魔法使いの相棒契約

たるとたたん

文字の大きさ
上 下
31 / 42
三章 魔法学園 一年生

✿ 第26話:二学期開始

しおりを挟む



「それじゃあ、行ってくるね~」
「三人ともまたなーっ!」
「二学期も応援してるわね♪ 」


 今日は二学期の始業式。
 久しぶりに着た魔法学園の制服は、もう何度も身にまとって居たはずなのに、少し新鮮な感覚だ。

 私は今日、ひかる蒼空そらと三人で一緒に登校することになっている。元々一緒に行く気は無かったけど、蒼空からの猛烈にお願いされたのだ。


『いつも幼馴染たちで居るだろ?折角入学したんだから、たまには俺とも通学しよう!!』
『そうだね~、たまには一緒に行きたいな』
『ホントか輝っ!』
『私は一人で、』
『咲来も一緒に行くってさ』
『ほ、本当か!?やったぁぁ~~っ!!』


 あの時の小悪魔フェイスは、今でも忘れられない。
 これだから輝は、私にとって厄介な存在なのだ。私が何か言う前に先回りして状況を変えられないようにしてくる。

 私を知り尽くしているからこそのあの行動……あんなに蒼空に喜ばれたら、私に拒否権が存在するわけが無い。それを彼は分かっていたのだ。



 家族と別れを告げて改札を通り抜けると、あっという間に学園の最寄り駅に到着した。
 先程まで家の温もりに包まれていたのに、改札に着いてから一瞬でこの場所に立っているというのは、いくら慣れた感覚でも少し夢みたいな感じがする。
 
 駅や改札の様子は、魔法世界と人間世界では全く違う。電車や飛行機とは訳が違う。魔法だし、瞬間移動みたいなもんだと言った方が説明しやすそうだ。


 9月になったとはいえ、実際にはまだ夏の名残が色濃く残っている。今日も日差しは強烈で、じんわりとした湿気が肌にまとわりつく。
 その感覚は、瞬時にして私を不快にさせ、思わず駅の中に戻りたいという衝動が頭をよぎる。しかし、そんなことを言ってられない。

 私たちは、駅から出て、様々な学年の学園生が行き交う人混みの中を歩き始めた。
 周囲の賑やかな声や、楽しげな笑い声が耳に入ると、私はその人混みに身を委ねていった。


 蒼空は学年のムードメーカーで、熱血という二文字がぴったりだ。純粋で真っ直ぐな性格は周囲の人々を引き寄せ、笑顔を絶やさない。
 そんな彼の人気は、他クラスの後輩である私の耳にも自然に届いてくる位だ。

 そして、彼は「学園一のブラコン」と称されるほどの兄妹愛をどこでも振りまく。
 私は困っているけど……。


 一方、輝もまた何だかんだで人気者だ。
 彼は誰とでも気軽に会話を交わし、誰に対しても普通に接することができる。
 どんな相手でもある程度の関係性を保てるタイプで、そのオープンな姿勢は春風ともどこか似ている気がする。 


 そもそも「花柳」という家門は、魔法世界で名を馳せている。だから、私たち三人がこうして一緒にいるだけで、周囲の視線が自然と集まってしまうのだ。


「あ、アレ花柳兄妹じゃないか?」
「闇魔法師の人と一緒なのね……二人共、大丈夫なの?」

 誰かが囁く声が耳に届く。その声には驚きと興味が混ざり合い、周囲の人々が私たちの方へと視線を向けているのがわかる。

 やっぱり、私たちは注目の的になっている。
 周囲の視線がじわじわと感じられ、それは暑さと一緒に嫌な汗になって、私の体にだらだらと流れる。

 私はこういう状況で誰かと居るのが、本当に嫌なんだ。
 誰かから「闇魔法師と一緒に居るんだ」と言われてしまう……一緒にいるその相手は、私のせいで、嫌な思いをするんだから。


「やっぱり、一人の方が良かった気がする」


 私がはぁとため息を着くと、真横から大きすぎる声が耳にキーンと響いてきた。


「さ、咲来~っ!折角二人と一緒に通学出来るのに、そんな寂しい事を言わないでくれ~!!」
「そうだよ、蒼空ずっと俺たちと通学したがってたじゃない」
「いや、それは知ってるし二人と通学するのは良いから……」


 別に、一緒に通学するのが嫌とは言っていない。
 闇魔法師と一緒に居て欲しくないって言っているだけだ。
 結局それは嫌と言っているのと同じかもしれないけど。

 それが伝わってるのか伝わってないのかは……正直分からない。伝わった所で聞かないのが、私の周りに居る人たちなのだ。


 信号待ちで立っていると、ポケットに入れているスマホがブーブーと振動する。
 私がスマホの画面をつけると、通知欄には幼馴染のグループトークが表示されている。どうやら私と輝以外でずっと喋っていたようだ。


「鈴音とりんはもう学校に居るみたい。陽太も寮だって」
「あれ、俺たちより早いんだな?鈴音はともかく、りんと陽太は早起き苦手じゃなかったか?」
「多分、楽しみで早起きしたんじゃない?だって二学期は……」











「皆さん、宿題はちゃんとやって来ましたか?」


 大庭おおにわ先生が宿題の話を切り出すと、教室中が一瞬にしてざわめき始めた。みんなが「うわ~」と唸る様子から、宿題に対する嫌悪感がひしひしと伝わってくる。

 私からすると宿題は面白いけれど……それも、勉強が得意だからこそ感じられる事だ。もし宿題がマラソン100周とかだったら、私も絶望していただろう。


「二学期からは魔法の座学も始まって、普通の人間より学ぶことが多いです。無理はダメだけど、しっかり着いて行けるようにねっ!」


 後ろの席からでもはっきりと見える。目をキラキラと輝かせているりんと、そんなりんを見て微笑んでいる鈴音の様子が。

 私の席は左側の一番後ろだけど、鈴音は右側の真ん中、りんはその前の方に座っている。だから私からも何となく見えるのだ。


 りんは魔法が好きだから、早く習いたくて仕方ないのだろう。だから今日も学校が楽しみで早起きだったのだ。
 鈴音も楽しみにしているみたいだったし、りんに同調しているはずだ。

 私も楽しみは楽しみだ。しかし先回りして勉強しすぎていて、授業で習うことの大半はもう知っている内容だろう。
 だからこそ、魔法の授業でも成績が1位になるように、しっかりと努力しなければならないのだけど。


「じゃあ席の後ろの人から宿題回収してね~!」


 先生の声が響くと、生徒はみんな宿題を流し始める。私も前の人に渡そうとした……のに、何故か彼女は後ろを振り向こうとしない。


「……あの、西ケ谷にしがやさん?」


 声をかけても、彼女は無反応だ。
 何だろう?と周りの視線が彼女に集まった瞬間、ガクッと彼女の頭が落ちて、机と額が大きな音を立ててぶつかった。


「ぅぃたた……」


 彼女は小さく欠伸をしながら、額をさすり始める。
 すると誰かがフフっと笑い、やがてその笑いは瞬時にクラス中に広がっていった。先生もやれやれ……という表情を浮かべている。


「コラコラ、新学期早々居眠りしちゃダメよ?」
「あは、ごめんねせんせ~。花柳さんもごめんねぇ」
「そんな事より西ケ谷さん、すごく額が赤いですけど……」
「うん。すっごく痛かったよ~」

 痛いのは分かっている。音を聞けば、私もその衝撃を想像できる。
 ……まぁ、反応的には多分平気なんだろうけど。


「あまり痛いなら、後で冷やした方がいいですよ」
「そうだねぇ。ありがとう~」


 西ケ谷にしがや音羽おとはは、一学期からずっとこんな感じだ。

 彼女はマイペースな性格で、それがどこか掴み所がない。柔らかい雲のように、ふわふわとした印象だ。

 おっとりとした感じのりん……ほわほわさが増した優梨……みたいな感じだろうか?
 身近な人で例えるのが難しいくらい、本当に周りにいないタイプなのだ。


 私が宿題を渡すと、彼女はそのまま自然な動作で前の席へと手渡していく。
 先生が全ての宿題を回収し終えると、突然「これ、分厚さが足りないような……」と、少し困惑した様子で呟いあり

 その言葉が教室に響き渡ると、瞬時に周囲に緊張感が走る。忘れてきたであろう人たちは、顔色を失い、冷や汗をダラダラとかき始めていた。
 そしてチャイムが鳴り響き、休み時間が訪れるや否や、彼らは一斉に先生の元へ駆け寄り泣きついていた。


 みんな、絶対に宿題は7月に終わらせた方が楽なのに……そんな思いが頭をよぎった瞬間、私はふと双子と同じクラスの聖女様春風を思い出した。

 一昨日は宿題が全然進んでいないと聞いていたけれど、一応ちゃんと終わらせたらしい。でもその代わり、弟と遊ぶために徹夜をしたなんて言っていた。


 きっと今頃は西ケ谷さんと同じように、睡魔と戦っているんじゃないだろうか。
 でも、それで額をぶつけたとしても、私は彼女春風に同情しない。私はちゃんと「宿題はやりなよ」と何度も言っていたのに、あの人は全然やらなかったのだから。

 しかしあの聖女様、信じられないことに「今まで休み中に宿題終わらせたことない」と言っていた。
 そんな彼女が全て終わらせたというのだから、今までよりは何倍もマシなのかもしれない。



 休み時間のチャイムが鳴り響いた後の教室は、久しぶりの再会を祝うかのように、話し声や笑い声が響き渡っている。
 暑い日差しも室内からだと、教室の中を明るく照らす光に過ぎない。


 今日は始業式の日だから、授業はない。
 だけど、明日からは本格的な授業が再開する。

 授業のことを考えると、既に気持ちを引き締めてしまう。
 全ての教科でしっかりと復習をして、魔法の成績も含めて、今学期も完璧な成績を目指すんだ……体育以外は。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...