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「え、なに、なんで笑うの」
「ふふ、ごめん。可愛くて」
「さっきのカナさんのがよっぽど可愛かったけど」
「………、」
少し照れながらそう言うから
寄り添ってた体をさらに密着させて、ぎゅーって抱きついた。
人肌が久しぶりだからか
すごく安心する。
「北川くんさ、」
「うん?」
背中を撫でれば
すべすべだなぁ、って思いながら
「私の都合のいい男にならない?」
「へ?」
思いきったことを口に出してみた。
案の定驚いた顔をしてるから
その間抜けに開いてる唇に、チュッて触れるだけのキスを落とした。
「北川くん、彼女いないでしょ?
彼女出来るまででいいから、私の事都合のいい女にしてくれないかなーって」
「…………そこは彼女にして、じゃなくて?」
「うん。
別に彼女になりたいわけじゃないから」
"彼女"っていうポジションが嫌い。
だってそのポジションについてしまったらいつか別れが来るのが怖いし
裏切られたり、悲しみたくない。
だったらいっそ割り切った関係で
何があっても、しょうがないかって気楽に思ってたい。
「………いや、そんなん女が言うセリフじゃなくないっすか?」
「でも私はそうしたいんだもん。
したくなったらいつでも呼んでいいし、私をなによりも優先してなんて言わないし」
「…………、」
言葉を失ったのか無言になる彼に
引かれちゃったかな…、って少し不安になる。
でも、なぜだかどうしても北川くんがいい。
他の人じゃなくて
北川くんに都合のいい男になって欲しい。
「…………だめ?」
すべすべの背中から適度に鍛えられてる胸元へ手を滑らせて
上目遣いに見上げた。
すると、北川くんもぎゅーって私を抱き寄せてきて
「ダメなわけないじゃん」
って。
この日から
私と北川くんの
奇妙な都合のいい関係が始まった。
━━━北川side
「よっ、抜け駆け男」
あれから週末が過ぎて月曜日。
出社すると後輩の長谷川がうりゃうりゃと肘で俺をつついてきた。
「抜け駆け?」
「金曜の飲み会のあと
カナさんと抜け出してたでしょ?」
「あぁ……」
「いいよなぁ、なにおいしいとこ持っていってんすか」
「別においし…………、」
かったか。
相当おいしかった、奇妙ではあるけどおいしかった。
「付き合うの?」
「いや、そんなんじゃねぇんだけど」
「え?まさかの同じ職場で気まずい感じ?」
「いや、気まずくもねぇけど………」
"都合のいい男になりました"だなんて
なんつーのか、男のプライドとして言いづらいというか。
だからといって
カナさんを都合のいい女にしました、とも言いたくねぇし。
「ま、どうでもいいだろ。
それより今日の会議の資料まとめた?」
「あ、」
「早くしろよ、昼までだぞ」
あーい、って緩く返事をする長谷川の背中を押してエレベーターに押し込むと
会社の入り口にカナさんの姿が見えたから
そのままエレベーターの扉を閉めて、彼女のもとへと駆け寄った。
「おはようございます」
「あ、おはよー」
いつもと変わらない笑顔。
いつもと変わらない雰囲気。
それなのに、金曜日の夜を思い出すだけで
違う雰囲気を纏っているように見える。
「今日も寒いね~、
ホッカイロ背中とお腹に二枚貼りしてきちゃった」
ほら、ってペロンっていきなりインナーに貼ってるホッカイロを見せつけてくるから
何してるんすか、ってなぜか俺が慌てて捲られた上着を無理やり下に押し戻した。
「あ、なんかこういうの平気で見せちゃうとこおばさんっぽいね」
「………逆っすよ」
むしろ今そうやって無邪気に見せられたお腹辺りにですら
動揺してるおれはなんなんだよ。
「ふふ、ごめん。可愛くて」
「さっきのカナさんのがよっぽど可愛かったけど」
「………、」
少し照れながらそう言うから
寄り添ってた体をさらに密着させて、ぎゅーって抱きついた。
人肌が久しぶりだからか
すごく安心する。
「北川くんさ、」
「うん?」
背中を撫でれば
すべすべだなぁ、って思いながら
「私の都合のいい男にならない?」
「へ?」
思いきったことを口に出してみた。
案の定驚いた顔をしてるから
その間抜けに開いてる唇に、チュッて触れるだけのキスを落とした。
「北川くん、彼女いないでしょ?
彼女出来るまででいいから、私の事都合のいい女にしてくれないかなーって」
「…………そこは彼女にして、じゃなくて?」
「うん。
別に彼女になりたいわけじゃないから」
"彼女"っていうポジションが嫌い。
だってそのポジションについてしまったらいつか別れが来るのが怖いし
裏切られたり、悲しみたくない。
だったらいっそ割り切った関係で
何があっても、しょうがないかって気楽に思ってたい。
「………いや、そんなん女が言うセリフじゃなくないっすか?」
「でも私はそうしたいんだもん。
したくなったらいつでも呼んでいいし、私をなによりも優先してなんて言わないし」
「…………、」
言葉を失ったのか無言になる彼に
引かれちゃったかな…、って少し不安になる。
でも、なぜだかどうしても北川くんがいい。
他の人じゃなくて
北川くんに都合のいい男になって欲しい。
「…………だめ?」
すべすべの背中から適度に鍛えられてる胸元へ手を滑らせて
上目遣いに見上げた。
すると、北川くんもぎゅーって私を抱き寄せてきて
「ダメなわけないじゃん」
って。
この日から
私と北川くんの
奇妙な都合のいい関係が始まった。
━━━北川side
「よっ、抜け駆け男」
あれから週末が過ぎて月曜日。
出社すると後輩の長谷川がうりゃうりゃと肘で俺をつついてきた。
「抜け駆け?」
「金曜の飲み会のあと
カナさんと抜け出してたでしょ?」
「あぁ……」
「いいよなぁ、なにおいしいとこ持っていってんすか」
「別においし…………、」
かったか。
相当おいしかった、奇妙ではあるけどおいしかった。
「付き合うの?」
「いや、そんなんじゃねぇんだけど」
「え?まさかの同じ職場で気まずい感じ?」
「いや、気まずくもねぇけど………」
"都合のいい男になりました"だなんて
なんつーのか、男のプライドとして言いづらいというか。
だからといって
カナさんを都合のいい女にしました、とも言いたくねぇし。
「ま、どうでもいいだろ。
それより今日の会議の資料まとめた?」
「あ、」
「早くしろよ、昼までだぞ」
あーい、って緩く返事をする長谷川の背中を押してエレベーターに押し込むと
会社の入り口にカナさんの姿が見えたから
そのままエレベーターの扉を閉めて、彼女のもとへと駆け寄った。
「おはようございます」
「あ、おはよー」
いつもと変わらない笑顔。
いつもと変わらない雰囲気。
それなのに、金曜日の夜を思い出すだけで
違う雰囲気を纏っているように見える。
「今日も寒いね~、
ホッカイロ背中とお腹に二枚貼りしてきちゃった」
ほら、ってペロンっていきなりインナーに貼ってるホッカイロを見せつけてくるから
何してるんすか、ってなぜか俺が慌てて捲られた上着を無理やり下に押し戻した。
「あ、なんかこういうの平気で見せちゃうとこおばさんっぽいね」
「………逆っすよ」
むしろ今そうやって無邪気に見せられたお腹辺りにですら
動揺してるおれはなんなんだよ。
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