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「うっし、乾杯しよーぜー!」


あれから二人、肩を並べて歩きながら
お互いに軽い自己紹介をしつつ、ここの居酒屋までやってきた。


桜庭 ひろみつさん

今年で33歳。
だけど、童顔でクリクリした黒目がちな瞳とか
お肌のツヤが相まってとてもじゃないけどそうは見えない。

今日振られたばかり。
浮気してる自覚がないっていう
結構なチャラさというか適当さ。


「ていうか、何に乾杯ですか?」


ビールジョッキをカチン、と当てる寸前で止めてそう聞くと
一瞬目をキョロっとさせて考えた。



「失恋記念に」

「ええ?!それ全然おめでたくな、
「かんぱーい!」

「か、かんぱーい……、」


私の言葉をかき消した勢いで乾杯を済ませちゃうと
ぷはーっ!ってそれはそれはおいしそうにアルコールを流し込む。



「うんっま!」

「私もいただきまーす。」


すっかり色々あって酔いが冷め気味だったし
私も負けずにアルコールを喉に流し込んだ。



「っはぁ~、おいしいっ」

「なぁなぁ、何か頼もうぜっ」

「ご飯食べてないんですか?」

「うん、食ってない。
まいは?食った?」


ペラペラーってメニューを開きながら
もの凄くナチュラルに名前を呼び捨てにしたよ、この人。

・・いやまぁ、別に駄目とかじゃないけど。


「さっきちょこっと食べました」

「へぇ、そっか。
じゃあ適当に頼んでい?」

「うん、どうぞ~」


またおいしそうにビールをたいらげてから
店員さんを呼んで
ビールのおかわりと、料理を何品か頼む彼を眺めながら
私もちびちびとアルコールを口にした。



「ていうか、大丈夫ですか?」

「ん?なにが?」


お待たせしましたー、ってビールが届いて
ありがと、ってさり気なく店員さんにお礼を告げるとこ。

やっぱチャラいけどいい人そうだよな~、なんて思いながら
左頬を指さした。


「ほっぺた、赤くなってますよ?」


さっきまでは暗い夜道だったから気付かなかったけど
こうして店の中でよくよく見てみると
ほんのり赤くなってるほっぺた。


「あぁ、平気平気。
酒で痛み鈍るから」

「えぇ?
お酒で痛み紛らわすとか駄目ですよ?」

「てかそんな痛くもねぇし」


でも、痛そう。
本人は平然としてるけど
さっきの光景を思い出すと、こっちが痛くなる。



「これでちょっと冷やしましょ!
少しはマシになるかも!」


テーブルに置いてある冷たいおしぼりを手に取って
少し身を乗り出し、向かい側に座る彼の頬に押し当てた。

おしぼり越しに感じたほっぺたの柔らかさに
可愛いな~、とか思ったり。


「つめてぇ~…」

「でしょ?これで赤みは引くかも」


ビンタされた経験はないけど
ちっちゃい頃によく腕とかぶつけた時にお母さんにしてもらった技が役立った!

と、ドヤしていると


「っふ、」


吹き出すように笑うから
赤い頬から目元へと視線をうつした。


「え?」

「いや、なんかいいな」

「……なにがですか?」


そんなにいいの?
赤くなった頬を冷やすのが
そんなにいい技か…?


「いや、まぁいいや」

「え?!ちょっ、自己完結させないで?!」

「まぁまぁ、飲め飲め」


後は俺が押さえとくからいいよ、って
おしぼりを押し当ててる私の手を包み込んでくる彼の手のひらに
慌てて腕を引っこめた。
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