そうかぁ? 別にバカになんかしてねえけど、でも、感じ悪く見えるのは確かかもなぁ」
「なっ」
「だってほら、おまえ、いつもツンとしててにこりとも笑わないじゃん? 周りの女子たちもビビって近寄れないって感じだし、っていうかおまえ、友達いないっしょ?」
「~~~っ」
思ったことをストレートに伝えると、顔を真っ赤にしてぷるぷるする星名。
「なー、ルカ。おまえもそう思わない?」
「……」
「ルカ?」
「べ、別に僕は、そうは思わないけど……」
星名が何も言わないので仕方なくルカに話を振ったんだけど……なぜか同じように顔を赤くしているルカは、本で顔を隠しながらボソボソと呟く。
「えー、なんだよー。こういうのはさあ、はっきり言ってやった方が本人のためなんだぜ? どう見てもオジョー、いつもぼっちだし、ほら、もっとこう、花蓮ちゃんみたいにニコニコしてた方が友達できると思うんだよなー」
腕を組んでうんうんと頷いて見せると、それまで唇をぷるぷると震わせていた星名は、
「別に……友達なんて必要ないし」
よりいっそう拗ねたように呟いて、ぷいっとそっぽを向いた。
「ほら、そういうとこだってー! つか絶対友達いた方が楽しいぞ。オレ、ルカがいなかったら学校つまんねーと思うし、放課後遊ぶにしてもやっぱ友達と一緒の方が断然盛り上がるしな。……あ、そうそう、昨日もさあ、ばあちゃんの店にハントマコンビが来て、ルカのとった行動がめちゃくちゃ面白くてさー」
ルカが心配そうな顔をしてこっちをチラチラ見てくるので、少し言いすぎたか? とは思ったけど、変に気を使っても星名のためにならないと思ってオレなりの気遣いでアドバイスをしていると、ふいに星名は、むすっとしながらも興味を示したようにコチラをチラりとみた。
「……ねえ」
「あん?」
「『ばあちゃんの店』って、あの〝ふしぎ堂〟のこと?」
「そうそう! っつかお前、〝ふしぎ堂〟のこと知ってんだ?」
「そりゃ知ってるわよ。ふしぎな商品が売られてる店だって有名だし」
「おっ。おまえ、なかなか見る目あるじゃん! 中古品とかには無縁そうなお嬢様のことだから、ハントマコンビみたいに『がらくた』だの『インチキ商品』だの『呪いの店』だのってバカにしてくるかと思ってたのに」
「確かに怪しいとは思うけど、別にバカになんか……」
「そっか! んじゃ、これやるよこれ、〝三分間爆笑爆弾〟♡ これさー、ここをこう引っ張って相手にぶつけると、ぶつけられた奴は腹が捩れるぐらいゲラゲラ爆笑すんだよね。マジでちょーウケるから。〝不思議〟を信じる奴なら誰にでも扱えるはずだから、三つくらい持っとく?」
「ちょ、い、いらないし、一体何に使うっていうのよ⁉︎ っていうか勝手にポケット入れないでくれる⁉︎ 引っかかってとれないしっ」
「いいからいいから持ってけって! いやまさかさー、お前みたいな金持ちの子どもがうちの神商品を気にしてただなんて思ってもみなかったし、ほら、その勢いでオジョーが〝ふしぎ堂〟の顧客になってくれたらうちも将来安泰じゃん⁉︎」
「べ、別に気にしてただなんて一言も言ってないし、いつもあなたたちが使ってる迷惑千万なオモチャに興味なんかないわよっ。わ、私はただっ」
「またまたァ。本当は気になってたんだろ~⁉︎ あ、それともあれか? 興味はあるけどお嬢様がオモチャ遊びしてるところを見られるだなんて恥ずかしいから興味ないふりしちゃお~みたいな系? 大丈夫大丈夫、別にお嬢様がオモチャで遊んでたってなんとも思わねえし、うちさー、女子向けの商品もいっぱい置いてあんだよね。だから今あげたヤツが面白いと思ったら、今度は店までゆっくり商品見にこいよ。なあ、ルカ?」
「……え。いや、あの」
「モリヤ、困ってるじゃない。っていうか森谷っていつもカザマに振り回されて痛い目遭わされてるようにしか見えないし……この際、振り回されるのは迷惑だってはっきり言ってやったら?」
オレと星名、両方に詰め寄られて冷や汗を垂らすルカ。
「ちょっ。おいおい、せっかく人がプレゼントまで用意してやったってーのに人聞きの悪いこと言うなよなー! オレとルカはマブダチだし、別に迷惑なんかしてないっつうの。なあルカ⁉︎」
「…………」
「ちょ、おま、無言とかっ。オレとオジョー、どっちの肩持つんだよー⁉︎」
オレに両肩を掴まれたルカは、微妙な沈黙を作りながら星名をチラ見する。
星名はむすっとした表情でルカを見つめ返した。
すると赤い顔のまま目をそらしたルカは、ぼそっと呟く。
「………星名さん」
「あんだとォー⁉︎」
裏切り者のルカの肩をゆさゆさと揺さぶるオレ。
星名は『ほらごらんなさい』とでも言うような勝ち誇ったような顔でこっちを見ていたので、オレはくやしまぎれの変顔で威嚇してやった。
くっそー、ルカめ……。星名からワイロでも受け取ってんのか⁉︎
あらぬ疑いをかけて口を尖らせていると、教室の扉が開いて「ほら着席―!」と担任が入ってきた。
オレは慌てて自分の席に座り、星名はオレが陣取っていた席に着席するとどこか赤らんだ顔でそっぽをむき、そしてルカはというと……。
読んでいた分厚い本に隠れながらも、やっぱりちょっと赤い顔で、目の前に座る星名の背中を密かに眺めていたのだった。
「なー、ルカ。結局お前の好きな子って誰なんだよー? 友達だろー教えろよー」
翌日の学校にて。窓際の席で大人しく読書するルカの机にへばりついたオレは、いまだ納得のいかない顔でゴネていた。
「やだ。絶対教えない」
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よほどオレに知られるのが嫌らしい。くっそう……。まあ、オレだしな。教えるのが嫌なのわからなくもないけど……でも、なんでも話し合えるマブダチだと思ってた自分としては、ちょっと寂しい。
「ちぇ。けち。教えてくれたら全力で協力してやるってーのにさあ」
「……」
オレはルカの机の上に頭を乗せてゴロゴロ転がりながら口を尖らせる。
当然のことながらすでに〝本音ダダモレクッキー〟の効果は切れているため、ルカは本音をこぼすことなく黙々と本を読んでいる。
仕方ない、諦めるか……と、気持ちを切り替えようとしたその時、オレが着ていたパーカーのフードがくいくいと引っ張られた。
「……む?」
「ちょっとカザマ。そこ邪魔。私の席なんだけど」
きつい言い方とは正反対の、鈴を転がすような声に導かれて振り返る。
そこには、腰まである長いふわふわの髪の毛に、モデルみたいな整った顔。それから、センスの良さが光るコジャレたワンピースに身を包んだ女子――星名杏が、腰に手を当てて立っていた。
「げっ。オジョー」
「……っ」
「その呼び方、やめてくれない? 星名杏って名前があるんだからちゃんと名前で呼んでよ」
「へーへー、悪ゥござんした~っと。……いや、つってもさー、オジョーはオジョーじゃん。みんなそう呼んでるし、別にオジョーでよくね?」
機嫌が悪そうな星名相手に、つい本音をこぼすオレ。
そもそもなぜコイツが『オジョー』と呼ばれているかというと、コイツんちのオヤジは世界でも有名な〝星名コーポレーション〟の社長で、家もドーム何個分だ? ってくらいにめちゃくちゃデカい。
登下校はいつも執事付きの専用リムジンだし、当然のようについたあだ名は〝お嬢様〟や〝オジョー〟ってわけ。
「よくない。嫌いなのよ、その呼び方。なんか感じ悪く聞こえるし、バカにされてるみたいでイヤ」
でもそれが気に入らないみたいで、星名はムッとしたように反論してくる。
「そうかぁ? 別にバカになんかしてねえけど、でも、感じ悪く見えるのは確かかもなぁ」
「なっ」
「だってほら、おまえ、いつもツンとしててにこりとも笑わないじゃん? 周りの女子たちもビビって近寄れないって感じだし、っていうかおまえ、友達いないっしょ?」
「~~~っ」
思ったことをストレートに伝えると、顔を真っ赤にしてぷるぷるする星名。
「なー、ルカ。おまえもそう思わない?」
「……」
「ルカ?」
「べ、別に僕は、そうは思わないけど……」
星名が何も言わないので仕方なくルカに話を振ったんだけど……なぜか同じように顔を赤くしているルカは、本で顔を隠しながらボソボソと呟く。
「えー、なんだよー。こういうのはさあ、はっきり言ってやった方が本人のためなんだぜ? どう見てもオジョー、いつもぼっちだし、ほら、もっとこう、花蓮ちゃんみたいにニコニコしてた方が友達できると思うんだよなー」
腕を組んでうんうんと頷いて見せると、それまで唇をぷるぷると震わせていた星名は、
「別に……友達なんて必要ないし」
よりいっそう拗ねたように呟いて、ぷいっとそっぽを向いた。
「ほら、そういうとこだってー! つか絶対友達いた方が楽しいぞ。オレ、ルカがいなかったら学校つまんねーと思うし、放課後遊ぶにしてもやっぱ友達と一緒の方が断然盛り上がるしな。……あ、そうそう、昨日もさあ、ばあちゃんの店にハントマコンビが来て、ルカのとった行動がめちゃくちゃ面白くてさー」
ルカが心配そうな顔をしてこっちをチラチラ見てくるので、少し言いすぎたか? とは思ったけど、変に気を使っても星名のためにならないと思ってオレなりの気遣いでアドバイスをしていると、ふいに星名は、むすっとしながらも興味を示したようにコチラをチラりとみた。
「……ねえ」
「あん?」
「『ばあちゃんの店』って、あの〝ふしぎ堂〟のこと?」
「そうそう! っつかお前、〝ふしぎ堂〟のこと知ってんだ?」
「そりゃ知ってるわよ。ふしぎな商品が売られてる店だって有名だし」
「おっ。おまえ、なかなか見る目あるじゃん! 中古品とかには無縁そうなお嬢様のことだから、ハントマコンビみたいに『がらくた』だの『インチキ商品』だの『呪いの店』だのってバカにしてくるかと思ってたのに」
「確かに怪しいとは思うけど、別にバカになんか……」
「そっか! んじゃ、これやるよこれ、〝三分間爆笑爆弾〟♡ これさー、ここをこう引っ張って相手にぶつけると、ぶつけられた奴は腹が捩れるぐらいゲラゲラ爆笑すんだよね。マジでちょーウケるから。〝不思議〟を信じる奴なら誰にでも扱えるはずだから、三つくらい持っとく?」
「ちょ、い、いらないし、一体何に使うっていうのよ⁉︎ っていうか勝手にポケット入れないでくれる⁉︎ 引っかかってとれないしっ」
「いいからいいから持ってけって! いやまさかさー、お前みたいな金持ちの子どもがうちの神商品を気にしてただなんて思ってもみなかったし、ほら、その勢いでオジョーが〝ふしぎ堂〟の顧客になってくれたらうちも将来安泰じゃん⁉︎」
「べ、別に気にしてただなんて一言も言ってないし、いつもあなたたちが使ってる迷惑千万なオモチャに興味なんかないわよっ。わ、私はただっ」
「またまたァ。本当は気になってたんだろ~⁉︎ あ、それともあれか? 興味はあるけどお嬢様がオモチャ遊びしてるところを見られるだなんて恥ずかしいから興味ないふりしちゃお~みたいな系? 大丈夫大丈夫、別にお嬢様がオモチャで遊んでたってなんとも思わねえし、うちさー、女子向けの商品もいっぱい置いてあんだよね。だから今あげたヤツが面白いと思ったら、今度は店までゆっくり商品見にこいよ。なあ、ルカ?」
「……え。いや、あの」
「モリヤ、困ってるじゃない。っていうか森谷っていつもカザマに振り回されて痛い目遭わされてるようにしか見えないし……この際、振り回されるのは迷惑だってはっきり言ってやったら?」
オレと星名、両方に詰め寄られて冷や汗を垂らすルカ。
「ちょっ。おいおい、せっかく人がプレゼントまで用意してやったってーのに人聞きの悪いこと言うなよなー! オレとルカはマブダチだし、別に迷惑なんかしてないっつうの。なあルカ⁉︎」
「…………」
「ちょ、おま、無言とかっ。オレとオジョー、どっちの肩持つんだよー⁉︎」
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星名はむすっとした表情でルカを見つめ返した。
すると赤い顔のまま目をそらしたルカは、ぼそっと呟く。
「………星名さん」
「あんだとォー⁉︎」
裏切り者のルカの肩をゆさゆさと揺さぶるオレ。
星名は『ほらごらんなさい』とでも言うような勝ち誇ったような顔でこっちを見ていたので、オレはくやしまぎれの変顔で威嚇してやった。
くっそー、ルカめ……。星名からワイロでも受け取ってんのか⁉︎
あらぬ疑いをかけて口を尖らせていると、教室の扉が開いて「ほら着席―!」と担任が入ってきた。
オレは慌てて自分の席に座り、星名はオレが陣取っていた席に着席するとどこか赤らんだ顔でそっぽをむき、そしてルカはというと……。
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