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三章 魔法学園 一年生
✿ 第26話:二学期開始
しおりを挟む「それじゃあ、行ってくるね~」
「三人ともまたなーっ!」
「二学期も応援してるわね♪ 」
今日は二学期の始業式。
久しぶりに着た魔法学園の制服は、もう何度も身にまとって居たはずなのに、少し新鮮な感覚だ。
私は今日、輝・蒼空と三人で一緒に登校することになっている。元々一緒に行く気は無かったけど、蒼空からの猛烈にお願いされたのだ。
『いつも幼馴染たちで居るだろ?折角入学したんだから、たまには俺とも通学しよう!!』
『そうだね~、たまには一緒に行きたいな』
『ホントか輝っ!』
『私は一人で、』
『咲来も一緒に行くってさ』
『ほ、本当か!?やったぁぁ~~っ!!』
あの時の小悪魔フェイスは、今でも忘れられない。
これだから輝は、私にとって厄介な存在なのだ。私が何か言う前に先回りして状況を変えられないようにしてくる。
私を知り尽くしているからこそのあの行動……あんなに蒼空に喜ばれたら、私に拒否権が存在するわけが無い。それを彼は分かっていたのだ。
家族と別れを告げて改札を通り抜けると、あっという間に学園の最寄り駅に到着した。
先程まで家の温もりに包まれていたのに、改札に着いてから一瞬でこの場所に立っているというのは、いくら慣れた感覚でも少し夢みたいな感じがする。
駅や改札の様子は、魔法世界と人間世界では全く違う。電車や飛行機とは訳が違う。魔法だし、瞬間移動みたいなもんだと言った方が説明しやすそうだ。
9月になったとはいえ、実際にはまだ夏の名残が色濃く残っている。今日も日差しは強烈で、じんわりとした湿気が肌にまとわりつく。
その感覚は、瞬時にして私を不快にさせ、思わず駅の中に戻りたいという衝動が頭をよぎる。しかし、そんなことを言ってられない。
私たちは、駅から出て、様々な学年の学園生が行き交う人混みの中を歩き始めた。
周囲の賑やかな声や、楽しげな笑い声が耳に入ると、私はその人混みに身を委ねていった。
蒼空は学年のムードメーカーで、熱血という二文字がぴったりだ。純粋で真っ直ぐな性格は周囲の人々を引き寄せ、笑顔を絶やさない。
そんな彼の人気は、他クラスの後輩である私の耳にも自然に届いてくる位だ。
そして、彼は「学園一のブラコン」と称されるほどの兄妹愛をどこでも振りまく。
私は困っているけど……。
一方、輝もまた何だかんだで人気者だ。
彼は誰とでも気軽に会話を交わし、誰に対しても普通に接することができる。
どんな相手でもある程度の関係性を保てるタイプで、そのオープンな姿勢は春風ともどこか似ている気がする。
そもそも「花柳」という家門は、魔法世界で名を馳せている。だから、私たち三人がこうして一緒にいるだけで、周囲の視線が自然と集まってしまうのだ。
「あ、アレ花柳兄妹じゃないか?」
「闇魔法師の人と一緒なのね……二人共、大丈夫なの?」
誰かが囁く声が耳に届く。その声には驚きと興味が混ざり合い、周囲の人々が私たちの方へと視線を向けているのがわかる。
やっぱり、私たちは注目の的になっている。
周囲の視線がじわじわと感じられ、それは暑さと一緒に嫌な汗になって、私の体にだらだらと流れる。
私はこういう状況で誰かと居るのが、本当に嫌なんだ。
誰かから「闇魔法師と一緒に居るんだ」と言われてしまう……一緒にいるその相手は、私のせいで、嫌な思いをするんだから。
「やっぱり、一人の方が良かった気がする」
私がはぁとため息を着くと、真横から大きすぎる声が耳にキーンと響いてきた。
「さ、咲来~っ!折角二人と一緒に通学出来るのに、そんな寂しい事を言わないでくれ~!!」
「そうだよ、蒼空ずっと俺たちと通学したがってたじゃない」
「いや、それは知ってるし二人と通学するのは良いから……」
別に、一緒に通学するのが嫌とは言っていない。
私と一緒に居て欲しくないって言っているだけだ。
結局それは嫌と言っているのと同じかもしれないけど。
それが伝わってるのか伝わってないのかは……正直分からない。伝わった所で聞かないのが、私の周りに居る人たちなのだ。
信号待ちで立っていると、ポケットに入れているスマホがブーブーと振動する。
私がスマホの画面をつけると、通知欄には幼馴染のグループトークが表示されている。どうやら私と輝以外でずっと喋っていたようだ。
「鈴音とりんはもう学校に居るみたい。陽太も寮だって」
「あれ、俺たちより早いんだな?鈴音はともかく、りんと陽太は早起き苦手じゃなかったか?」
「多分、楽しみで早起きしたんじゃない?だって二学期は……」
*
「皆さん、宿題はちゃんとやって来ましたか?」
大庭先生が宿題の話を切り出すと、教室中が一瞬にしてざわめき始めた。みんなが「うわ~」と唸る様子から、宿題に対する嫌悪感がひしひしと伝わってくる。
私からすると宿題は面白いけれど……それも、勉強が得意だからこそ感じられる事だ。もし宿題がマラソン100周とかだったら、私も絶望していただろう。
「二学期からは魔法の座学も始まって、普通の人間より学ぶことが多いです。無理はダメだけど、しっかり着いて行けるようにねっ!」
後ろの席からでもはっきりと見える。目をキラキラと輝かせているりんと、そんなりんを見て微笑んでいる鈴音の様子が。
私の席は左側の一番後ろだけど、鈴音は右側の真ん中、りんはその前の方に座っている。だから私からも何となく見えるのだ。
りんは魔法が好きだから、早く習いたくて仕方ないのだろう。だから今日も学校が楽しみで早起きだったのだ。
鈴音も楽しみにしているみたいだったし、りんに同調しているはずだ。
私も楽しみは楽しみだ。しかし先回りして勉強しすぎていて、授業で習うことの大半はもう知っている内容だろう。
だからこそ、魔法の授業でも成績が1位になるように、しっかりと努力しなければならないのだけど。
「じゃあ席の後ろの人から宿題回収してね~!」
先生の声が響くと、生徒はみんな宿題を流し始める。私も前の人に渡そうとした……のに、何故か彼女は後ろを振り向こうとしない。
「……あの、西ケ谷さん?」
声をかけても、彼女は無反応だ。
何だろう?と周りの視線が彼女に集まった瞬間、ガクッと彼女の頭が落ちて、机と額が大きな音を立ててぶつかった。
「ぅぃたた……」
彼女は小さく欠伸をしながら、額をさすり始める。
すると誰かがフフっと笑い、やがてその笑いは瞬時にクラス中に広がっていった。先生もやれやれ……という表情を浮かべている。
「コラコラ、新学期早々居眠りしちゃダメよ?」
「あは、ごめんねせんせ~。花柳さんもごめんねぇ」
「そんな事より西ケ谷さん、すごく額が赤いですけど……」
「うん。すっごく痛かったよ~」
痛いのは分かっている。音を聞けば、私もその衝撃を想像できる。
……まぁ、反応的には多分平気なんだろうけど。
「あまり痛いなら、後で冷やした方がいいですよ」
「そうだねぇ。ありがとう~」
西ケ谷音羽は、一学期からずっとこんな感じだ。
彼女はマイペースな性格で、それがどこか掴み所がない。柔らかい雲のように、ふわふわとした印象だ。
おっとりとした感じのりん……ほわほわさが増した優梨……みたいな感じだろうか?
身近な人で例えるのが難しいくらい、本当に周りにいないタイプなのだ。
私が宿題を渡すと、彼女はそのまま自然な動作で前の席へと手渡していく。
先生が全ての宿題を回収し終えると、突然「これ、分厚さが足りないような……」と、少し困惑した様子で呟いあり
その言葉が教室に響き渡ると、瞬時に周囲に緊張感が走る。忘れてきたであろう人たちは、顔色を失い、冷や汗をダラダラとかき始めていた。
そしてチャイムが鳴り響き、休み時間が訪れるや否や、彼らは一斉に先生の元へ駆け寄り泣きついていた。
みんな、絶対に宿題は7月に終わらせた方が楽なのに……そんな思いが頭をよぎった瞬間、私はふと双子と同じクラスの聖女様を思い出した。
一昨日は宿題が全然進んでいないと聞いていたけれど、一応ちゃんと終わらせたらしい。でもその代わり、弟と遊ぶために徹夜をしたなんて言っていた。
きっと今頃は西ケ谷さんと同じように、睡魔と戦っているんじゃないだろうか。
でも、それで額をぶつけたとしても、私は彼女に同情しない。私はちゃんと「宿題はやりなよ」と何度も言っていたのに、あの人は全然やらなかったのだから。
しかしあの聖女様、信じられないことに「今まで休み中に宿題終わらせたことない」と言っていた。
そんな彼女が全て終わらせたというのだから、今までよりは何倍もマシなのかもしれない。
休み時間のチャイムが鳴り響いた後の教室は、久しぶりの再会を祝うかのように、話し声や笑い声が響き渡っている。
暑い日差しも室内からだと、教室の中を明るく照らす光に過ぎない。
今日は始業式の日だから、授業はない。
だけど、明日からは本格的な授業が再開する。
授業のことを考えると、既に気持ちを引き締めてしまう。
全ての教科でしっかりと復習をして、魔法の成績も含めて、今学期も完璧な成績を目指すんだ……体育以外は。
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