上 下
5 / 26
▶︎アン失踪事件

第4話 オジョーとオレとルカ

しおりを挟む
 ◇


「なー、ルカ。結局お前の好きな子って誰なんだよー? 友達だろー教えろよー」

 翌日の学校にて。窓際の席で大人しく読書するルカの机にへばりついたオレは、いまだ納得のいかない顔でゴネていた。

「やだ。絶対教えない」

 ルカはむくれたような顔でぷいっとそっぽを向く。

 よほどオレに知られるのが嫌らしい。くっそう……。まあ、オレだしな。教えるのが嫌なのわからなくもないけど……でも、なんでも話し合えるマブダチだと思ってた自分としては、ちょっと寂しい。

「ちぇ。けち。教えてくれたら全力で協力してやるってーのにさあ」

「……」

 オレはルカの机の上に頭を乗せてゴロゴロ転がりながら口を尖らせる。

 当然のことながらすでに〝本音ダダモレクッキー〟の効果は切れているため、ルカは本音をこぼすことなく黙々と本を読んでいる。

 仕方ない、諦めるか……と、気持ちを切り替えようとしたその時、オレが着ていたパーカーのフードがくいくいと引っ張られた。

「……む?」

「ちょっとカザマ。そこ邪魔。私の席なんだけど」

 きつい言い方とは正反対の、鈴を転がすような声に導かれて振り返る。

 そこには、腰まである長いふわふわの髪の毛に、モデルみたいな整った顔。それから、センスの良さが光るコジャレたワンピースに身を包んだ女子――星名ほしなあんが、腰に手を当てて立っていた。

「げっ。オジョー」

「……っ」

「その呼び方、やめてくれない? 星名杏って名前があるんだからちゃんと名前で呼んでよ」

「へーへー、悪ゥござんした~っと。……いや、つってもさー、オジョーはオジョーじゃん。みんなそう呼んでるし、別にオジョーでよくね?」

 機嫌が悪そうな星名相手に、つい本音をこぼすオレ。

 そもそもなぜコイツが『オジョー』と呼ばれているかというと、コイツんちのオヤジは世界でも有名な〝星名コーポレーション〟の社長で、家もドーム何個分だ? ってくらいにめちゃくちゃデカい。

 登下校はいつも執事付きの専用リムジンだし、当然のようについたあだ名は〝お嬢様〟や〝オジョー〟ってわけ。

「よくない。嫌いなのよ、その呼び方。なんか感じ悪く聞こえるし、バカにされてるみたいでイヤ」

 でもそれが気に入らないみたいで、星名はムッとしたように反論してくる。

「そうかぁ? 別にバカになんかしてねえけど、でも、感じ悪く見えるのは確かかもなぁ」

「なっ」

「だってほら、おまえ、いつもツンとしててにこりとも笑わないじゃん? 周りの女子たちもビビって近寄れないって感じだし、っていうかおまえ、友達いないっしょ?」

「~~~っ」

 思ったことをストレートに伝えると、顔を真っ赤にしてぷるぷるする星名。

「なー、ルカ。おまえもそう思わない?」

「……」

「ルカ?」

「べ、別に僕は、そうは思わないけど……」

 星名が何も言わないので仕方なくルカに話を振ったんだけど……なぜか同じように顔を赤くしているルカは、本で顔を隠しながらボソボソと呟く。

「えー、なんだよー。こういうのはさあ、はっきり言ってやった方が本人のためなんだぜ? どう見てもオジョー、いつもぼっちだし、ほら、もっとこう、花蓮ちゃんみたいにニコニコしてた方が友達できると思うんだよなー」

 腕を組んでうんうんと頷いて見せると、それまで唇をぷるぷると震わせていた星名は、

「別に……友達なんて必要ないし」

 よりいっそう拗ねたように呟いて、ぷいっとそっぽを向いた。

「ほら、そういうとこだってー! つか絶対友達いた方が楽しいぞ。オレ、ルカがいなかったら学校つまんねーと思うし、放課後遊ぶにしてもやっぱ友達と一緒の方が断然盛り上がるしな。……あ、そうそう、昨日もさあ、ばあちゃんの店にハントマコンビが来て、ルカのとった行動がめちゃくちゃ面白くてさー」

 ルカが心配そうな顔をしてこっちをチラチラ見てくるので、少し言いすぎたか? とは思ったけど、変に気を使っても星名のためにならないと思ってオレなりの気遣いでアドバイスをしていると、ふいに星名は、むすっとしながらも興味を示したようにコチラをチラりとみた。

「……ねえ」

「あん?」

「『ばあちゃんの店』って、あの〝ふしぎ堂〟のこと?」

「そうそう! っつかお前、〝ふしぎ堂〟のこと知ってんだ?」

「そりゃ知ってるわよ。ふしぎな商品が売られてる店だって有名だし」

「おっ。おまえ、なかなか見る目あるじゃん! 中古品とかには無縁そうなお嬢様のことだから、ハントマコンビみたいに『がらくた』だの『インチキ商品』だの『呪いの店』だのってバカにしてくるかと思ってたのに」

「確かに怪しいとは思うけど、別にバカになんか……」

「そっか! んじゃ、これやるよこれ、〝三分間爆笑爆弾〟♡ これさー、ここをこう引っ張って相手にぶつけると、ぶつけられた奴は腹が捩れるぐらいゲラゲラ爆笑すんだよね。マジでちょーウケるから。〝不思議〟を信じる奴なら誰にでも扱えるはずだから、三つくらい持っとく?」

「ちょ、い、いらないし、一体何に使うっていうのよ⁉︎ っていうか勝手にポケット入れないでくれる⁉︎ 引っかかってとれないしっ」

「いいからいいから持ってけって! いやまさかさー、お前みたいな金持ちの子どもがうちの神商品を気にしてただなんて思ってもみなかったし、ほら、その勢いでオジョーが〝ふしぎ堂〟の顧客になってくれたらうちも将来安泰じゃん⁉︎」

「べ、別に気にしてただなんて一言も言ってないし、いつもあなたたちが使ってる迷惑千万なオモチャに興味なんかないわよっ。わ、私はただっ」

「またまたァ。本当は気になってたんだろ~⁉︎ あ、それともあれか? 興味はあるけどお嬢様がオモチャ遊びしてるところを見られるだなんて恥ずかしいから興味ないふりしちゃお~みたいな系? 大丈夫大丈夫、別にお嬢様がオモチャで遊んでたってなんとも思わねえし、うちさー、女子向けの商品もいっぱい置いてあんだよね。だから今あげたヤツが面白いと思ったら、今度は店までゆっくり商品見にこいよ。なあ、ルカ?」

「……え。いや、あの」

「モリヤ、困ってるじゃない。っていうか森谷あなたっていつもカザマに振り回されて痛い目遭わされてるようにしか見えないし……この際、振り回されるのは迷惑だってはっきり言ってやったら?」

 オレと星名、両方に詰め寄られて冷や汗を垂らすルカ。

「ちょっ。おいおい、せっかく人がプレゼントまで用意してやったってーのに人聞きの悪いこと言うなよなー! オレとルカはマブダチだし、別に迷惑なんかしてないっつうの。なあルカ⁉︎」

「…………」

「ちょ、おま、無言とかっ。オレとオジョー、どっちの肩持つんだよー⁉︎」

 オレに両肩を掴まれたルカは、微妙な沈黙を作りながら星名をチラ見する。

 星名はむすっとした表情でルカを見つめ返した。

 すると赤い顔のまま目をそらしたルカは、ぼそっと呟く。

「………星名さん」

「あんだとォー⁉︎」

 裏切り者のルカの肩をゆさゆさと揺さぶるオレ。

 星名は『ほらごらんなさい』とでも言うような勝ち誇ったような顔でこっちを見ていたので、オレはくやしまぎれの変顔で威嚇してやった。

 くっそー、ルカめ……。星名からワイロでも受け取ってんのか⁉︎

 あらぬ疑いをかけて口を尖らせていると、教室の扉が開いて「ほら着席―!」と担任が入ってきた。

 オレは慌てて自分の席に座り、星名はオレが陣取っていた席に着席するとどこか赤らんだ顔でそっぽをむき、そしてルカはというと……。

 読んでいた分厚い本に隠れながらも、やっぱりちょっと赤い顔で、目の前に座る星名の背中を密かに眺めていたのだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

スコウキャッタ・ターミナル

nono
児童書・童話
「みんなと違う」妹がチームの優勝杯に吐いた日、ついにそのテディベアをエレンは捨てる。すると妹は猫に変身し、謎の二人組に追われることにーー 空飛ぶトラムで不思議な世界にやってきたエレンは、弱虫王子とワガママ王女を仲間に加え、妹を人間に戻そうとするが・・・

一人芝居

志波 連
児童書・童話
 母と二人で暮らす小春は、ひとりで頑張る母親に反抗的な態度をとってしまう自分が大嫌いでした。  その苛立ちのせいで、友人ともぎくしゃくしてしまいます。  今日こそはお母さんにも友達にちゃんと謝ろうと決心した小春は、ふと気になって会館のある神社を訪れます。  小春たちが練習している演劇を発表する舞台となるその会館は、ずっとずっと昔に、この地域を治めた大名のお城があった場所でした。  非業の死を遂げた城主の娘である七緒の執念が、四百年という時を越えて小春を取り込もうとします。  小春は無事に逃げられるのでしょうか。  死してなお捨てきれない七緒の思いは成就するのでしょうか。  小さな町の小さな神社で起こった奇跡のようなお話しです。  他のサイトでも投稿しています  表紙は写真ACより引用しました

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...