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「また浮気したの?!」

「だから、してねぇって」

「うそ!してたっ!」

「なんでそんな

──バチンッ、!

「……ってぇ…、」

「さようなら!!」


・・・わお。

帰り道の途中、道端で繰り広げられていたその光景に
思わず立ち止まって見入ってしまった。


「……なんなんだよ…、」


ビンタされた左頬を抑えながら
不貞腐れたように急に振り返ってくるから
暗闇の街灯の下、瞬間的に
バチッ、と目が合った。


「・・・」
「・・・」


お互い見つめ合ったまま数秒間。


「………ど、どうも…、」

「…こんばんは」


やばい。
やばいぞ。

この空気に耐えられず意味不明な挨拶を交わしたものの
とりあえずここから逃げ出したい、
関わりたくない。

一歩、二歩…、と少しずつ後退り。
逃げるが勝ちだ、

「見た?」

「へっ?」

せっかく少し後退った距離を
いとも簡単にひょいっと埋めてきて、


「今の、見た?」


気付けば目の前にいたその彼は
私を見下ろしてそう言った。


「……あ、い、いえ…、
な、なにも……、」

「うっそ、見てたでしょ?」

「み、見てないですっ、!」

「女の子ってさー、面倒くさいよね」


私の話聞いてる?ってくらい
グリン、と話を変えたその人に
後退るのも忘れて、その綺麗な顔に見入ってしまう。


「えっとあの……どういうことですか?」

「浮気なんてしてないのにさ~。
女の子が寄ってきたから、ちょっと遊んだだけだったのに」


・・・それを浮気というのでは。


「だからもう面倒くせぇなーって」

「そ、そうですか…、」

「お姉さんは?
彼氏とかいるの?あ、もはや結婚とかしてる?」

「いえ、全然…、っていうか今日──、

”振られたばっかです”
って、言おうとして思わずハッと口を紡いだ。


「あ、もしかして俺と同じ?
振られたとか?」

「えっ、なんで分かっ、
あ───、」


図星だったことでまた要らぬことまで見知らぬ人にご報告してしまったことに
また慌てて口を紡ぐも、時すでに遅し。

へぇ~、ってニヤリ
楽しそうに笑った。


「すげぇな。
同じ日に振られてる相手と出くわすなんて」

「…ですね。
ぜんっぜん嬉しくない出会いですけど」

「んはは、確かに」

「世の中にいるもんなんですね~。
同じ日に振られてる人って」

「そりゃいるだろ。
今この瞬間も、振られてる人もいれば幸せ手にしたやつもいるだろうし」

「・・・」


そっかぁ…、
幸せを手にしてる人、かぁ…。
どうして私はその
”幸せを手にした人”に入れないのかな。



「飲みにでも行く?」

「…へ?」

「俺このまま帰んのやだもん」


振られて一人で帰るとか虚しー、とか言って笑ったその笑顔はとんでもなく可愛くて
悪い人には見えないし
さっきまでのお酒の力も手伝ってか
自然と大きく頷いてた。
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